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【対談♯1】Liquitous✖️川久保 俊教授              〜SDGsの観点から見た市民参加〜

川久保 俊(かわくぼ・しゅん)
法政大学デザイン工学部建築学科 教授。慶應義塾大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。法政大学デザイン工学部建築学科助教、同専任講師、同准教授を経て、2021年より現職。学生時代から持続可能な開発に関心を持ち、研究者の立場から各地域が抱える課題の解決を目指す。

栗本 拓幸(くりもと・ひろゆき)
株式会社Liquitous 代表取締役CEO
1999年生まれ、横浜市で育つ。18歳選挙権などを契機に、市民と政治・行政の関係性に問題意識を持ち、NPOなどに参画。大学入学以降、選挙実務や地方議員活動のサポートに従事したほか、超党派議員立法の事務局などに携わる。既存の制度に関与する中で、オンライン上で市民と行政を繋ぐ「新しい回路」の必要性を痛感し、Liquitousを起業。

藤井 海(ふじい・かい)
株式会社Liquitous 取締役
2000年生まれ。東京都台東区出身。中学生の頃、デンマーク海外派遣に参加し、日本とデンマークの社会システムの違いに衝撃を受けた原体験から、Liquitousに参画。現在は、柏の葉スマートシティや高知県日高村での取り組みのプロジェクトマネージャーや、国外の事例調査などを担当。

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以下対談内容

SDGsの観点から見た市民参加

栗本:よろしくお願いします。私たちLiquitous(リキタス)は、「市民参加型合意形成プラットフォームLiqlid(リクリッド)」というものを日本全国の自治体さんにご提供して、各地で市民参加型のプロセス作りに取り組んでいます。その中で、例えば高知県土佐町さんや、奈良県生駒市さん、神奈川県鎌倉市さんといったような、SDGsに積極的に取り組むSDGs未来都市の認定を受けいらっしゃる自治体さんとも多くご一緒しています。そうした中で、ご存じの通りSDGsの16番ですとかSDGs16.7を見ると、例えばSDGsゴール16では「平和と公正を全ての人に」、そしてターゲット16.7番では「参加型包摂的な意思決定プロセス」といったことを謳ったゴールですとかターゲットというものがあります。川久保先生から見ていらっしゃってSDGs全体の中でのゴール16番の意義あるいは目的というものをどのようにご覧になっていらっしゃいますか?

SDGs16番・17番

川久保先生:ありがとうございます。ゴール1番から15番というのは、どちらかというとトピックのような形で、取り組むべきテーマが書いてあるのに対して、ゴール16番や17番はちょっと性質が異なっているように思っています。1番から15番までの全てのゴールを支える基盤みたいな位置づけだと思うんですね。ゴール17番はもう皆さんご存じの通り、パートナーシップを組んで皆さんで頑張りましょうということで有名なので、ここで殊更に強調して話すことはないかもしれませんが、ゴール16番って日本国内では結構地味な扱いにとどまっていて、先ほどおっしゃっていたようにターゲット16.7番というような、ゴールの下にターゲットという形で行動目標というのがありますが、そもそもそれが知られていないというところもあります。そのターゲットを知っている方々でも16.7番で「皆さんで参画型包摂的で皆さんで関わっていながら世の中を良くしていきましょう」というところが含まれているというのは、なかなか知られていないんじゃないかなと思います。ただこれは本当に全てのゴールを達成する上で基盤となるところで、もう少しそういったところの存在を知っていただけると本当はいいのかなと思うんです。

栗本:おっしゃるとおりで、私たちがいろいろな自治体さんの取り組みをしている中でも、例えば自治体の最上位計画である総合計画に、例えば「どのSDGsのゴールとリンクをしているか」「どのターゲットとリンクをしているか」ということを明記されるような自治体さんが多くありますし、かなり率直に申し上げると、いわゆるお題目としてのSDGsからどのように本質的に行動の方向性であるとか、計画の中に落とし込むかといったフェーズに変わってきているのかなといった印象もあります。ただ、ご指摘のとおりでなかなか16番に対する言及は多くなく、我々が「実はこの取り組みってSDGsのゴールで言うと16番ターゲットで言うと16.7番に符号しますよ」ということを申し上げると、「そうなんだそういうの初めて知った」といった話はよくいただくんですね。そういった意味では、なかなかまだゴールの16番だとかその中のターゲットそのものが浸透していないよなといった印象を私自身も肌感として持っているところです。

