劇団はるさめ『仮葬空間』に関する重大なネタバラシ、あるいは感染症禍における演劇について考えること

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この文章には、劇団はるさめ第2回公演『仮葬空間』(2020年12月26, 27日上演、下北沢・空間リバティ)に関する重大なネタバレが含まれております。
すでにご来場の意思が固い方は、ご覧いただかなくても問題ありません(ご興味があればご観劇後にお読みください)。

もしまだ本公演をご存知ない方、もしくはご来場に迷いがあり、その原因が主にこの情勢にある方、「こんな時期に舞台なんてけしからん」とお思いの方は、ぜひご一読ください。

結論として

たとえこの感染症禍がどれだけの困難を露呈しようとも、我々はこの公演を必ず実施します
これは、感染症のリスクに対して非常にクリーンで、かつ小劇場特有のお客様と演者の密接な距離感を損なわない形での演劇手法を、我々から提案する自信があるからです。

もし、もうこの時点で見たくなってきた方がいらっしゃれば、こちらからチケットをご予約ください。

次に続くのはこの演出兼感染対策についての重要なネタバラシになりますので、ここでご予約いただいた方はもうブラウザバックしていただいた方が賢明です。

今作の感染症対策、つまり演出上の重要なネタバラシ

一応ちょっと間開けておきます












☆ここからネタバレ

本公演では、セリフを含む全ての音声をスピーカーから再生します。セリフはすでに収録済みであり、すなわち舞台上の出演者は、上演中一切発声しません

なぜこのようにするか

①演者間、そして「舞台面→観客」への飛沫飛散を防止したい
ただでさえ演劇というのは声を張る営みで、かつ小劇場はご存知の通り(であればいいのですが)、演者間も舞台面から客席からも非常に近いものです。

先のスパコンによるシミュレーションでは歌唱時の飛沫飛散が検証されていましたが(参考)、フェイスガード無しでは2m以上先まで飛沫が届くことが確認されています。場面によって声量も顔の向きも変わるとはいえ、演劇の場合も最大値では同等のリスクがあると考えてよいはずです。

この場合、やはり警戒すべきは演者間、及び舞台面から(特に前方の)客席への飛沫飛散です。
特に若年層では無症状感染が多いとの報道もあり、座組に体調不良者が出ていないからといって安心するわけにはいきません。

そこで、とにかく会場に飛沫を飛散させないために、今回編み出したのが「全セリフ収録」という方法です。

もちろん、フェイス(マウス)ガードやマスクを着用したまま演劇するとか、パーテーションを挟むとか、演者の立ち位置や向きを調整したり前列の客席を丸々使用禁止にしたりするとか、他にも対策はあるでしょうが……それらについての所感は後ほど述べるとして、そもそも一切しゃべらなければ飛散する飛沫もないわけですから、これ以上の対策はないはずです。

②「VR空間」という場面設定の強化

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<あらすじ>
いまからそう遠くない未来、VRやARなどの技術が発達し、「仮想空間」に誰もがアクセスできるようになった時代。アバターを介して物理的な壁も国境も、仕事と娯楽の壁も超越するヴァーチャル都市──『Xiv(シヴ)』は大きな発展を遂げていた。 
ある日、シヴの一角で、参列者はたった4人の静かな通夜が執り行われた。
シヴに入り浸るフリーライター、ハサマ。
シヴ専門ウェブメディアの編集者、イノウ。
シヴ内で活動するヴァーチャル・タレント、ルカ。
ルカをサポートするマネージャー兼エンジニア、ドル高。
弔われたのは、ルカと同じくシヴでアイドルとして活躍していた、寄羽(ルビ:よるはね)ヤコという少女だった。
仕事をきっかけに知り合い意気投合し、定期的にシヴで宴会をするようになった彼らは、通夜のあともいつもの通りに酒を飲み交わした。ヤコの死に潜む謎から、目をそらすかのように──。

これからお分かりのとおり、今作の舞台はVR空間であり、出演者はVR空間にある仮想都市のなかを3DCGのアバターで動いている、という設定になっています。

VR関連機器が一家に一台レベルで人口に膾炙し、VRChatとかバーチャル渋谷みたいなのがすんごい規模になってる、というイメージです。

VR体験の音声が基本的にスピーカーから流れるように、演者の声もスピーカーから聞こえていれば、観客に対しても「VR空間にいる」という感覚をより強く与えられるのではないか……というのが、今回全セリフ収録を決断した決め手でもあります。その他にもさまざま、『Xiv』へダイブした感覚を植え付ける工夫をしてみたので、ぜひ体感していただきたいと思います。

ところで、VRのアバターで未来時空の話なのであれば、マスクやフェイスガードをしたままの演劇でもよかったんじゃないのか、という指摘がありそうです。実際、これはわたしも悩んだところです。
感染症禍を受けて、VRでもそういったモチーフをアバターに付与することが礼儀とされた……という設定は考えましたし、愚かな人類にはあり得そうな話ではないでしょうか。

これについては、

・マスクで表情を隠さずに済むこと
・フェイスガードの飛沫飛散防止効果が限定的であること

などから、顔も出せてそもそも飛沫も飛ばない全セリフ録音が、演出としてより効果的であると判断しました。

とは言え、です。稽古のやり方も手探りですし、音声編集は大変だし(担当者は別におりますが、物凄い呪詛を唱えながら作業していただいています(ホンマにすいません))、これが正解だったのかは、本当に、全くもって、わからないのが正直なところです。

それでもなぜ、ここまでしたのか、という話を以下にします。それは取りも直さず、この感染症禍での演劇についての所感ということになります。

ビジュアルに対策しまくってる演劇、ぶっちゃけサムくないですか?

