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第10話◉ラップ現象◉

リリーの同級生と学生時代のお話

今夜はいつもと雰囲気が違う【Bar Siva】になりそうだと、ボーイのサトシは感じていた。

というのも、今夜の最初のお客様がママの同級生だからだ。

定刻の5分前に店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ〜」

サトシはそう言うと看板の電気をつけに厨房へ行った。

入って来た男性は、真っ正面に立つリリーの前のカウンター席に座りながら言った。

「久しぶりだな。相変わらずで何より」

リリーは緩んだ笑みで

「元気そうで何よりね。何呑む?」

と同級生のその男性へ言った。

その男性、鍋島は

「お前何呑む?」

と聞き返して来た。

リリーは

「呑まない選択はないわ」

と満面の笑みで答えた。

鍋島はサトシへ向かって

「ビール2つ!」

大きい声で注文した。

リリーは

「鍋島、今日は単に同級生に会いに来たってことでいい?」

いきなり聞いた。

鍋島は鞄からタバコを出して火をつけた後に答えた。

「ま、そんなところかな?

お前の評判は聞いてる。

でも、子供の頃から知ってる俺としては半信半疑でもあるしな。

どんなもんかと思って予約入れてみたんだよ」

リリーもタバコに火をつけて

「気持ち悪い話よね。

同級生が占い師って…

普通笑えるわ。

あの頃は視えてる話をすると気持ち悪がられてね。

それで無視されたり、いじめられたり…

今となっては懐かしい話だけどね」

ニヤッとしながら言った。

「それもだけど。

俺、思い出した事があってそれも直接聞こうと思って」

鍋島は鞄からメモを取り出した。

「何それ?万全なスタイルね」

リリーは笑いながら言った。

「すぐ忘れるタチなんだよね〜。メモするのは癖だな」

鍋島はメモをめくりながら答えた。

そこへボーイのサトシがビールを2つ持ってきた。

グラスを受け取ったリリーと鍋島はお互いの顔を見た。

リリーが、すかさず言う。

「同級生にカンパーイ」

2人はグラスを軽く当ててビールを呑んだ。

リリーが切り出す。

「で、そのメモには何が書かれてるのかしら?」

鍋島はメモを再度確認してから答えた。

「中学の時にお前が白井を助けた話って噂で聞いたんだけど…

それって、どんな話?」

「白井の話?

それってラップ現象の件かしら?」

リリーは記憶を辿りながら訊いた。

「多分その話だと思う。

お前が白井の家にも行った事ないのに色んなことを言い当てたって騒ぎになってたぞ」

鍋島が茶化す様に答えた。

リリーは悪戯な笑みを浮かべて言った。

「色んなことって何よ。

話が大袈裟になってそうな噂よね」

「実際の話、聞かせてくれないか?」

鍋島が急に真顔になった。

リリーは鍋島の様子を見て真面目に話し出した。

「そうね。

あれは中学3年の時だったと思うけど、白井に急に相談されたのが切っ掛けだったわ」

リリーは当時を振り返った。


中学校の教室で

白井は、リリーが座ってる前の席に腰掛けて唐突に言った。

「リリーは視えるって本当?」

リリーは表情も変えずに答えた。

「何で急にそんなこと聞くの?」

白井が言いにくそうに口を開いた。

「実は…

私最近、毎晩、ラップ現象っていうのかな?

それに悩まされてて…

予想も出来ない物音が部屋でおきてて…

怖くて…怖くて…

でも親には信じてもらえなくて…

本当にどうしたら良いか分からなくて…」

白井は涙目になった。

「どんな感じで音が鳴るの?」

リリーが質問した。

「パキンッて音が大体夜の11時から鳴り始めるの。

寝ようと思うと余計に音が激しくなって、寝させてもらえない状態になるの。

両親に相談しても信じてもらえなくて毎日眠れなくて…」

白井の声は震えている。

リリーは白井をじっと見つめた後に

「手を握ってもいい?」

と訊いた。

白井は涙をこらえながら頷いた。

リリーは白井の手を握ると、ゆっくり目を閉じた。

霊視

リリーが閉じた瞳の先に道が開いてみえる。

その先に白井の家へ繋がる道。

そこを通って白井の家の前へ到着した。

目の前の玄関のドアをあけて中に入って、すぐ右のドアを見た。

そこが白井の部屋だ。

そのドアを開けて白井の部屋に1歩踏み込んだ、その真上に…人が…人がいる。

男性…

悪意というより嫉妬。

寂しい感情がうごめいている。

リリーはそこへ意識を集中した。

そして、全てが分かった…

リリーは目の前の白井に意識を戻して口を開いた。

「白井の家の入ってすぐ右のドアがあなたの部屋でしょう?」

白井は目を見開いた。

「なんで?来たことないのに、なんで?」

リリーは左手人差し指を口に当てて

じっと白井の目を見つめて話を続けた。

「部屋に入ってすぐ上の天井に人がへばりついているの」

それを伝えると白井は動揺を隠しきれずに大粒の涙をこぼした。

リリーは白井の顔を覗き込んで

「大丈夫?」

と声をかけた。

白井はうつむいたまま小さく頷いた。

「その霊の正体はあなたのお兄さんよ。

生まれてくるはずだったの。

でも、生まれることなかったの。

その理由はおそらく金銭的なことね。

お父さんとお母さんはその時、若かったからお兄さんを産むのを断念したのよ。

愛してないわけじゃないの。

ただ、その時は仕方がなかったの。

あなたのお兄さんは自分は生まれることが出来なかったのに、あなたはこの世に生を受けた。

それがうらやましくもあり、妬ましくもあったのよ…

供養もされてないみたいだしね」

リリーは淡々と説明した。

「でも私、そんな話聞いたことないんです」

白井が言う。

「お母さんもわざわざ言いたくないんだと思うよ。

でもそれを話して、供養してあげると今のラップ現象は無くなるわ」

リリーは優しく話した。

白井が泣きながら

「帰ってお母さんと話してみます。

ありがとうございます」

そう言って何度も会釈しながら教室を後にした。

・・・

話を聞いていた鍋島が

「その後どうなったんだ?」

タバコを片手に聞いた。

リリーはタバコの煙を吐き出した後に答えた。

「白井、家に帰ってからすぐにお母さんにお兄さんの存在を話しても笑って信じてくれなかったらしいの。

そこで白井は辛くなって泣いたみたいよ。

さすがにお母さんもビックリして真剣に話を聞いてくれてたみたい。

もちろん、生まれなかったお兄さんの存在も認めたって。

それから後日、水子供養のお寺に家族皆んなで行ったらしいわ。

その時にそこのお坊さんも視える人だったらしくて、私と同じ様に白井の部屋に入ってすぐ上に男性の霊が貼りついているって言われたらしいわ。

白井、驚いて声も出なかったって後で教えてくれたわ。

その時そこでお兄さんの供養もしたみたい。

それから、ラップ現象も全くなくなったって言ってたわ。

って…懐かしい話だね」

リリーも遠い昔を思い出しながら懐かしい気持ちになった。

鍋島は白井の件を聞いて

「そんな話だったんだな〜。

俺、全く知らなかったよ。

今度、お前を紹介したい人がいるんだけど、紹介しても良いかな?」

改まって言った。

「何よぉ。

そんな他所様の言い方。

何も気にせずに何でも言ってみて。

ダメならダメ、無理なら無理って言えるから私」

リリーは笑い混じりに言った。

その鍋島の話はまた今度。

今宵はココまで…

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