短編⑪

 毎回どんなふうに投稿してたっけ、と前回の投稿を参考にしてます。週1とはなんだったのか…。今後ともよろしく。

 今回は異世界転生風味、学生生活?、一人称、男主人公、R-15、約8500字で、青春風味。衝動で一気書きなので一部整合性に欠ける部分があるかも。

* * *

「ね、今日もお話聞かせて?」
「…仕方ないな」

 そうやって話すのは前世の話。彼女は何でもかんでも聞きたがった。
 とにかく、俺の前世について。何もかもを。

病弱少女と俺

 その少女に出会ったのは、俺がこの魔法学校に通い始めてからのことだった。彼女は専用の部屋を用意されて、後者の一室、医務室の隣にほとんど居を構えるようにいつもそこに居た。

 それは偶然だった。張り切って魔力を使い過ぎて殊の外気持ち悪くなった俺が、間違えて彼女の部屋へと入ってしまったわけだ。扉から部屋へと数歩入ってようやく気付いた俺は、驚いて目を見開く彼女とご対面した。

 その時の彼女はやせ細ってガリガリだった。どうやって生きているのかも不思議なぐらいに。人によっては生理的に無理、と言ってしまうほどには不健康で、顔色も真っ白だったのに。
 俺と目が合って数秒後にはその頬に朱が差して、瞳はたった今生き返ったようにキラキラとしていた。

 不自然だった。あまりに不自然。だというのに、俺は朦朧とする頭で、半ば好奇心に引きずられて、彼女のベッドの隣にあった椅子に座っていた。

「……こ、こんにちは」
「…こんにちは」

 思いのほか、しっかりとした挨拶が聞こえてきて、少し驚いた俺は遅れて返事を返す。声はかなり小さいし、震えてはいるものの、少しどもる程度で言葉として成り立っている。
 普通、こういう個別にいる子ってのは真面にコミュニケーションなんて取れないものだ。
 もしかしてこの子は__いわゆる、特別、か?

 そう思いながら、俺は彼女とぽつり、ぽつりと話をし始めた。話し始めてしまった。

 その日から、俺と彼女の繋がりが始まった。


 朝、俺が学校へ来ると、まず、彼女の所へ向かう。
 これまで、朝は何もすることが無いのでギリギリまで寝て登校していたため、時折遅刻もあったが、彼女が朝から話したがったために朝早く起きて来るようになった。

 彼女との話は以外にもほとんど彼女が自分のことを話したがる。
 これまで余程話し相手に飢えていたのか、それとも自分が如何に理不尽な境遇に居るのかを訴えたいのか、とにかく、朝の時間は大半が彼女のこれまでの話だ。

 なんでも、彼女はいいとこのお嬢様で、魔法の才も頭の良さも優れていたはずだったのに、ある日、体内の魔力が漏れ出ていく奇病に掛かった所為で、医務室にこもりきりになり、次第に、家からも学校からも見捨てられ、学校に止まれる最大年数10年が経過するまで放置となったのだと言う。

 これが前世だったらマスコミから袋叩きだったろうが、今世は中世モドキの時代で、そんな機関は当然存在しない。貴族などの権力者が力を持つ時代だ。そしてコネと能力主義の世界でもある。
 だから孤児でなんの力も無かった俺は能力を認めてもらおうとここに通い始めたわけだが。身分差の差別は事のほか酷く、難航気味だ。

 そんな話はさておき、そんな状態になった彼女は、最初の頃こそ足掻いたものの、どうしようもない環境に嫌気が差し、ほとんど毎日をただ生きるだけの生活を送っていたらしい。
 俺からすればニート生活万歳と言いたいところだが、なんでも、例の奇病は当人の気力まで奪うらしく、食事は最低限になり、トイレも部屋の中に作られて、運動と言えばベッドとトイレの行き来だけ。
 もうそれはほぼほぼ、前世の老衰で死ぬ間際の病院生活では、と思えるレベルのものだった。

 彼女の年齢を聞けば、14歳だという。ちなみに俺は16歳で1期生だ。どうやら飛び級で入ったらしい。当時は8歳だったというから驚きだ。となると……残り4年というわけだな。
 その後のことは、彼女も考えたくなかったらしく、何も考えていないらしい。そりゃそうだ。俺も、こんな状態になったなら現実逃避したくなるに違いないから。