川久保先生:そのとおりで、本当にゴールって1番から17番まで全てつながっていて、不可分といいますか、分けられないという性質がありますよね。実際そのゴール1番から17番の様々なデータを集めて、人工知能で”どのゴールがキーになるか”というところを分析しているんですね。そうすると当然ですがゴール17番は皆さん重要性を認知しているので、ゴール17番を中心に他の様々なゴールにパスが引かれていて、ゴール同士に繋がりがあるというのが示されるんですが、やっぱりゴール16番って本当に地味で、なかなか他のゴールとの繋がりが出てきづらいものになってしまっています。これは人工知能を用いた分析でも明らかになっていて、やっぱりまだまだそこは認知されていない。けれどもここはしっかりと機能し始めると、市民の声を聞き、地元の事業者の声を聞き、本当の意味でインクルーシブな未来のまちづくりにつながってくると思います。ですので、このゴール16番の重要性については皆さん気づいていただきたいと思いますし、それを支援するツールや制度、枠組みなどが出来上がってくるといいのかなと思っているところです。


栗本:ちょうど私と弊社の藤井も先日欧州に、まさにデジタルツールを用いた市民参加の先進事例の視察に参りました。その際にノルウェーのオスロに国連機関のUNDPの中の機関としてオスロガバナンスセンターというところに視察して参りました。ここは特にSDGs16に関するメジャーメントを専門的に行っている機関になります。そちらに訪問した際にも彼らがおっしゃっていたのは、「SDGs16というのは本当にSDGsの全てのゴールに関係するのが16番であって、そこのメジャーメントというものが本来すごい重要だし、実際に16番が他のゴールから切り離されているかというとそうではなく、実は、例えば11番とか他の経済の話などとも全て関わっている。なのでここの16番をしっかりとコミットしていく必要がある。16番にコミットしていってそのコミットを評価する取り組みがSDGs全体の取り組みの推進に重要だ」ということは話をしていたのが非常に印象的ではありました。

川久保先生:そうですね。やはりどのようにして色々な方々に参画していただくか。行政側とかの立場からするとパブリックインボルメントといいますか、巻き込んでいくところを頑張ろうとしているところもあるんですけど、なかなかその方法論がわからないとか、うまくいかないとかそういった場面が多いように見えますよね。


栗本:そうなんですよね。そういう意味で申し上げると、例えばSDGsの16、ゴールの16の中にもまさに参加というコンセプトがありますし、例えばゴールの11番の3番ですね、いわゆる「計画作りのところで包摂的にやりましょう」という話はあると思います。つまり、市民の皆さんがプロセスに参加をするとか、市民の皆さんがの意識の変容もあって、行動の変容もしていってゴールの達成に向けて貢献をしていく。まさに市民だけではなくて、全てのセクターの皆さんが参加をするということはSDGsのコアにあるコンセプトだと思います。この点をお伺いしたいのは、川久保先生から見ていらっしゃってSDGsの達成に向けた市民参加の重要性、市民の皆さんが参加参画をする重要性はどういったところにあるとお考えですか。

川久保先生:そもそも「世界を変える」ということを謳っているわけですね。このSDGsは「我々の世界を変革する持続可能な開発のための2030アジェンダ」というのがSDGsを含む国連文書の正式なタイトルなわけであって、そのためには「国に任せる」ですとか、「自治体の行政に任せる」というのでは全く問題外で、一人一人が行動変容して、より良い社会に貢献するべきだと思うんですね。そういうのを昔から”THINK GLOBALLY ACT LOCALLY”というわけで、一人一人がグローバルなトレンドを把握しつつも、自分たちの地域で根差した取り組みをしていくべきだというのがあるわけです。そういうことを気づいていただきたいですし、そういうことに気づいた地域が変わっていくと思うんですね。なんですけど、やっぱりどこかまだ他人ごとに感じていらっしゃる方が多いなという気がしていて、我々の世界を変革するというのは”我々”というのを誰のことだと思っているのかというところを皆さんに聞きたいんですよね。要は皆さんですよねと。”我々”って書いてあるわけですからそこを意識して、SDGsのよく”自分ごと化”、”ローカル化”とかいろんな言葉を言いますけど、「SDGsってこういうふうに自分たちも参加していいんだ」とか「自分たちも関わらないといけないんだ」とか「関わるといいことが起こるんだ」というところまで、そのベネフィットまで理解していただくといいのかなと思うんですけど、なかなかそこまで到達できていないような気がします。


