宇宙人にさよならを言った日。
さっぱり書けなかった。
途中まで書いて放置された下書きが大量にたまっている。
時が過ぎて状況が変わり、公開するほどでも無くなったものが半分、残りは私の言葉がまとまらなかったものたちだ。
今日こそは、そこら中に散らかっている言葉や気持ちをかき集めて、区切りとしよう。
ほんの数週間前のことだ。
私は宇宙人にさよならと言った。
その時は突然に訪れて、とてもあっけないものだった。
あるデートの前日に、彼から色々と事務的な用事を頼まれ「明日、まずはそれらを宜しく!」とのLINEが来た。
今に始まった事ではなかったが、会うたびと言っていいほど頼まれ事をされるのに少々疲れていた。
「なるべく自分で出来ることは自分でしてほしい」と返す。
事務処理ばかりでは私は楽しくないと続けると、宇宙人は怒り出した。
そんな些細なことがきっかけで、彼は「あなたの家にある私物を取りに行く。もう不要ですから。」と言い出したのだ。
以前にも似たようなことがあったが、その時の私は終わるはずが無いと確信していたし、その後も関係は続いた。
けれど、今回ばかりは、私の奥底が、
「終わりにしよう。」と、とても静かなハッキリとした声で私に語りかけてきた。
疑う余地の無いほど、確かに「終わり」を示してきたのだ。
日常の不満が積み重なると、こんなに些細なことで関係が崩れるものなのかと、不思議な気持ちでもある。
私は、彼とお別れるする時のためにメモしていたさよならのメッセージを宇宙人に送り、
「この後の事務連絡はメールにください」とした。
LINEはブロックした。
こうして私たちの恋愛は終わったのである。
彼はいつものごとく、突発的にあの言葉を口走ったことだろう。
またいつもの日常が戻ってくるとどこかで考えていたのだろう。
けれど、私が終わりと言ったら、それは本当に終わりなのだ。
一度口にしたら取り消せないことだってあるのにと、心の中で彼に話しかけてみる….
この別れは明確なもので、
彼への恋愛感情が再び芽生えることは限りなく無いに等しいだろう。
けれど、私の一部の感情は、
「こんな最後は不本意だ」と激しく訴えかけてくるのだ。
彼のことを私はこの先もずっと好きだろう。
それは、人間として、宇宙人としてだ。
これほどまでに私の好奇心が掻き立てられ、面倒で、憎めない存在も稀である。
続けようと思えば、きっといつまでもダラダラと関係は続くことだろう。
でも、私は、
有限の時を、有限の関係を、
刻々と過ぎていく若い日々や心を尽くして全うする愛し方を貫きたかった。
本当に有難いことに、良い時も悪い時も全て経験できたように思う。
だから、もう充分なのだ。
宇宙人は、家族や他の女性たちの存在について一切私の前で語らず、また匂わせることすら無かった。
私の前で彼の心はとても自由だった。
まるで何のしがらみもない男女のように、ささやかな時間を分かち合った。
そのことをいつも何よりも感謝していた。
好きだとも愛しているとも言われたことはなかったが、何も言わない彼の姿勢を、彼が示すことのできる唯一の「誠意」であったことを私は知っている。
だから私も何も問いたださなかったし、何も指摘しなかった。
わからないフリに徹した。
私が宇宙人と過ごした数年間は、友人や知人の間では「名無し子に恋人のいなかった空白の時間」と言うことになっている。
はたから見たら無いに等しかったその期間には、生涯忘れることのできないであろう、愛おしさと寂しかった気持ちが詰まっている。
私が見る景色の中には無くて、誰かが見つめる先には確かに在るもののことについて、寛容でありたいと願うようになった。
名前の無いものや、定義されていないものも誰かの世界に宿れば生きることを私は身を持って知ったからだ。
すばらしい学びの日々を過ごした。
宇宙人が、「僕はあなたにとても興味がある」と楽しげな瞳で語りかけてきたあの日、素直に受け入れた自分の選択を私は心底誇りに思っている。
季節は移ろうものだし、終わらない物語は無いのだから、意志を持って筆を置くべきだろう。
いつか
私が人間を超越するくらい年老いた頃….
自分に興味を持ったひとりの宇宙人が空から降りてきた話を、まことしやかに語れる日を楽しみに、このお話を終わりとする。
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