 そんな感じで彼女の朝語りを聞いた後は、俺は授業に向かう。
 この時、毎回、いかないで、と言いたげな縋る視線を向けられて居心地が悪いのだが、俺には俺の生活がある。
 それに、そうしているから彼女にも会えるのであって、だから、賢い彼女も最後には諦めてくれるのだが。その時に視線を落とす彼女はあまりに見ていられないから、俺はいつも見ないようにしている。

 その次に彼女に会うのは放課後の、俺の用事を全て済ませた後のことだ。

 早朝に会うのも、放課後遅くに会うのも。全てはただでさえ孤児という俺の突きやすい部分を突かれないようにするため、そして、彼女に迷惑をかけないためだ。
 彼女からはもっと話す時間を増やして欲しいと言われているが、それだけは受け入れられない。
 俺も俺で、さっさと自分の地位を確立しなくてはいけない。計画は難航気味だが、時間さえかければなんとかなるだろうという見通しはある。だから、今の状態を継続させることが優先だ。

 幸い、意外にも協力者は多い。
 彼女に目を掛けているからか、彼女から距離を取りがちだったらしい医務室の先生と縁ができ、元々優秀な彼の助けで校内に幾人かの支援者を確保できた。これが…どれほどのものかというと、それほどテンションが高くならない俺が跳び上がって喜ぶほどには嬉しいことだ。

 ぜひとも彼女との関係を維持したい程度には。

 さて、放課後遅くには彼女の話もとぎれとぎれになってくるので、そこを俺の学校内での話で埋めていたのだが、どれも反応が良くなく、仕方なく前世の話をし始めたのだが。
 その話に彼女が食いついたのだ。
 これまでの元気の無さはどこへやら。ベッドから身を乗り出すようにして俺の話を聞きたがった。
 何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、お陰で放課後遅くの時間が気まずくならなくなったのは良いことだ。

 そうして数か月が経ち、そのまま彼女との関係はこのまま続くのだろうか、と俺が思い始めた頃のことだった。

 彼女が朝の会話の時間に、ピタリと時間半ばで話を止めてしまったのだ。
 まさか、容体の急変か、と俺が彼女の顔を覗き込めば、彼女は両目いっぱいに涙を溜めて、泣くのを堪えていた。

「おい、どうした?どこか悪いのか?」

 そう聞けば。

「いやなの。このまま、私が終わって、あなたとの関係が終わってしまうのが……いや、なの」

 そんな答えが返ってくる。
 その言葉に、俺は直ぐに言葉を返すことが出来なかった。

 その時だろう。俺が彼女に対する意識を変えたのは。
 これまでは、そうだな。非情だが、役に立つアイテムのように考えていた節もあった。朝と放課後に時間を割けば、校内の一部を味方につけられる、条件付きのアイテム。
 けれど、その時漸く俺は思い知った。
 彼女は人間で、この世界で生きていて、俺のことを好いてくれているということを。

 俺は前世では家族とは疎遠だったし、こっちでも孤児だった。
 だからだろう。彼女の好意にも気付けず、校内の一部の支援者にもどこか距離を取ってしまっていたのは。

 このところ、彼女はずっと必死なように見えた。
 それを見て見ぬふりをしていた。
 これまではただベッドに横たわっているだけに思えた彼女は、食べる努力をし、歩く努力をし、俺に笑顔を見せる努力をしていた。それでも現実は非情で、6年の停滞もあり、何一つ実っていると思えなかったけど。
 俺はそれを何の感情も抱くことなく見ていたが、それは、本当に残酷なことだったのだろう。

 現に彼女は現実を突き付けられ、そして俺は嫌悪してきた奴らの1人になっていたわけだ。俺を見下して下に見るやつらと同じ目をしていたに違いない。
 それは唾棄すべきことだった。

「なぁ、俺も……俺も、手伝うよ」

「……ぇ?」

「俺も手伝うから、一緒にやってみよう」

 だから、そんな気まぐれを起こしたんだと思う。何かしたくて、その一手を選んだ。
 それはきっと、彼女が足掻き始めたことに感化されて、そして、そんな絶望的な状況よりは俺の状況はマシだ、と、未だ心の内に燻る残酷な考えを認めてしまったからなのだろう。


 その日から、俺の生活は一変した。

 まず、医務室の一間を借りて住むようになった。
 そうすれば、彼女とより多くの時間が過ごせる。しかし、これを彼女に反対された時は少しばかり驚いた。
 どうやら、彼女は俺の将来を心配してくれているらしい。自分に巻き込んで人生を台無しにするのは忍びないと、そう思っているのかもしれないが。
 それはあまりにも彼女自身を低く見過ぎだと思う。

