消費税10%引き上げの責任はどこにある?

10%引き上げ話のスタート

 消費税が10月から10%になったことは言うまでもないが、その是非については様々な議論がある。個人的には現時点で10%引き上げたことに相当の経済的なリスクが生じたとも思っているが、消費税増税と絡んで財政健全化論からMMTまであまりにも多くの異論反論肯定論が多く、安易に言及出来ないと思っているので、ここではその是非についてまで論じるつもりはない。

 しかしながら、この消費税増税に否定的な人間の中に、「安倍政権も本当は引き上げたくなかったが、民主党政権(野田政権)が(国際)公約にした以上は履行せざるを得ない」という話を声高にする連中が多いことも事実である。まあ言い換えれば、ほとんどが安倍政権サポーターでもあるのだが、これは本当だろうか? 以下に簡単に論じてみたい。

 まず消費税の増税議論自体は、はるか前から政治的イシューとなっていたので、これについては誰が言い出したとか言っても意味はないと思う。具体的に、時の政権が政治課題もしくは公約として言及したのは、おそらく鳩山首相交代後に、支持率が回復したことに気を良くした菅直人首相が、就任直後の参院選前に具体的に言及したことが最初ではないかと思う。これは参院選で民主党が破れたことなどや東日本大震災などもあり、結果的に実現することはなかった。

 だが、その菅政権の後を継いだ野田政権が、財政健全化と社会保障財源の安定化を目的に、G20 の場で「2010年代半ばまでに10%まで引き上げる」ことを宣言したことから、翌年の2012年に自民・公明党の3党で「三党合意」によって消費税が増税されることが決定した。

 この三党合意の主要ポイントは、「従来5%の消費税率(国及び地方を含む)を、2014年(平成26年)4月1日から8%、2015年(平成27年)10月1日から10%とする。ただし、『経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる』と定められた(いわゆる景気弾力条項)条項が盛り込まれた。また、同時に議会の定数削減などの『身を切る改革』も同時に履行する必要がある」と言ったものである。

 結局この後、野田政権は自爆解散を行い大敗したことで、消費税増税は第2次以降の安倍政権に引き継がれるのであるが、2014年4月の8%増税時点で大きな経済的悪影響が発生したことから、安倍政権は10%への増税を延期せざるを得なくなる。

 以降10%への増税は2度に渡り延期(2015年10月→2017年4月が最初の延期。2度目が2017年4月から2019年10月の今回の増税)されることとなる。この間、最初の「増税延期の信を問う」として最初の解散をし勝利した後、安倍政権は当初あった景気条項を「背水の陣」として自ら削ってしまった。そして今に至るまで未だに「定数削減」などは行っていないし、挙句の果てに参院では定数を増やしている(但し、私見としては議員の定数削減には反対である)。つまりこの時点で三党合意なるものは本来の姿ではなくなっているというのがただの事実である。

 一方、野田政権が行ったという「国際公約」であるが、これも「2010年代半ば」の期限はとっくに過ぎた中での2010年代末の今回の10%増税であった。

公約(約束)とはなにか?

 ここで消費税増税にまつわる3つの約束が俎上に載せられていることに気付くだろう。まずはG20における「国際公約」、そして三党合意という政党間の「約束」、最後に国民と解散時に約束したいわゆる一般的「公約」である。

 安倍政権増税無罪論に立つ者は、「10%までの増税は野田政権時の約束だから仕方ない」という論を主張しているが、この3つとも既に安倍政権下において、言い換えればその責任において反故にされているという現実が存在していることを無視している。

 まず国際公約は、2010年代半ばまでに10%に上げなかったことで反故にされているし、三党合意は増税時期は当然、定数削減や景気条項削除で既にその本来の姿にはない。まして増税延期の信を問うという解散も、最初の解散の時点はともかく、その時に約束した「増税延期」を更に延期してまた解散して信を問うという時点で、最初の公約破りであるのは自明である(選挙で認められたから公約を破って良いとすることはともかく、その約束を守れなかったという事実まで覆せるものではない)。つまり既に約束は全てにおいて何らかの形で破られているのであるから、安倍政権が約束を守るために「10%に上げざるを得ない」という論理は破綻しているのである。

期限を無視した約束の履行などあり得ない

 こういう話になると、「否、10%という約束は守っているではないか」という意味不明な反論が来るだろうが、契約の常識を考えればこれはあり得ないことがわかる。例えば「~年の~月までの~の支払いを約束する」という契約を結べば、たとえ期限を超えてから支払いを出来るとしても、期限までに完全履行(支払い)出来なかった時点でその債務(約束)は履行されていないのと同じである。つまり、期限を区切った上での行動の約束は、後で行動したとしても、期限を超えた時点で既に約束を守ったことにはならないのである(期限が区切られていない場合は別だが)。

 振り返って考えて見るに、特に言われる「国際公約」なるものは、「2010年代半ば」までに10%引き上げと明確に区切られているのだから、既に国際公約としても、安倍政権下において反故にされたことは明確なのである。無論、他の論点における約束も守られているわけではないので同じ論理で破綻している。

約束は既に安倍政権で反故にされた以上、税率だけを殊更守る意味も責任も既に無い

 この様に、消費税増税における約束は全体として既に安倍政権において反故にされているのであるから、ここにおいて10%という税率だけを「約束を守るために仕方なく上げた」という論理は成立していないのだ。やろうと思えば10%という税率すら約束を破ることは出来ると、自ら証明したのがこの第二次安倍政権以降の所業が示す事実である。

 子供じみた論理で、「~は悪くない」というのは勝手だが、およそ真っ当な大人が語るべき次元の論理ではないことに早々に気付くべきである。

 当然だが、この話はあくまで「安倍政権増税決定無罪論」を否定する話であって、消費税率の正当性や妥当性とは無関係なことは明記しておく。

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