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一炉庵の水羊羹

関東甲信、東海、九州南部は梅雨明けしたとみられる、とのニュースがあった。

記録的な早さの梅雨明け、長い夏になるのだろうか。
豪雨や猛暑などによる被害がないことを願うばかりだ。



さて、今日は夏の好物のひとつを。

梅雨明けのころ、というと「一炉庵の水羊羹」が思い浮かぶ。
一炉庵は東京・文京区にある和菓子店だ。
近所に住んだ夏目漱石のお気に入りの店だったといわれている。

30年ほど前になるが、職場を訪ねてこられたお客さまが、小さな包みをさらりと置いていかれた。
それが一炉庵の水羊羹だった。
ひさご(ひょうたん)型の小ぶりな水羊羹は、まるで絽を思わせる涼やかな薄紫色で、敷かれた桜の葉がそれを引き立てていた。

口に運ぶと、すっとほどける。
小豆の風味、繊細でありながら凛とした甘さ、そしてその組み合わせの中だけで存在するのであろう「水のおいしさ」があった。

それから、頻繁には口に入らずも、何度か一炉庵に足を運んだ。
水羊羹はひとつひとつ陶器の型で作られていて、注文すると奥のほうで型から外すコトンという音がするのだった。
そんな静謐、そしてゆらゆらと道路から立ち上る熱気がセットで思い出される。


ドイツの気候に慣れてしまうと、寒さには強くなる反面、日本の夏は暑すぎて(湿度がさらにつらい…)、この時期の帰国は避けたいというのが本音だ。
水羊羹、年間通して作ってくれないかな、と一瞬思ったが、それは無粋というものだろう。
なんとか日本の夏に打ち勝つ策を考えなければならない。

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