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第23話◉父親の葬儀◉

視える人の葬儀

今日は特別な日だ。

【Bar Siva】オーナーママのリリーは喪服を着て出勤している。

ボーイのサトシは心得ているから何も聞かない。

今日はリリーの父親の命日だ。

リリーは毎年この日だけは喪服で出勤する。

そしてリリーは父親が亡くなった当日に想いを馳せた…

あれはそう…

危篤の時に電話があった。

リリーのすぐ上の姉からだ。

「危篤って連絡が来たから病院に行ってくるね。

いろんな準備してて」

その電話はとても慌てていてた。

そして業務的だった。

リリーは電話を切った後に娘たちに事情を説明して荷作りをさせていた。

そして再び、すぐ上の姉から電話があった。

「私も間に合わなかったわ…

明日ゆっくりおいで」

リリーは父親の死を予感していた。

最後に会った時に生きてる父親を見るのはこれが最後になると解かっていた。

解ったうえで見送りの手を振っていた自分を思い出す。

だからと言って特別何もしていない。

これが運命だと受け入れてるからだ。

次の日、長女の学校に連絡をして事情を伝えた後に新幹線へ飛び乗った。

末娘が静かに新幹線を過ごせるか心配だった。

何とか時は過ぎ…

目的地に到着した。

すぐ上の姉の旦那様が迎えに来てくれていた。

リリーは安心して葬儀場に連れて行ってもらう間に口を開いた。

「申し訳ないんですがどこかタバコを買える場所ってありますか?」

義理の兄が優しく答えてくれた。

「大きめのスーパーに寄りますのでそこで大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。

充分です。

よろしくお願いします」

リリーは礼を言いながら遠くを見つめた。

大型スーパーに到着して皆んなで買い物へ出た。

リリーは父親が生前吸っていたタバコの銘柄を探した。

だが、東北の震災から1ヶ月のこの時期にその銘柄は見つからなかった…

仕方なく昔吸っていた銘柄のタバコを2箱と父親が生前好きだった

『どら焼き』を買った。

リリーはひと安心して葬儀場で待つ姉達と合流した。

・・・

そこには姉3人と長女の旦那様、長女の娘と息子、次女の娘2人、三女の旦那様の御両親、そして息子が勢揃いしていた。

リリーは娘たちと一緒に挨拶をしながら、その部屋に入った。

「お疲れ様です。

色々と準備ありがとうございます。

皆んな、お久しぶりですね」

すぐ上の姉、かっちゃんが即座に話す。

「やっと来たね。

父さんはどこにいるの?」

唐突だ。

しかしリリーも普通に対応する。

「そこにいるじゃない」

棺桶で横たわる父親の横でカジュワルに座っている父親の意識体を指差した。

そしてリリーの子供たちがそれぞれに素直に言う。

「じいちゃんって、2人いるの?」

「えっ?

じいちゃんって黒髪だったかな?」

リリーが普通に答える。

「じいちゃんの遺体がこっち。

で、このひとが少し若い頃のじいちゃん…

おそらく自分で1番カッコいいと思ってる時のじいちゃんの姿だと思うわ」

子供たちは質問した割には興味がなさそうに答える。

「へぇ〜。

じいちゃんやるねぇ〜」

それから…

通夜の準備が整い、身内だけで通夜がおこなわれた。

その時、お経をあげられているのに棺桶の周りをウロウロする父親に目を奪われながらリリーは通夜を終えた…

その後、親族が皆んな泊まれる様に布団等が用意されている中でリリーの姉、長女が口を開いた。

「とにかく、4人で話をしましょう。

色々決めたいから席について」

4姉妹は何も言わずに話し合いのテーブルについた。

長女は続けて話す。

「お父さんの墓をこちらにするか?

リリーがいる長年暮らしていた場所にするか?

散骨にするか?

どれがいいか父さんに訊いてくれない?」

父さんに訊く??

普通には無い会話だがリリーの家系は血筋だ。

しかし皆んな父親の意識体が視える訳でもなく、意思疎通も出来ない。

だからこそ、リリーに訊いてくるのだ。

リリーは父親の意識体に

「そう言われてるけど、どうする?」

普通に訊く。

「うちの地元に墓の土地を買ってあるから、そこにしてって言ってるけど…」

「じゃ、そこで」

長女が促す。

「だとしたら、リリーが墓守になるけど?」

長女が続けて話す。

リリーは表情も変えずに答える。

「いいけど…

墓は建てるってことね」

「では、それはそれでよろしくね」

そしてリリーのすぐ上の姉が口を開いた。

「私、父さんの大好きな酒とタバコを取り上げたの。

病院とか施設とか、そんなところで無理じゃない?

やめて貰うしかなかったの。

でも、とても恨まれてる気がするの。

どうかな?」

リリーは意識を更に父親に集中して目を閉じて問いかけた。

しばらくしてリリーは、ゆっくりと眼を開き答えた。

「父さんはかっちゃんのことが大好きで介護されるって家族会議になった時にかっちゃんの側を希望したの。

早くに独立させて苦労させたという想いと、1番下の私は生まれる予定でもなかったから、余計にかっちゃんが可愛いんだってさ。

そのかっちゃんが自分のことを想ってやったことだと解っているから全く怒ってもないよ」

リリーが伝えてる途中からかっちゃんは嗚咽をあげて泣き出した。

「わたし…

恨まれてるって…

そう思って…

ました…」

かっちゃんが泣きながら話した。

続けてかっちゃんが話す。

「最期に…

逢えなかったけど…

父さんは…

グスッ…

寂しくなかったのかな?」

「全然大丈夫。

父さんは自分の実の母親が迎えに来てくれたから綺麗に体から抜けれたみたいよ」

リリーは柔らかいトーンで姉に話した。

かっちゃんはそれを聞いて更に泣き崩れた。

父さんの実の母親は父が幼少の頃に病弱で亡くなっている。

母親の愛情に飢えて育ったことを姉妹全員知っていたからだ。

病弱で父を愛していても構うことが出来なかった祖母…

若くして亡くなったせいかもしれないが、とても美人な人が迎えに来ている。

父親もウキウキしている。

リリーもさすがに少し苦笑いした。

そんな状況でその他の取り決めも亡くなったはずの父親に確認しながら家族会議で決めていく。

リリー達四姉妹が話し合いをしている周りで、姉達の旦那様やかっちゃんの義理の御両親はポカーンとした状態だ。

そんな中リリーは長女に直球で聞いた。

「姉ちゃんは人が死ぬのが匂いで解る人だよね?

何で父さんの事は分からなかったの?

前日に病院に行ったんでしょ?」

「そうなのよ。

私もビックリよ。

父さんはこの世に全く未練がない人だったみたいで…

そう言う人は死臭がないみたいだね。

私も貴重な経験させてもらったわ」

長女が饒舌に話す。

リリーはニコリともせず

「それって能力的にどうなん?

わかってたら対処出来たこと山程あるし。

死ぬ時に誰も間に合わないなんてことにならなかったんじゃないの?」

淡々と話した。

長女は悪びれた様子が1ミリもなく

「私も新たな発見だったわ」

と大袈裟に言った。

大きな溜息をリリーはついた。

そして…

明日が御葬式のこの夜に…

この後、新たな事件が起こった…

その話は長くなるので次回へ。

つづく…

今宵はココまで…

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