 何せ、彼女は頭が良いのだから。俺の研究に巻き込んでしまえばいい。
 俺は今、秘密裏に医務室の先生と共謀して密かに飛び級している。これまで通り授業には通っているが、内容は全て知っている、退屈な授業だ。
 俺の授業、いや、自習は放課後から始まる。その内容は、魔力を単一の力として扱う研究だ。

 通常、魔法は詠唱の力で魔力を集め、それを杖に流して魔石の力を借りることで発生させている。
 しかし、これでは喉を潰されたり何らかの理由で声が出せなくなると魔法は使えなくなるし、杖か、あるいは魔石の嵌った法具が必ず必要になってしまうのだ。これこそが、金のある貴族か王族しかほぼ魔法が使えない原因となっている。

 そこを、俺は、詠唱なんていらない、杖も魔石もいらない、と提唱したいわけだ。
 実際、俺は魔法を使う時に詠唱なんてしてないし、杖も魔石も使ったことは無い。俺の魔法を使う原理は至極簡単だ。俺の魔力を呼び水にして大気中の魔力を刺激し、イメージ通りに誘導するだけ。
 コツは大気中の魔力の動きに逆らわないことだ。逆らうと高確率で失敗する。

 けれども、それはあくまで俺の感覚的なもので、学術的に証明されたものではないのだ。だから、俺はこれを証明して、一部の、本当に必要としている人の下に届けたいと考えている。
 この成果を貴族連中や王族に渡すのは論外だ。どうせやつらは話を聞かない。孤児の俺の話なんぞは。
 では誰に届けるかと言えば、金が無いが生きる術もない、この少女のような人の下に。

 どうやってするかと言えば、医務室の先生に協力してもらい、各地の医療従事者に届けるつもりだ。
 勿論特に口の堅い者に。そこから、孤児院のシスターのような人間に伝われば良いと思う。

 俺が提唱する理論には魔力は自分の力で操れるものだという認識がある。
 これを彼女には実証してもらいたい。そうすればこの奇病も治療可能となるというわけだ。
 それに___

「日々、漏れ出しているのはもう分かってるだろ?それが魔力だ」
「……仮にそうだとして、どうすればいいの?形の無いものなのに?」
「俺が俺の魔力でそいつをつつくから、その流れを誘導できないか試してみてくれ。無理に戻す必要は無い。少しでも方向を変えようと思ってみてくれ」
「……そっか、そんなこと、考えたこともなかった。やってみる…!」

 俺には俺のやり方というものがある。俺ほど自在に魔力を操れる人間もいないだろう。俺がまだ孤児だったころは生きるのに必死で、それが出来なければ今頃野たれ死んでいただろう。
 これは俺にとって生きる術で、明日を拓く力だった。
 彼女も、状況だけはほとんど同じだ。出来なければ死ぬ。それだけだ。

 その日から、俺の研究と彼女の試行錯誤が始まった。
 実際、あまり上手くはいっていない。何せ、彼女にとっては初めてのことで、ただでさえ日々、魔力が抜けて身体が怠くやる気が起こらない状態なのだ。
 それでも、彼女は食らいついている。
 それどころか、これまでより元気が良いようにすら見える。

 それはやることが見つかったからなのか、希望が見えてきたからなのか。

 そして、それは突然のことだった。

 兆しは欠片も無かったように思う。だと言うのに、彼女はひと月も経たないうちにそれをマスターして見せたのだ。
 それが出来た時は、流石の彼女も呆然としているようだった。まるで自分でも出来るとは思っていなかったように。
 その様子がおかしくて、思わず俺が笑いを堪えて咳払いすれば、その表情のままこちらを向くものだから。思い切りせき込み笑い出してしまった。その様子をしばらく見ていた彼女はあっという間に表情を歪めて。

「……でぎだ。でぎだょぅ」
「おめでとう。これから、少しずつ、毎日やって行こうな」
「……う゛ん。ありがどぅ」
「…どういたしまして」

 それから、しばらく俺は彼女の頭を撫でてやった。よく頑張ったという意味を込めて。
 ただ、俺が庇護欲をくすぐられて撫でたくなったということもあったが。
 初めて撫でる彼女の頭は病人の頭にしては妙につややかに見えた。


 それから毎日。日に日に彼女の様子は良くなっていった。ひと月前の様子が嘘のように、ただ、体内に魔力が戻るだけで。
 ただ、どうしても身体はまだ少しやせたままで。お腹が減ったと騒ぐ彼女をどうにか宥めて少しずつ食べさせるようにしている。流石にそこはファンタジー補正をもってしてもどうにもならないらしい。
 彼女も何度も吐いたくせにけろっとして俺に量を要求するんだから。いや、揶揄っているのか?