栗本:そういう意味で申し上げると、ある意味その”参加をする”って一番最初はものすごいハードルが高いことだと思われがちだと思うんですね。ただ参加する方法はおそらく様々あると思っていて、例えばものすごい大きな話ですよね、SDGsに絡むような何か具体的な新しいプロジェクトを始めましょう、アクションを起こしましょう、ということももちろんそうだと思うんですが、おそらくもう少し身近なところがあるものだと思います。そうした意味で申し上げると、例えば弊社も様々な計画作りだとか自治体さんの政策作りに参加できるようなデジタルプラットフォームというものを提供しています。例えば、自治体さんによってはこれからの街作りスマートシティの計画作り構想作りにあたって活用いただくだとか、あるいはこれからのネイバーフッドのアソシエーションですね、町内会のあり方について意見いただく際にお使いいただいたりだとか。また、それこそ弊社の藤井が担当していた話だと、とある自治体が住民さん向けの健康アプリを開発をすると、この時に参加型で健康アプリを作ろうということで、我々のプラットフォームを用いて住民さんのニーズを調査をした上で、どういったアプリの機能を実装しようか、どのアプリのアイコンを作ろうかということを、我々のプラットフォームで投票したといったようなケースもあります。その自治体の取り組みというものもまさに公共的な取り組みなわけですから、そこに参加をしていってみんなでやり方を考える。このプロセスに参加すること自体が学びの機会になると思うんですね。なので、参加をするということ自体をあまり重く捉えすぎずに、どういうふうに参加しやすい仕組みづくりをするかというのは我々にとっても非常に考えなければいけないことだなとは考えています。

川久保先生:何というべきか、SDGs一つ取っても17個のゴールがあるということは17個の入り口があると言いますか、17個の接点があると思っていただきたいと思います。まずは取っ付きやすいところからでもいいと思っています。そのテーマでまず参加しようかなと思っていただいて、その時に例えば、なかなか行政と市民の距離が遠いと今まで思っていたところをデジタルツールで距離を縮めていただくと、そうすると行政と市民の距離を身近に感じて、さらにそこにアプローチする方法が加わる。そうすると、より参加がしやすくなるとそういうことですよね。

デジタル市民参加プラットフォームはSDGsにどう貢献するか

栗本:そうだと思いますね。なのでそういう意味で改めてお伺いしたいのは、私たちは先ほども申し上げた通り、市民参加型合意形成プラットフォームという名前で、独自にいわゆるウェブアプリケーションを開発をして国内の自治体にご提供しています。こういったツールがあることでSDGsに即して言うんであれば、例えばターゲットで言うと16.7に貢献できるのではないかという思いもありますし、先ほどおっしゃっていたような、市民の皆さんと行政の皆さんの距離が遠いといった感覚や、これから様々な世の中の状況が変わる中で、一層市民の皆さんと行政のコミュニケーションの分厚さが求められるにも関わらず、現状それがなかなかないからこそ、そういった課題にも対処できるものだというふうに考えています。川久保先生の立場からご覧なったときに、我々の開発をしているようなデジタル市民参加のプラットフォームこういったものの価値ですとか意義はどのようにお考えになりますか。

