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思い出はさめ肌

「K先生の奥さん、やっぱりめっちゃ若かったよ!」

唯一といっていい、いや、唯一であるべきか。親友のなみちゃんは興奮気味に教えてくれた。
にこやかというよりはにやにやとしたK先生の顔が浮かんで、背中と心がざらりとした。

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K先生は高校の吹奏楽部の顧問だった。

よくいえば情熱的、悪くいえば感情的な印象が強く残っている。社交的で世渡りが上手く、吹奏楽業界(?)では顔が広かったらしい。有名な音楽家の先生やプレイヤーが頻繁に講師として訪れてくれた。
その甲斐もあって、高校最後のコンクールでは初の全国大会に進出。あの夏がそろそろ人生の折り返し地点になろうとしている。

音楽はあのころもいまでも好きだけど、部活自体はどうだったか正直微妙である。集団生活が苦手だったこと、K先生とはうまくいかなかったこと。
思い返せばいまと全然変わっていない。尊敬と憧れが強くなるほどに、萎縮してちょっとおかしくなってしまう癖。

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吹奏楽部はどこも女子がほとんど。K先生には習性があって、お気に入りの生徒は「〇〇ちゃん」と呼んでいた。わたしの分析では傾向として3つがあげられる。

・大人しくて健気に頑張っている可愛い子
・不良であんまり来ないけど可愛い子
・殺伐とした部内でもほんわかとしている可愛い子

決して実力派=演奏がうまい生徒をちゃん付けしていた訳ではない。(※安比奈調べ)
そんなK先生が次の赴任先の卒業生と結婚したらしい。

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全然好きでもなかった、むしろちょっと苦手だったK先生の結婚を知って、じわじわと湧き上がるこのこびり付いた焦げのような気持ちはなんだろう。
よくよく考えるまでもなくわかっていた。それは奥さんへの羨望だった。

とっさに「選ばれし者」という言葉が浮かぶ。自分が好きだと思わなかった、思いもしなかったひとが選んだ女性へ羨ましいと感じるなんてどうにかしている。

でも、やっぱり。好きではなかったけど、認められたかった。演奏がうまいね、頑張っているねって。
認められないならせめて、好きにでもなってもらいたかってのだろうか。もっともっと無理なことなのに。そしてそんなの欲しくないのに。

ここまで考えて心のざらざらがいっそう強くなる。もうやめよう。しあわせを祈るのはなんだかおこがましい気がした。K先生も奥さんも、できるだけ元気に過ごしてほしい。
ああ、健康っていちばんのしあわせかも。結局祈ってしまうおろかさよ。

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春はいつまでもそわそわする。こんなことを考えるのもきっと春のせいだ。
まだ今年はこんなに寒いのに、桜はきちんと咲いて偉いなあと思った。花びらが舞い散るころ、一緒にいろいろ忘れていけたらいいな。

それでもペンギンは可愛い。今日からはペンギンちゃんと呼ぼう。


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