 ただ、まぁ、揶揄って遊ぶほどの余裕が出て来たのなら良いことだ。
 前は冗談を言っても笑ってくれなかったからな。今は俺が冗談を言わなくともよく笑ってくれる。
 それが日に日に可愛らしくなっていくものだから、俺は顔を赤らめないように必死だ。
 何故ってそれは、彼女がまだ病人だからだ。ここで調子を崩されるのはよくない。

 けれども、それはあちらからやってきた。

 ある日から急に、彼女が恥じらうようになったのだ。
 完全に元の調子に戻ったのか、それとも急に俺を意識するようになったのか。思えば14歳と言えば元世界では中学2年生だ。いわば思春期真っ盛り。
 そこで俺が救世主のような真似をすれば惚れるのもむべなるかな。

 それでも俺は頑なにこれまで通りの態度を守る。何しろ、彼女は研究の被験者で、そこにそれ以上の関係があってはならないからだ。それがあると魔力より一層訳の分からないもので研究が不安定になってしまう。
 それは、そう、愛とか、恋とかそういうものだ。
 そりゃあ、奇病を患ってまだ生きたいと思っている人と救いたいと思っている人の間にロマンスが生まれないと断言するのは早計かもしれないが、そうだとしても研究に不安定な要素は不要なのだ。

 それは聡い彼女も分かっているはずなのに。
 このところ、彼女からのアプローチが激しい。
 どこでそんなことを知ったのか、あーんを要求したり、頻りにボディタッチしようとしてくるのだ。
 普通、逆ではないだろうか。男が女にするなら分かるが、これはいわゆる逆セクハラでは。

 そう思うものの、俺も年齢的には思春期だ。前世の年齢を加算するにしたって、肉体は思春期のそれで。
 興味が無いではないだけに、その誘惑に抗うのはかなりの困難になってしまっている。

 だから俺は、一つ彼女と約束をすることにした。

「俺からの最後のお願いだ」
「え、何?急にどうしたの?」

 俺はこれまでも、ずっと彼女にはお願い、という形で指示を出してきた。
 魔力の誘導の時も、食事を取らせるときも、常に彼女の意思を確認してきた。
 だから、最後とあって、彼女も緊張しているのかもしれない。いつもよりは少し緊張しているようだ。
 俺はたっぷり30秒ほど溜めて、それを言い放った。

「もし、残り3年で体調が戻って無事卒業も出来たら、その時は俺と共に来て欲しい」
「……ぁ」

 ほんの数秒で内容を理解したのだろう彼女は、これまでにないほど顔を紅く染めた。
 そして伏し目がちになると、ゆっくりとした口調で念押しを始めた。

「そ、それは、ほんとうに?ほんとうに私で、いいの?」
「俺は君がいい。君じゃないと嫌だ」
「ぅ、うん。ぜったい、ぜったいに、あなたと一緒に行くから、ね?」

 そんな風に疑問形で曖昧なままに約束をしたけど。きっと彼女はやり遂げるだろう。
 これまでも快進撃だったんだから、大丈夫に違いない。

 その俺の予想は半分当たっていた。

 なんせ、彼女はものの2年でそこまで漕ぎ付けたのだから。

 どうやら彼女は欲張りにも、俺との新婚旅行の前に、学生生活も送ってみたかったらしい。
 そこで、俺たちは実質卒業をしたために、身分を偽り、更には変装までして編入生としての学校生活を1年。
 勿論、彼女と恋仲の関係で行うことになったのだった。
 俺はもう学校に用は無いのだが。彼女がそう言うなら仕方が無い。

 ここは一つ、彼女の失われた6年を一緒に取り戻そうじゃないか。

蛇足

 まさか、そこで彼女が俺の前世の恋愛マンガにあったようなシュチエーションの再現をし始めるとは思わなかったが。
 ベタなものからマニアックなものまで。

 もしかしてずっと俺とこんなベタベタで甘々なことがしたかったのか?と聞けば、恥ずかしそうに目を伏せながら、悪い?と逆に訊かれた。

 いや、悪かないが。そこまで想われていたとは思わなかったな。
 その時初めて、俺は彼女を心から幸せにしたいと思えたのだった。


終わり


ちょっと過激なオマケ
 ※ちょっぴり性的表現があります。苦手な人は注意!