川久保先生:やっぱり聞いていてそもそもまずワクワクします。そういうものはできるようになったんだと。今までデジタルのツールが出てくる前までというのは、いろんな人が様々な思いを持っていても、それが表出化しにくく、顕在化しづらかった。だからこそ自分たちの代表者を選挙で投票して、いわゆる間接民主主義的な形を取ってきたわけです。けれども、間接民主主義って正当性という観点から見ると少し問題があるとか、意見の欠落が起こってしまうとか、「誰一人取り残さない」というSDGsのキーワード的にいくと少し誰かを取り残してしまいがちなところがあるわけですね。それに対して、ある意味直接民主主義的な形で意見を言えるようになるわけですね。そういったものが起こると、それってある意味古くて新しいというんですかね。昔から古代メソポタミアの時代からアテナイの時に、いわゆる直接民主主義的な形で皆さんが各々思っている意見を言える環境がありました。そこから人口が大きくなってきて、なかなか政治決定のプロセスに参加できなくなってきたわけです。そうして距離が空いてしまったところを、また今回そういった実際のツールが出てきたことによって自分たちも参画できるようになります。それってすごく大きいなと思っているんです。というのも、例えば先ほど総合計画というまちづくりの最上位計画の話が出たのでそれの話に少し具体例をお話しすると、やはり今までの総合計画というのは、行政の中で核を作ってそれで最終的な段階で、議会に少し意見を求めたりとか、市民の方々にパブコメをして何かしらのご意見を募集するわけですが、そこのパブリックコメントや議会で「いやいや、ここ本質的におかしいんじゃないか」みたいなことが起こると、ものすごい出戻りで、すごいまた時間がかかるわけですよね。ですから、そのデジタルプラットフォームがあると早期の段階で意見を言うので、そういった行ったり来たりみたいなところは減ると思いますし、より効率的に作り上げていくプロセスというのが可能になるわけですよね。今、実は色々なところでデジタルの恩恵が、そういう形で出てきたなという気がしています。私、実は建築学科の教員なんですけど、建物を作る時も実はそうで、今では建物というのは設計者がいろいろ「こうだ」みたいなことを考えてまず形作るんですけど、その後実際に建設していこうとした時にあれこれ問題出てきます。「ここに問題あるのではないか」というのが表出してきて、また戻って直すみたいになるんですけど、最近デジタル技術が進んできたことで、その利用者の視点で「こういうところを最初からこうしておいてください」というように、シミュレーションをしておくことであらかじめ問題点が分かるようになってきました。デジタルの力を使うことによって、議論の最初期の段階から多様な人が様々な観点からチェックしてくれる。もしくは、いろんな意見を言ってくれる、アイデアを出してくれることで、より良いものがより効率的に出来上がる。そういう仕組みが出来つつあるんだろうなと思いますし、それをおそらく御社のシステムというのは、可能にするんだろうなというような気がしています。

栗本:ありがとうございます。まさに今おっしゃっていただいたですね、いわゆる間接民主主義的なプロセスだけではなくて、そこに直接的な要素もある。まさにその、この2つの要素が同時にあることが大事だと思っています。私たちはこのコンセプトを”民主主義のDX(デジタルトランスフォーメーション)”と呼んでいますけれども、もちろん今までの選挙のやり方ですとか、議会の役割を我々が否定をするとか、そこが変わるという風に思ってはいないんですね。ただ、そこだけだとなかなか補完できなかった市民の皆さんの声の表出のさせ方、表し方として、我々のようなデジタルプラットフォームの存在があるのかなとは考えています。先ほどご紹介したような、健康アプリを作ろうという自治体さんの事例でも我々のプラットフォームに村議の方がご参加をされて、ご意見を投稿されていたりして、まさに部分的にはそういったようなデジタルツールだからこそできる良いところと、今までの仕組みの良いところ、ここがうまくハイブリッドで組み合わさったような取り組みもできつつあるのかなとは考えているところです。

