liruk石版-3

【芽生えし双葉のシリコン街――手記】

 ――心臓が、ささやかに反抗している――などと考えていた気がする。
 あの日は薄曇りだったか、黒雲だったか。私の記憶ではそんな感じの天気であった。事実はともかく、そう思えるくらいには絶不調だった。
 とにかく、私は仕事を終えて帰宅しようとしていた。仕事と言っても、脳がストライキを起こし、目は敵前逃亡。全身の筋肉はメドゥーサに睨まれたカエルめいて軋んでしまい、まるで何も出来なかったはずだ。
 だがとりあえず勤務時間は終えた。帰って休もう。今日はもうゲームも読書もやめ、とにかく脳みそを使わないようにしよう……と。
 まあ、そうだ。結果として、そうなった。というか、目の情報を脳で処理できていないのだから、当然バランスを崩して倒れるだろうね。辛うじて壁にもたれかかった私をボスが発見し……送還され……今に至る。なんというか、「不甲斐ない」って言葉に尽きるよな。
 齟齬があるとすれば、私がただのプログラムだってことだ。だから脳はプロセッサだし、目はカメラ。筋肉はアクチュエータで……つまり……仕事のできなかった私は、これからオーバーホールされて、ソフトウェアも更新される。私の自我、なにかの間違いで次代に受け継いでもらえないかな。今となってはそこだけが心配なのよね。

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