夫語録②
夫語録シリーズその2。1はこちらからどうぞ。
夫は料理がとても上手だ。得意分野は、1年弱イタリアに駐在していたこともあってか、イタリアンだ。パスタやリゾットは素材の食感が引き立って、目が覚めるほどおいしい。
試行錯誤しながら数時間かけて作ってくれるカレーも、おかわり不可避の味わい深さである。作りながら味見して、「うわ、めっちゃうまいのできちゃった」とウキウキしている姿を眺めているのもまた、この上なく幸せなひとときなのだ。
そんな夫がよく言っているポリシーのようなものだが、
「作り手の意向を尊重する主義なのよ」
サラダにかけるドレッシングや刺身の醤油といったもの以外、よほどのことがない限り、私が作った料理に最後まで調味料を追ってかけることはない。わたしが添えるタレを自作した場合は、基本そのタレのみで食べるということをする。「醤油で食べてもいいと思うよ」と言ってもだ。
それは外食でもそうだ。ラーメン屋で胡椒や酢を加える姿を見たことがない。「こちらを加えてお召し上がりください」と言われれば、その通りにして食べる。
自分の好みの味に寄せて食べるのではなく、作り手が思う完成形としての作品をそのまま受け止める、という考え方らしい。
料理を食べるとき、夫はあまり喋らない。表情もあまり動かない。
でもそれは、まずいからではなく、作品と真剣に向き合ってくれている証拠なのだ。
基本「うん、うまい」と言ってくれるので、ほっとするし、作り甲斐があるな、と思う。「これ、調味料は何を使っているの?」と訊かれると嬉しい。
特に上手にできると、「きみを〇〇大使に任命しよう」と言ってくれる。
そんな夫の好きな私の料理は、ハンバーグと鶏の唐揚げ。わたしはハンバーグ大使と唐揚げ大使、というわけだ。
どちらのメニューもひと手間かかる、というか、かけたいので、夫といるときにしか作らない。
だからこそ、作るときには、目に見えない、言葉にならない愛情をたっぷり込めて。
夫が駐在に先立ってここ1か月間、自分のためにしかご飯を作っていないので、夫に会ったら久しぶりに腕を振るいたいな。夫が作ったパスタも食べたい。