川久保先生:やっぱりいろんな方がいろんな意見を言っていただくことで漏れが少なくなりますし、アイデアもだんだん醸成されてきて、より良いものは出来上がりますよね。それが今では、「まず人が集まらないといけない、でも皆さん仕事が忙しくてなかなか集まる時間もない、そういうところで様々なジレンマがあったわけですけど、オンラインであればいつでも自分の意見を表明することができます。それがログに残っているので、いつ誰がどんなことを言ったのか見ながら、それに自分の意見をかぶせて「私はこう思う」みたいなことができるわけですよね。きっと御社のサービスシステムでは、そこがやっぱりすごく便利だし、自分の意見をどんどん顕在化させ、皆さんと時には意見ぶつけ合って、より良いものを目指していくということもできるでしょうし、今までなかなか声が上がってきづらかった方々の声を掬い上げるというか、掬い上げるというと表現がよろしくないかもしれませんが、そういった貴重な方々のご意見を反映できるというのもやっぱり大きいですよね。

事例紹介:「柏の葉スマートシティ」における取り組み

栗本:おっしゃるとおりだと思います。ちょうど今彼がですね、千葉の柏市内である「柏の葉スマートシティ」というエリアで我々の仕組みをお使いいただくという取組を進めています。柏の葉というエリアは比較的若い方々が居住をされているエリアなんですね。例えばその中で今産前産後の困りごとをどういう風に解決する仕組み作りをするかといったテーマを投げかけています。私自身もこのプラットフォームの意義があるなと改めて再確認した事例なんですけれども、ご投稿いただく時間帯がですね、例えばものすごい深夜だとか、ものすごい早朝だとかがかなり多いんですね。そういった時間帯に、おそらく子育てされている当事者の方々がご投稿されているものを目にすると、確かにこの声は今まで可視化されてこなかったよなと。もちろん対面でのワークショップもこれまでもされてきましたし、それ自体には価値はものすごくあるとは思うんですが、ただ同時に参加できなかった方は確かにいらっしゃるんだろうな、ということは考えています。その点どういったように見えていますか。

藤井:そうですね。取組を始めてみて、自分たちの声を届けたいとか、物事を始める際には参加型で、かつ包摂的に、透明性確保した形で「私も参加したい」というニーズが一定数あるなと感じます。一定数というか、かなりそういった思いを持っている方は多いのかなというようなことは、実際に取組を行ってみて分かったというか、改めて実感しました。

栗本:そうなんですよね。今までも、ある種の説明のための言葉として、「おそらく住民の皆さんは行政に対して何か意見を言いにくいような状態はあると思います」というようなことは申し上げてはいたのですが、実際に市民の皆さんから寄せていただく言葉もそういったものまさに反映したものが多くて、「これはおそらく対面の場だったらなかなか出てこないだろうなとか」、「これはこの場だから出てくるだろうな」というご意見もあります。実際にプラットフォームを運用する中でいただくご意見についても、「このプラットフォームがあるからこそ気軽に参加ができる」というようなお言葉はよくいただいています。なので、そもそもこのプラットフォームを存在すること自体が参加の間口を広げているなという感覚は不躾ながら持ってはいますし、それが結果としてSDGsの貢献にも繋がるのだろうなというような確信は持ちつつあるような状態ではあります。

川久保先生:今先ほどの事例だと、子育てで忙しく、日中はてんやわんやしていて、なかなか自分や周りのことを考える時間がじっくり取れないわけですよね。なので早朝とか、皆さんが起きてくる前とか、深夜皆さんが寝静まった後、ちょっと落ち着くときに「本当はこうしたいな」とか、「ああいうのになってくれるといいのにな」と思ったことが気軽に発言できるようなことができるようになったわけですよね。これ本当に大きいですよね。多分いろんなケースがあると思うんですね。今のような子育てで忙殺されたような方々とか、あと今では障がいがあってなかなかワークショップみたいなところに出向くのが行きたいんだけれども、声を届けたいんだけれどもなかなか難しかったとか、あるいは、本当は夕刻になってから行こうと思っていても、他の仕事で疲れてしまったのでいけないとか、いろんな方々のご意見が好きなタイミングで発信できるというのはやっぱり大きいですよね。

「誰一人取り残さない」という観点から見た”デジタルデバイド”

