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生まれゆく色彩に心奪われたまま


十月の金木犀の香り

奥ゆかしくふんわりとした漂いに反して
はっきりとした橙の実の色は
そうー
貴婦人の様な品格と
堂々たる佇まいさえ感じるほどです

短い命なのは初めからの運命であるから
終わりまでの日々を
愛おしく
そして大切に過ごさなければと

彼等のお陰で
私はいつも秋の訪れを
穏やかに迎えることができるのだから

そうして見守られ
日々体温に触れられることが
どんなに恵まれていることか

それなのに、

それなのに
時折忘れてしまうことがあるんです

彼等の香りが弱まることで
季節のすべての色彩が失われていく様で

春の淡紅なる花々や新緑の芽吹
初夏の鮮やかな青空と眩しい太陽の光

生まれゆく自然の色彩に
心を奪われたままでいたいのです

瑞々しく咲く薔薇色の記憶で
留めたはずの美しい景色が
ひとつまたひとつと
彩度を失って
私の心の内から
消えてしまうのは嫌なんです

だから
どこまでも新しい生命を感じる
植物の香りは
私にとっては特別なんです

見えなくとも
触れられなくとも
きたるその時を待っているだけで
私のちかくで
在り続けているのだと
微かな希望を
想うことができるから

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