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シュナン・ブランな女

シュナン・ブランのことを書くのには、少し時間を要す。端的に言って「よくわからない」品種だからだ。

白ワインの品種。フランス・ロワール地方が有名で、アメリカやオーストラリア、そして南アフリカでも栽培されている。ロワールの甘口や辛口から、南アフリカのスパークリング、そして貴腐ワインとつかみどころがないほど、変幻自在に変えられる品種。リースリングのように、酸を追求したワインもあれば、南アフリカでシャルドネのように扱われ、樽ともうまくマッチングさせたり、スパークリングにもなるのだ。

ワイン好きの友達と昔ブラインド遊びをした時は、シュナン・ブランを出すのが私の中で定番だったし、今でもよくわからなければ、「シュナン・ブラン を疑え」って思ってるほどだ。

誤解を恐れずにいうのならば、きっと彼女は、いやこの品種は「欲深い」。

ソーヴィニヨン・ブランの草原のような爽やかさも

シャルドネのような樽との妖艶な混じり合いも

ヴィオニエのような咲き乱れる庭園も

リースリングのような酸と貴腐への道も

全部、全部、自分のものにしたい。それができてしまうのが、シュナン・ブランの凄さであり、素直さなんだけど、誰もが成し遂げなかったことをしようとする。彼女の中にタブーはないし、なんだったら赤ワインにもなろうとしてるんじゃないかって思うぐらいだ。

あらゆる可能性を秘めるため、若いうちは、迷子のようにも映る。全ての品種の要素を自分の中に取り込もうとするが、さすがのシュナン・ブランでも全ては無理。キリンの長い首と、ぞうのような長い鼻をもつ動物はいないからね。そういう、アンバランスさは若いうちに現れるためだろうか、若いシュナン・ブランはどこか鋭く、攻撃的な酸を感じる。

ワインというのは、過程より、飲み手が口に含んだ瞬間が大事だ。だけど、シュナン・ブランに関しては、「どんなワインに化けるのか?」 という、「過程」を視姦するように楽しみたい。

え? どうしたらいいワインになれるか教えてほしいって?

そんなのは誰もわからないよ、シュナンちゃん。そして考えを言ったところで、つまらないしね。私はその過程を舐めるように、ずっと見ていたいだけなの。

なるほど、あなたには、そういう「観察」してくれる醸造家がいるといいのかも。

「お前は、甘口路線だ」「シャルドネみたいに、樽と合わせろ」とか、醸造家の好みを押し付けるような人はだめだな。全く面白くないし、そうすると最後は安い平凡なワインに成り下がるだけ。才能の無駄使い。

好きなように動いて、好きなように迷えばいい。その様子を、ちょっとだけ遠くから見守ってくれる、余裕のある醸造家がいいよね。

「ねえ、私、スパークリングになろうと思うんだけど、どう思おう?単体じゃなく、ピノ・ノワールとブレンドしてみたい!」

「どうだろうね、やったことないからわからないけど、やってみようか」

そう、にっこり微笑んでくれる、何かの研究者みたいな余裕のある人が、いいシュナン・ブランのワインを作ってくれるんじゃない?

ワインセラーに置いた、大好きなワインたちを愛でるように、

私はまだぶどう畑にいるシュナン・ブランがどんなワインになるかを想像し、

今夜も酔いしれる。

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