栗本:大きいと思います。あと私たちが例えば、インクルーシブという観点で気づきとして改めて得たのがですね、少なくとも日本では「デジタルツール」というとご高齢の方を排除するんじゃないかと、いわゆる”デジタルデバイド”の問題というものがどうしても指摘をされるケースが多くあります。先ほどご紹介したような、高知県の日高村という健康アプリを作っている事例がですとか、あるいは例えば大阪の河内長野という自治体の事例を見てみても、我々のツールをご高齢の方に特にお使いいただいているケースになります。そうした時に改めて実感しましたが、ご高齢の方も実はちゃんとデジタルツールを使おうと皆さん思っていただければ使おうとされますし、実際に使えるんですよね。全て若い方と同じように使えるとかとは限らないと思いますけれども、ご高齢の方も使えるし、逆にデジタルデバイドという言葉で、ご高齢の方が使おうとするとか、使うために”学ぶ機会”を奪っていないかなと、我々がかなり意識するようになったことではあります。そうした観点では、彼がずっと例えば高知県の日高村でもご高齢の方と一緒にこのツールをどう使うかということを考えるようなワークショップもしていました。インクルーシブという観点から考えると何を感じていますか。

藤井:率直に言って、「デジタルデバイド」という言葉で一定の壁を作ってしまうとか、高齢者の方はデジタルのツールを使いにくいから、じゃあちょっとこういうツールはやめて紙でやってみようとか、そういった取り組みになりがちだと思うんですね。それは仕方のないことというか、安牌の道を取る行政の仕組みがある上では、これとてもいいことなんですけど、そういったマイナスの面も出てくるのかなという風に感じています。ただ栗本さんが今おっしゃったように、ある程度のデジタルツールを使おうと思っていらっしゃる方もいますし、実際に使ってみたら意外と使えるといった事実もあると。なので、デジタルデバイドということはもちろんありますので、そういった方をサポートしつつ、大事なのは、ツールを使う/使わないは、高齢者の方のそれぞれの目的や求めていることによってご自身で決めることで、我々がデジタルデバイドだからどうこう、というようなことで勝手に「デジタルツールは避けよう」と判断するべきものではないなと率直に思います。

川久保先生:今までって「デジタルができないからアナログでやりましょう」みたいな、そういう考え方ですよね。でもデジタルを使える方もいるわけですし、例えばデジタルを使える方とアナログだけでも声を発信したい方が、それこそ一緒に利用するみたいな形もできるわけで。要は、0か1じゃなくて中間で一緒にハイブリッドで使うという方法もありますし、それこそ最近インターフェースで音声入力みたいなものできるようになってきて、デジタルそのもののハードルも下がっています。やっぱりそういう意味でも皆さんが、より自分の声を届けやすい環境は整ってきている。そういう中のちょうどいいタイミングで生まれたツール、そういう風に受け取りました。

栗本さん:ありがとうございます。もう一つ大事なことがですね、例えば、SDGsで「誰一人取り残さない」という話がありますけれども、じゃあ”デジタルツールを使わないことで取り残されている人がいないか”という話でもあると思うんですね。特に若い方々ですとか、世の中で現役世代と呼ばれるような方々が特にそうだと思いますけれども、紙でそれこそ何か書かなければいけないとか、FAXで何か送らなければいけないとかいったことを考えるときに、それが本当に全ての方にとって使いやすい仕組みですか、というのはかなり重要な視点だと思うんですね。それこそ若い方からすれば、スマホで入力をする方が慣れているわけで、なのに場合によっては「手書きしかできませんよ」、あるいは「メールしかできませんよ」といったケースがまだあるわけですね。なのでご高齢な方を取り残さないという意味でもそうですけれども、若い方々ですとか、デジタルツールが得意な方々を取り残さないことも重要だと思います。あるいは、どうしても今も申し上げた通り、”若い方”と”ご高齢”の方といった区切り方をしてしまいがちですけれども、おそらくデジタルが苦手な方は若い方の中にもいらっしゃるし、得意な方はご高齢の方にもいらっしゃると思うんですね。なので大事なことは、そのご本人お一人お一人が、先ほど藤井が申したように、自分にとって使いやすいか使いにくいかということを判断して使うことが大事でしょうし、「難しいな」「苦手だな」という時に学ぶ機会があるというのは非常に重要だというふうに考えています。いずれにせよ、そういった学びながらとかあるいは積極的にデジタルツールを使いながら、何かしらの参加のプロセスに自らが主体を取り戻して参加をしていくこのこと自体が、学びにもなるんだなということは最近非常に感じているところです。ツールを使ってプロセスに参加することで、例えば”その街のことがより分かる”とか、”自治体はこういうことをやろうとしているんだな”ということが分かるとか、ということもあるんだなと思うので、本当に藤井が申したように、デジタルはあくまでもツールであって、そのツールを使って参加をした先で、ちゃんと我々は学ぶチャンスがあるし、それ自体が学びになるんだよという視点を大事にしたいなと考えています。