ちょっと攻撃的な言葉になり申し訳ないのですが、正直、これは本当に言っておかないといけない気がしました。

(※特定の劇団や特定の演目を非難しているのではありません。以下はあくまでも例え話です)

誤解なきように補足すると、演出として昇華できるなら一向に構いませんし、むしろやるべきです。
しかし、パーティションを挟んで朗読劇をやるとか、マスクをしたまま演じるとかでは、せっかくの表情も声も受け手に伝わりづらいですし(演者も相当やりにくいでしょう)、現代以前の設定なのにフェイスガードをしていては明らかな矛盾となります。いずれにしても、演劇の重要な要素であるところの没入感が損なわれることは想像に難くありません。

畢竟、この情勢下で演劇をやるのであれば、「それでもやるんだ」という強い意志をどこまで演目と演出に反映させるか・それをどう観客に伝えるか/伝わるかを大事にしなければいけない、とわたしは考えています。そこで妥協するくらいなら──つまりは伝えたいことがその程度しかないのであれば、この状況で無理に上演する必要はないはずです。

とはいえ正直なところ、わたしもあまり「コロナ文学」みたいなものは好きではありません(必要なことだと思いますし、やりたい人はやっていればいいと思いますが、地位のある作家の一種のノブリス・オブリージュじゃないかな、という印象を抱いています)。
だからわたしは小説のフィールドであれば、少なくとも自分の作中で感染症禍に触れることは、その作品にとって必然でない限りしないようにしたいと考えています。しかしこれは文学・文芸の創作および読書が概ね個人的な営みだから許されるのであって、こと演劇という、あまりにも感染症禍と取り合わせの悪い文化においては、「感染症禍」という題材に真っ正面から向き合うことと生殺与奪の権利はほぼ同義と言って過言ではないように思います。

じゃあセリフ全部録音したら没入感を損なわないのか、と言えば、そんなことは全くもってないでしょう。
別に隠すことではないと思うのでぶっちゃけますが、キャスティングでいちばん苦労した要素が「この挑戦に乗ってくれるかどうか」でした。事実として、「それは自分の思う演劇ではない」という形で断られた方もいますし、その意見は至極真っ当です。実際、必ず毎回姿を変え、公演期間の最中にも作品が成長しようとしている、その熱量を間近で感じられるのが演劇の醍醐味のひとつであることは間違いなく、セリフを全て収録してしまったことで、セリフを間違えようがない代わりに、咄嗟のアドリブが起こる余地はほぼありません。

強調したいのは、この状況で何も取りこぼさずに演劇ができるわけがない、ということです。同時に、その取捨選択に妥協してはならないのです。我々はその結果、全セリフの収録という新しい可能性に賭けました。

繰り返しますが、マスクやフェイスガードが演出として昇華できるなら何ら問題ないでしょう。今回の演目に限ってはこの懸念をクリアできると判断したからこそ、挑戦するのです。

ここまでに述べたことを総合すると、この演目を、わたし個人の思いから社会一般の風潮まで渡る、さまざまな要素が風化する前にどうしても上演したくて編み出した、今回限りの飛び道具が「全セリフの収録」だった、と言えます。

本当に、いまのところは「今回限り」だと思います。この時世とこのネタがたまたま組み合わさったからできたことです。大それたタイトルをつけておいてこんなことを言うのは逃げのような気がしなくもないですが、「このやり方をスタンダードにすべきだ」と言うつもりは毛頭ありません。ただ、この時代に演劇をやることの意味はもっと考えて然るべきではないか、という言葉に尽きます。

ここまでして伝えたかったことは何なのか──気になった方はぜひ、劇場までお越しください。

その他の感染対策ももちろんやっていきます

・事前に十分な換気と加湿を行います
・お客さまの手指消毒を徹底いたします
・上演中もマスク着用にご協力をお願いします
・差し入れやプレゼント、終演後の演者との接触はあしからずお断りいたします
・道中の感染経路までは関与できませんので、ご来場までどうぞお気をつけください

お客さまにも多大なご協力をお願いせざるを得ない、大変心苦しい状況ですが、ひとりでも多くの芝居に飢えた方に遠くことを信じて、この文章を結びます。

ポップにコーティングした毒を皿ごと喰わす西河理貴ワールド、たぶん全面に出てるので、どうかご期待ください。

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