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リカバリーを目指した精神科医療と共同意思決定

当院の理念

当院はWell-being、よく生きることの追求を理念に掲げています。したがって精神科医療の役割は薬物治療等によって症状消失を図るだけではなく、クライエントの日常生活・社会生活におけるリカバリーとその先にあるWell-beingを目指す必要があると考えています。

当院の自動ドアにある図です

このように話すと、絵空事というか、耳障りの良いことを言っているだけで、実際は違うのではないか、と思われるかもしれません。ニュースになる精神科病院での事件を見聞きしたり、5分診療で心情も聞かずに薬を出すメンタルクリニックの話を聞いたりしていれば、このような理念を掲げるクリニックも眉唾に思われるかもしれません。

しかし当院ではこの理念の追求、実現を目指して日々取り組んでおります。今後その実現のためにしていることなどを書いていこうと思いますが、今回の記事では当院で採用しているリカバリー概念と共同意思決定についてご紹介したいと思います。

リカバリーについて

さて、リカバリーという言葉を使いましたが、これが何を意味するかご存知でしょうか。アメリカ政府委員会では、リカバリーとは「人々が生活や仕事、学ぶこと、そして地域社会に参加できるようになる過程であり、ある個人にとってはリカバリーとは障害があっても充実し生産的な生活を送ることができる能力であり、他の個人にとっては症状の減少や緩和である」と定義しています。

精神疾患・精神障害の治療は長らく寛解を目標としていました。「寛解」とは病気が完全に治る「治癒」とは異なり、症状が収まって軽度である状態が続くことを意味します。しかし寛解を目指して服薬した結果、無気力で何もやる気がしなかったり、社会生活を送ることが出来ないのでは意味がありません。そこで症状の軽減にだけ目標を置くのではなく、その人がその人らしく生活し、幸せだと感じられるようになることを目標に据えようと変わってきました。当事者運動から始まった、症状や障害の有無にかかわらず、自分の人生や価値を取り戻すという意味のリカバリー概念は、精神科医療でも広まっていきました。

出典:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部
https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/about/recovery.html

現在では、リカバリーは症状の改善や機能の回復を意味する臨床的リカバリーだけでなく、住居、就労、教育、社会的ネットワークなどの機会を拡大していくことを意味する社会的リカバリー、そしてクライエントを中心に据え、その人が希望する人生への到達を目指し、症状を抱えながらも就労や交友関係などの社会における役割を取得していくプロセスを意味するパーソナル・リカバリーと分類されています。

臨床的リカバリーは医療者が評価できる客観的な指標かもしれませんが、満足感や幸福感は主観的なものです。自分自身が「できたな」「やれたな」「幸せだな」と感じられることを医療でも目指すことが重要と考えています。

したがって当院では、クライエントご自身の夢や希望の実現、その人らしいライフスタイルの獲得を目指すことを軸に据え、その実現のために治療者とクライエントがパートナーシップを結んで、何をどのように治療・リハビリする必要があるのかを考え、取り組んでいます。

SDM:共同意思決定

そのために採用している治療構造がSDM:Shared Decision Makingと呼ばれるもので、共同意思決定と訳されます。先日の当院インスタグラムでも紹介がありました。

従来型の治療関係は医者が決め、患者が従うというパターナリスティックなものです。救急対応の時など、これが必要な時もありますが、先ほど述べたように治療で目指すはリカバリーであり、本人自身が充足していると感じられることです。そのように考えた時に、果たしてクライエントの幸せを精神科医やコメディカルスタッフが決められるでしょうか。クライエントの症状がなくなったら幸せなのか、仕事に就ければ幸せなのか。そうは思えません。

例えば「高学歴・高収入ですごいね」と言われたとしても、その人自身が「いや、、長時間労働だし責任も大きいし、そんなにいいものじゃないよ・・・」と思っていたら、それは幸せとは言えません。客観的な評価と主観的な感覚はズレるものです。本人自身がどう感じるかが重要であり、医療者にこれがあなたの幸せだよね、なんて決めつけられたらたまったものではありませんよね。

したがってSDMでは、本人がどうしたいかという希望を重視し、その希望を実現していくことを阻害している要因を問題と考えて、治療・リハビリしていくアプローチを取ります。問題ありきではなく、希望があって、初めてそれを阻害しているものが問題となります。

当院インスタグラムより転載
https://www.instagram.com/p/DBLk_bJyOBs/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

例えば、人と接するときに緊張するという社交不安性も、全く人と関わらずに1人で仕事ができて、それが楽しく幸せな生活と思えるなら問題ではありません。しかし人と繋がりたいと思っているのに社交不安性が邪魔するとなれば、それは問題となります。

また治療者の関わりとしては、具体的に言うとこのように違います。
・従来型:「仕事に就けるようにデイケアでSSTを受けてコミュニケーションスキルを身に着けよう」
・SDM:「あなたはどうしたい?ああ、恋愛して、結婚して家庭を持ちたいんだね。そのためには何をしていく必要があると思う?」

当院では初診、診察、リハビリ、多職種の個別面談、とあらゆるところで、「あなたはどうしたい?」と問いかけます。

このようにして希望とその実現を阻害する問題を共有し、本人自身の内側から生じる動機づけのもとで、治療・リハビリの選択肢を共有し、一緒にプロセスを歩み、リカバリーを目指しています。

さいごに

今回は当院で採用しているリカバリーと共同意思決定について、説明させていただきました。

このようにリカバリーを目指すうえでSDMが重要ではありますが、これは時間のかかるプロセスです。そのために、当院では多職種が支援にあたっているのですが、それはまた別の機会に話そうと思います。
また以前の記事『診察で精神科医に何を質問するか』では、SDMを進めていくうえで活用できるツールをご紹介しておりますので、お読みいただければ嬉しいです。

このような記事を読んで、自分も希望を実現していきたい、リカバリーしたい、幸せだと感じられる生活を送りたい、そのために治療やリハビリをしていきたいと思われた場合、当院のデイケアは主治医が他にいても使うことが出来ます。主治医が薬のマネジメントを行いながら、当院でリハビリすることが可能です。ご興味持たれましたら、ぜひ気軽にご連絡ください。

当院インスタグラムでは、日々のプログラムの様子などもアップしていますので、ぜひチェックしてみてください!よろしくお願いします。

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