川久保先生:少なくともアナログをなくしてデジタルに移行せよという形にすると、またそこでコンフリクトが起こりそうですけど、アナログの手法はこれまで通りあるわけですよね。そこにデジタルの方が加わって、要は「皆さんのオプションが増えましたよ」ということですから、そういう形で選択肢が広がること自体が、皆さんが参加しやすくなるということでいいんじゃないかなと思います。

なぜSDGsを進めるときに”市民参加”が重要なのか

栗本:ありがとうございます。最後に川久保先生にお伺いをしたいのは、これからさらに多くの自治体さんがSDGsに関する取り組みを進めていかれるかと思います。より多くの自治体さんが例えばSDGs未来都市にも手挙げされるでしょうし、例えば計画とSDGsの紐付けですとか、職員さん向けのSDGsに関する研修ですとか、さまざまされていくと思います。改めてになりますけれども、国内の自治体の皆さまに対して特にSDGsを進めるときに、なぜ市民参加が重要かどうお考えになるかお聞かせいただきたいと思います。

川久保先生:根本的な話ですよね。そもそも「我々の世界を変革する」という2030アジェンダのメッセージの、”我々の世界”というのをどこに捉えるかだと思います。この地方自治体の地方行政の中には”我々の世界”というのは「我々の街をみんなで作っていきましょう」と言っているわけですよね。にもかかわらず一人一人の意見を聞かなくていいのかという根本的な問題もあると思うんですね。なので、例えばSDGs未来都市計画を作る段階とか、もしくはSDGs未来都市の申請書を作る段階で、「市民の声を聞いていますか?」というのを問い直してほうがいいのかなという気もしています。おそらく、SDGsを「これは重要だ」と「やらなければいけない」という風に熱い思いを持った自治体行政の方々が今までリーダーシップを持って素晴らしいものを作られて、パブリックコメントで市民向けに少し出すというのが多いんだと思うんです。ただ、これからの時代ですと、やはり従来のやり方から少し変わっていくべきで、そういう人(=強烈に推進してくれる人)がいるのはその地域にとっては非常に幸運なことですけれど、その方の意見に加えて、さらに「こういう意見もあった方がいいんじゃないか」「こういうこともやってみたい」というようないろんな意見を加えれば、それこそ”鬼に金棒”ですよね。だからそういうデジタルツールというのが加わることによって、より良いものが出来上がると私は信じていますので、ぜひSDGsを原動力としてのまちづくりをこれから実践されようとする皆さんには、そういうオプションもあるんだと、「なるほど。計画策定の段階とか、政策を作る段階から市民の意見を聞くことそういったことは重要なんだろうな」というふうに思っていただけるといいのかなと思います。実際結構今アンケートとか取ってみても、やはり「市民の方々のご意見を聴取できていない」とか、「そういった枠組みができていない」というところはかなりの割合で出てくるんですね。これは本当にデータでも出てきています。なので皆さん多分意識はあるはずなんです。意識はあるけれども、限られた時間で膨大な意見を全部聞ききれないとか、いろいろな皆さんのところに回って意見聞いていきたい一方、丁寧にやりたいという思いを行政の方は持っているはずなんです。でもリソースの問題でなかなかできないというのがこれまでの課題だと思います。それを乗り越える一つの手段としてオンラインのツール、Liqlidがあることによって、その課題を乗り越え、皆さんの意見を短時間で集約し、しかも可視化する。Liqlidには意見を分析して可視化する機能もありますよね。ワードクラウドなどの機能も活用しながら様々な声を可視化し、多様な観点で見ていくことができるようになる。やっぱりそういう風になると意思決定をするとか、その計画を意見を盛り込んで作っていく過程でも、「こういう意見が多いのか、これは入れよう」ですとか「こういうキーワードも取り残さないようにしなきゃいけないな」というふうに気づきを与えられるはずですよね。そうなってくるとより計画がブラッシュアップされて、より皆さんの意見を反映する良いものになっていくと思うので、是非そういうことにチャレンジしていただきたいなと思いますし、そういったところが真のインクルーシブなSDGs未来都市になってくるんじゃないかなと思っています。

