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今日が水平線に落ちる頃

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散文、詩、ドローイングなど
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2022年6月の記事一覧

かたはね Ⅷ

かたはね Ⅷ

光の中 氷河脱出 

ここでは行動記録は取れなかったし、15歳ほどの水晶のような存在は間違いなく存在しながらも実態がつかめないまま言葉を話さずに意識だけで動いているようだった。
その意識に誘われて僕は光の穴へ落ちていった。

同時に僕は僕であることと重なっていった。私は私であり僕であった。
あるいは目の前に感じる光は僕の影かもしれなかった。

「ルル る る」
相変わらず穴へ落ちていく途中でも言葉

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かたはね Ⅶ

かたはね Ⅶ

逢うもの

彼は いや彼女は年頃15歳ほどであり水晶のような立ち姿で局所的に降る雨を従えて私の目に映っていた。
本当のことを言うと人物であるかもわからなかった。ただ懐かしい気持ちを覚えたのととても愛らしいことだけを思った。

彼は何も言わない。ゆるい逆光の中で私を見ていることだけだった。
私、彼女は何も話さない。しかし向かう目的地はお互い一緒なのだということはわかっていた。

透けるような存在であ

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かたはね Ⅵ

かたはね Ⅵ

やがて物語は閉てゆく不安のように

闇の中には静寂で、そこには物語があった。

私はすぐにそれを探したいと思った。

あの日蝶を埋めたことが未だ胸に焼き付いている。

夕闇が迫って私も私の影も夜という影に覆われて闇になる。このことは光でもある。焼きつく想いもまた影となって光をまとう

そうだ そうなのだ。あの日埋めたのは、実は自分だったのではないかと思った。どうしても蝶が死んだということを、もう一

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かたはね Ⅴ

かたはね Ⅴ

感じるもの

温室へ向かった私はそのドーム状の空間に教会を覚えた。中は蝶を放しておけるよう適温になっておりいたるところに植物や花の蜜が吸えるように花がたくさん咲いている。吸水できるようにと糖分が取れるようにゼリー入りの小皿が至る箇所に設置されている。オオゴマダラやイシガキチョウなど国内の蝶が舞う中私は呆然と立っていた。

黒アゲハは見当たらなかったが似た色ですごく大きな黒い蝶が優雅に舞っている。人

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 かたはね Ⅳ

かたはね Ⅳ

犯人を探せ

ここにリンゴがあった。 このリンゴは輪郭にすぎないが言語によって繰り返された信号を発してもいた。
そしてやはり自分もそのようにして存在しているのだなと、丸くツヤのあるリンゴを持ちながらある実験をやってみることにした。

実験とは、つまり蝶を埋めた犯人が自分であったかどうか、疑似体験的なことをしない限り私の中で始まらないのであった。それは蝶を掘り起こすことにある。あの公園の片隅の蝶の食

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