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小笠原一人旅【旅行記:2日目/前編】

【2日目 前編:  父島へ】

※1日目はこちら

7月6日 木曜日

① 上陸

朝4時。
スマホのアラームが鳴った。
電波が届かなくてもしっかり目覚まし時計として働いてくれることに感謝。
もう君がいないと朝も起きられない。

今日の日の出は4時41分。
(ずぼらのくせに日の出と日の入り時刻だけは抜け目なくチェックしている)
なのになんでそんな早くに目覚まし?
と思われるかもしれない。

実は、日の出時刻というのは「太陽が水平線から顔を出し始める時刻」だけれども、空はその大分前から明るくなり始めるので、夜明けの雰囲気を楽しみたい人は注意が必要なのだ。
4時41分が日の出なのであれば、遅くても30分前の4時10分頃には観測を始めたいところ。

とりあえずコンタクトをつけて、すっぴん隠しにマスクもつけて、寝ていたダサい部屋着のままデッキへ向かう。
どのくらいダサいかというと、上はレッチリのメンバーの似顔絵が描いてあるTシャツといえばお分かりか。
いや、誤解を与えてはいけない。
レッチリがダサいのではなく、レッチリの似顔絵Tシャツに夏休みの小学生みたいな半パンを履いてうろうろしている私がダサいのだ。

外へ出ると、日の出プロの方がすでに数名腕組みをして待っておられ、空はもうなんとなく明るさを獲得し始めていた。

「ああ、こりゃ拝めんかもなあ」

と、瞬間的に思った。
空全体を薄い雲が覆っている。
経験上、今日のような空の時は太陽が顔を出さず、空全体が明るくなって終わり、というパターンが多い。

それでも、一縷の望みかけて日の出時刻ぎりぎりまで待ってみる。

来いッ…!
お前ならやれるはずだ……!

厚かましい励ましも虚しく、空はぐんぐん明るくなっていくのに、お日様の姿はやっぱり見えない。
いやはや、姿も現さないまま世界を明るく照らしていかはるなんてすごいですなあ。
なんて、いけずも言いたくなるってもんだ。

ふと時計を見ると、いつの間にか日の出予告時間になっていた。
ちょうどその頃になって、たくさん人が集まってきたので、さすがに諦めてデッキをあとにする。


やけくそな気持ちになって、船内の椅子で昨日買っておいたパンをどかぐいしてから二度寝した。


8時。
同じ部屋の人たちはもうみんな起きて座っているか、そもそもいない。
朝食をとりにいっているのだろうか。
えらい。

のそのそと起き上がり、朝のしたくを整える。
9時からデッキで説明会があると昨日案内があったけど、それには十分間に合うだろう。

8時半。
売店でホットコーヒーを買って、デッキ6へ出た。
同じようにコーヒー片手に海を見ている独りの女性が何人かいて、なんとなく親近感を覚える。

「9時から×△~デッキで~~○×」

アナウンスがよく聞こえなかったので、甲板へ上がってみた。
カモメが数羽、船のまわりを飛んでいる。
大海原をずっと飛ぶのはやっぱり疲れるのだろうか。
いつでも休めるように船の周りにいるのかも。
一眼で、カモメの写真を数枚撮る。

迷子のおばあちゃん二人組に「さっき観光の解説があるって放送してたの、ここであってるのかなぁ?」と尋ねられたので、

「なんか7階がどうのって聞こえましたよねぇ(知らんけど)」
と、なんの参考にもならないあやふやな回答をする。

おばあちゃん組は「だよねえ!」と、なぜか大きく頷いてその場にとどまっていた。

(ここって甲板だけど、7階なのかしらん…)

9時近くになってもそれらしい人が来ないので、たぶんこれは間違えてるなあと思って階段を降りてみたら、すでに説明が始まっていた。
なんかおばあちゃんたち、ごめんやで。
ワイ、場所まちごうてたわ。

