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夫よ

『ねぇ、あのおばあちゃんちょっと心配。』

夫がそういって歩いて来た道を振り返っている。
その視線の先を見ると、強い日差しの中ふらふらとした足取りでゆっくり歩くおばあさんの小さく丸い背中。両手には杖とレジ袋。万が一よろけたら顔か頭からいくかもしれない…。

と思っている間に夫はすでにおばあさんに駆け寄っていた。『次パン屋さんでしょ、すぐ追いつくから先に行ってて!』とわたしに言いながら。

夫が駆け出したその瞬間、おばあさんは生垣の縁に座り込んでしまった。
パン屋さんに行ってる場合なんかじゃない。
わたしはその場で見守ることに。

20mほど先で、夫がおばあさんに話しかけている。声が聞こえにくいのか、夫が耳に手を当てながら少し距離をつめると、おばあさんはマスクを取った。ちょっと辛そうな表情が離れていてもわかる。

夫は数ターンの会話の後、小さくお婆さんに手を振ってその場を離れていく。そしてすぐに角を曲がって見えなくなった。

えーと…。
とりあえず、おばあさんにもう少し近寄ってみる。遠目にも辛そうだったし、ちょっと離れた場所で様子をみよう。夫は何か考えがあるんだろうし。

しばらくして電話が鳴った。
『おばあちゃんの近くにいるんでしょ?大丈夫そうだよね?OS1買ってすぐに戻るから』
なるほど。

そして夫ははちゃめちゃな日差しの中、颯爽と戻ってきた。おばあさんにキャップを緩く外したOS1を手渡して、確認しながらそっと首元にひんやりグッズを乗せてあげていた。

ごくごくと飲んでいる。
おお!おばあさんが笑った!
大丈夫そうかな。

おばあさんとちょっとだけ言葉を交わしてわたしの元へ戻ってきた夫によると、
お昼ご飯の準備をしていたら豆腐がなかった。タクシーでスーパーへ来たけど、帰りはなかなか捕まらなくて歩き出したらしんどくなってしまった。少し涼んだら自分でタクシーを拾います。ということだったみたい。

夫がおばあさんを見つけたのはスーパーから50mほどの距離。ぴかぴかに晴れた最高気温35℃のお昼時は日陰が少ない。50mという距離はおばあさんの体力をカラカラにしてしまった。

おばあさんは歩いて帰るにはなかなかの距離のところにお住まいだった。夫はおばあさんの様子によっては一緒にタクシーに乗るつもりだったらしいけど、顔色を見て大丈夫そう。と判断。角を曲がる直前ふたりで振り返ってみたら、車道の近くまで行ったおばあさんが手をあげている姿と、減速し始めたタクシーが見えた。

よかったよかった。
夫よ。
君は体調はもちろん、多分おばあさんのこころも助けたと思うよ。


ご年配の方々にとても優しく、男女問わずモテる。気づいた時に、躊躇うことなく声をかける。
夫のそういうところ、ちょっとすごいと思う。

最近こんなこともあった。
ふたりでスーパーでお買い物中、使っていたカートから急に買い物カゴを取り出したかと思ったら、『新しいの取ってくるから待ってて』とその買い物カゴを持たされた。
え?という間もなく、夫がカートごと立ち去ってしまう。夫が進む先には少し重そうなお買い物カゴを持ったおばあさん。カートを譲っている。
おばあさん、笑顔ー。
夫、受け入れてもらえて嬉しそう。


1週間の間におばあさんを2人笑顔にした。
夫の何がすごいって、2人のおばあさんはわたしには見えていない。
あれ、これ夫がすごいんでなくて、わたしの視野が狭すぎるのか…。



そんな人生の先輩たちにモテまくる夫は今朝わたしよりも5分先に家を出た。
出かける間際に呼ばれたので玄関の方を見たら、おいでおいでと手招き。いやじゃと首を振ると、今日も1日がんばってね。と言って、キスを飛ばしてきた。


先日の夜の散歩
夫は自分で盗み撮りしておいて
躍動感がありすぎるとお腹抱えて笑っていた

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