↓ ↓ ↓

 今日は彼とキスした。ベッドにいた頃とは違って、長くてお互いの愛を確かめ合うようなキス。
 しっかり鼻で息もして。こんな淫らなキスを貴族の私が、それも寝床以外でするとは思わなかったけど。
 彼が夢で見たという世界では平気で人前でするらしい。
 そのことを疑ったことは一度も無い。だってそれを話す時、彼は妙に懐かしそうで。
 きっと、本当に体験したことなんだろうと思えるから。

 でも、そうなんだとしたら。彼は遊び過ぎだ。
 女の子を、て、手籠めにしてあんなことやこんなことまで。
 確かに当時は他に話すことが無くて、反応の無い私をどうにかしようと思ってたんだろうけど。
 それをこの間急に思い出して、それを彼とやれたらどんなに幸せだろうって。そう思ったら。
 急に彼のことを見るのも恥ずかしくなってしまって。

 きっとこれが恋というものなんだって。初めて分かった。
 元々、彼に抱く感情は彼の話す友情のようなものだと思っていたけど。
 まさか、私がこんなことになるなんて思いもしなかったけど、彼の献身は確かに私の時間を動かして。
 それまでは平気で部屋で着替えをしたりしていたのに、それが急に恥ずかしくなってしまって。
 それを言い出して部屋の外で待っていて欲しいと言った時の彼の顔は今でも覚えている。
 少し驚いて、だけど、少しニヤついてもいた。それを怒ることもできないで。

 それに……、自分で慰めるところも何度か見られてしまっている。
 彼は未だに医務室のベッド一つを占有しているらしく、そこで寝泊りしているのだけど。
 時折、起き出して夜中トイレに立つ際に、寝ぼけて私の部屋へと入ってきてしまう。
 それがあまりに突然だから、悶々として寝られずに一人慰めている私を見て、目を見開いて、顔を真っ赤にして逃げ出して。
 それを思い出しながら私は一人でシて。

 それは来てくれればいいのにとは思うけど。それは1年後にという約束だったから。
 きっと彼もそれを律儀に守ってくれているのだろうけど。
 私としては我慢できずに教室で、とか、校舎裏で、とか、やってみたい気持ちも無くはない。
 だけど、彼はかなり意思が強いから、してはくれないと思う。
 だから、長いキスとかをしてくれるんだろうけど。

 私はもっと触って欲しいし、もっと……濃厚なこともしてみたいと思う。
 彼はあれっきり、そういう話はしてくれなくなったけど、きっと私が知らないようなやり方も色々知ってるんだと思う。
 それは1年後のお楽しみなんだろうけれど。ああ、どうしてあの時私はあんなことを言ってしまったのかと、今でも後悔する。
 こんな生殺しみたいな1年を望むぐらいだったなら、直ぐに結婚してしまえばよかったのに、と。

 今日も私は悶々としながら股を擦って、彼が起き出してきた時、思わず股を開いてそこを広げて見せつけてしまった。
 暗くてよく見えなかっただろうけれど、彼は思わず前かがみになって走って行ってしまった。
 これはもう、寝ぼけても私の部屋には入ってきてくれないかもしれないけれど。
 私で興奮してくれたら、嬉しいな。

 それに、全部あなたが悪いんだから。
 どうしようもなかった私を6年の停滞から救い上げて。
 諦めていた全部を与えてくれた優しくて愛しくて__強い人。
 私よりも私を諦めないでいてくれて、私を私よりも信じてくれた人。
 あなたがいたから私は__んんっ

 ふふ、今日もゆっくり寝られそう。あなたのお陰で、ね。

本当におわり

* * *

あとがき

 最近、忙しいからか小説書きたい欲が中々湧いてこないんですが、これはたまたまの産物でした。ファイルのプロパティから作成日時を見てみると1/9で、更新時間を見る限りでは2時間ぐらいで書いてました。

 自分のことなのに全く覚えてないんですよこれ。衝動に任せて書くときは大体そうです。そんで投稿も忘れるという。まぁ、自分で読み返すために書いてるのでこっちが目的では無いんですが。

 では、また機会があればお付き合いください。

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