栗本:ありがとうございます。大変心強いお言葉をいただきました、ありがとうございます。なので私たちもこれからもSDGsの例えば16あるいはターゲットの16.7をコアとしながらも、SDGs進める上では、市民の皆さんと対話をする、「市民の皆さんの声を聞くことが大事で、そのためのツールとして私たちのLiqlidがありますよ」、ということでより多くの自治体さんとご一緒していきたいなと考えています

川久保先生:1点いいですか。おそらくなんですけど行政の中の意見を聞くときにもこれ使えると思っています。今小さい自治体さんでは、もう職員同士の顔が見えるのでそんなツールを使わなくても直接話に行けるよというふうになるかもしれませんが、それこそ大きい自治体さんだと、そもそも縦割り行政的になりがちで、同じ庁内というか同じ役場の中にいるにもかかわらず、皆さんからの意見の集約が難しいという状況が起こると思うんですよ。そのときにもこれ使えると思うんですよね。

栗本:使えると思います。実はそういった事例も出てきていてそれこそ将来的には市民の皆さんの声を聞くということをある程度前提としたときに、そもそも市民の皆さんの声が来たときに、それをどういうふうに庁内で使うか、受け皿をどこにするのかとかということを考えると、縦割り行政と呼ばれるものを、どううまく崩していくか、横串を通すか、これはかなり重要なポイントになるかと思います。なので、そもそも庁内でもこういったツールがちゃんとワークするようにした上で、市民の皆さんにこのツールを開放していこうといったような流れで我々も取り組み進めるケースは最近増えてきます。ですので、今ご指摘いただいた課題感は皆さん共有していますし、一部の自治体さんでもむしろ「自治体としてこういうことからやりたいから、庁内で使うことからやっていって徐々に市民さん向けにも広げていきたい」という話もいただいているので、そういった事例もまたご紹介できるかなと思います。

川久保先生:自分たちでまず試してみて、良さそうだということで他自治体にも紹介するんですね。

栗本:なのでそのツールが入ることで庁内の仕事の仕方といえばいいんですかね、プロセスも徐々に変わっていく。市民の皆さんに公開するよねといったことを前提に物事の進め方が変わっていくので、そういった意味でも組織全体の透明性も向上するでしょうし、プロセス自体が変革をされていく。まさにそこがDX(デジタルトランスフォーメーション)かなと思っています。

川久保先生:やはりこれまでの時代は縦割り行政がうまく機能していた時代とも言えると思っています。「人口が増えているし、経済発展しないといけない、日本を豊かにしなければいけない」というような形で、要は”こういう方向に行かないといけない”という。そういう場面においては結構トップダウン的に下に広げてというところをやらないといけないという意味で、縦割り行政がうまく機能していたかもしれません。ただ、これからの時代ってVUCA時代というように、どの方向を向けばいいのかわからない、そういう混沌とした時代においては、いろいろなところが様々なアイデアを出し合いながら、どうしていくべきかというのを、より密に議論していく必要があると思います。そういう意味で”横串もさす”。縦割りの縦に意見を素早く通していくということに加えて、オンラインツールみたいなので横串もさせるようにする。”縦と横”というんですかね。それを紡げるようになったという意味では、やはり画期的な転換点なんだろうなというふうに思って今日お話を聞かせていただきました。

栗本:ありがとうございます。貴重なお時間をいただくことができました。我々も引き続き頑張っていきたいと思います。またぜひ引き続きよろしくお願いします。ありがとうございました。