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『作家は孤独でないといけません。』
『作家は孤独でないといけません。』
「先生、それはどうしてですか?」
神経質そうな真っ赤なルージュの先生は、ヒステリック気味に唇を開け、目を釣り上げた。
『いいですか?
友人、家族、恋人、子ども、ペットがいようと、心の中は独りぼっちでないといけません。
孤独を埋めるのは自分が産み出した作品。
そして、作品の副産物である名声と富。
それだけでいいのです。』
先生はそう言うと、また唇を真一文字に結んだ。
先生が言ってる事を何一つとして理解できないボクは、もう一度手を上げて質問した。
「先生……。
それは、一体どうしてですか?」
『作家という生き物は、承認欲求、自己顕示欲が人一倍あるもんです。
私も、あなたも、あなた達もです。
賞賛を一度でも受け、手に入れてしまったら最後……。
何度も何度も欲しくなる、賞賛ジャンキーなのです。
孤独こそが承認欲求を引き立たせ、自己顕示欲に深さが増すスパイスなのです。
だから、孤独でなければいけないのです。
分かりましたか?』
「先生、孤独じゃないと私たちは作家になれないのですか?
恋人と別れた方がいいと言うことでしょうか??」
『そうですね。
特に恋人というのは厄介な存在ですからね。
恋人というゴールでは満足せず、パートナーに全てを捨てさせ、がらんどうな人間にするのです。そして、そのただの人間の一番になりたいなんて欲を出すのです。』
先生は一気にそこまで言った後、こう続けた。
『友人や家族は、作家の将来のため夢を追うことを心配して忠告をするかもしれない。
ですが、恋人というのはどうでしょう?
比べられないものにジェラシーを浮かべ、自分だけを見てくれなんて言うでしょう?
心配や、思いやりからくる感情ではありません。
醜い嫉妬心からくるものなんです、邪魔なんですよ。
ですが、作家にとっては邪魔で邪魔で仕方ないというのに、誰も彼もが恋人を持つのをやめないのは、理性ではなく本能の部分なのでしょうね。
何故なら肉体的なエクスタシーを恋人がプレゼントしてくれるでしょう?
ですが、精神的なエクスタシーはくれない。
皆さんも肉体的にエクスタシーを感じたところで、満足なんてできないでしょう?
もし、肉体的に満足して心まで満たされたのなら……あなたは、作家失格です。
作家の性なのです。
孤独こそが、あなたのエネルギーなのです。』
先生の言葉に拍手喝采。
ぱちぱちぱちぱち。
だけどボクは思ったんだ。
どちらか一つしか選べないなんて、そんなの欲深き作家には向いてないってね。
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