しかもさっきカモメだと思っていたのは、どうやらカツオドリという鳥らしい。

そんな感じでなんやかんやしているうちに入港時刻が近づいたので、下船の準備をする。
おがさわら丸は、黒潮と南風の影響で、約20分遅れで港に到着した。

最下層の我々が船を降りる許可を与えられるのは、もちろん一番最後である。


② 父島

「あっつぅ」

そこかしこで嬉しそうな悲鳴が聞こえる。
暑さにテンション上がるのは脳がアドレナリンに侵された今だけだろうけど、この陽射し、小笠原に来ました感があってかなりよい。

この世に存在しているだけで汗が噴き出してくる。
もしかして生きてるってアツイってコト!?
おかしなテンションで一瞬悟りを開いた気にもなる。

しかし実際は一日通して東京の方が気温が高いらしいけど、そんなことはどうだっていいのだ。
我に返ったら負け。
それが旅というものなのです。

ところで、小笠原の宿泊施設は、父島と母島の二カ所にある。
おがさわら丸で降り立つのが父島。
母島はそこから船でさらに2時間移動したところ。
今回は予約をギリギリで滑り込んだので、唯一空いていた父島の民宿に3日間連泊する予定だ。

部屋に荷物を運んでくれた宿のお兄さんが言う。

「荷物めっちゃ重くないっすか? 銀行強盗帰りかと思いましたよ」

うん、この人とは仲良くやれそうである。

実際、今回の旅の荷物はかなり多い。
私は年に平均10回以上一人旅をしているので、本来は厳選して最小限しか持って行かないタイプなのだけれど、今回は事情がある。

シュノーケルセットが入っているからだ。
マスク、フィン、手袋、シュノーケルシューズと、これだけで相当な重さがある。
もちろんシュノーケリングツアーに参加される方はその時レンタル出来るだろうし、個別に潜る場合にもホテルやショップで貸し出してくれることが多い。

私も飛行機に乗るときは(格安航空信者なので)帰りのお土産の重さも含めて絶対に7キロ未満になるように調整しているけれど、今回はなんたって船旅だ。
どうせツアーにもろくに参加せず一人で適当に潜ることになるんだから、自前のものを持って行った方が安上がり、ドケチ旅行バンザイ、というわけである。

(ちなみに小笠原旅行に持って行くのにおすすめな荷物は、東京に帰って旅行記を全部書き終えてからおまけとして近日まとめる予定でいるので、参考にされたし!)

荷物を開いたら、宿を出る。
目的はレンタルバイクとご飯。

父島の街は狭い。
泊まっている民宿の周辺がいわゆる「街中」なので、全てが徒歩圏内におさまっている。

まずは、観光協会で原付バイクをレンタルする。
ちょっと真面目な話をするけど、小笠原のように勾配が多く、駐車場などの整備されていない土地での一人旅は、とにかく原付が一番便利だ。
車は一人だとコスパが悪いし、自転車は坂道がきつい。
私は去年、奄美大島へ一人旅したときに生まれて初めて原付バイクにチャレンジした。
小笠原諸島では、たとえ免許を持っていても一度も乗ったことのない人には貸し出してくれないそうなので、原付を借りたい方は内地で十分に練習してからいくと良いと思う。

お腹が空いて力が出なくなってきたので、近くの「理亀」というお店に飛び込む。
さっき、宿のお兄さんがランチでも亀が食べられるとの情報をくれたのよ。

このお店では、ウミガメを、刺身、ユッケ、煮付けで食べられるという。
親切なお店のお姉さんが、癖が強くないのは刺身かユッケですよと教えてくれたので、鶏卵の代わりにウミガメの卵が乗っているユッケとグァバ茶を注文した。

結果……

正直味は、あんまり身のしまっていないマグロの赤身と大して変わらなかった。
おいしいといえばおいしい。
けれど「私は今、あのウミガメを口にしているのだ」と思うと、不思議と妙な心地悪さを感じて喉を通りにくくなってくる。

なにより問題は卵である。
鶏卵のように、黄身の膜をやぶったとたんに全体にとろけ出す感じではない。
亀の卵は、プチッとやぶったところから、どろどろと中身があふれ出てくる。
その様は、知る人ぞ知る昔懐かし「たまごアイス(九州では「恐竜のたまご」ともいう)」にそっくりだ。

これには、うへえ、参った、と思った。
なんかしらんけど生理的に無理。
亀の肉に亀の卵を絡めてたべている自分に悪寒がして、グァバ茶で流し込む。

ただ、これに関しては、全然平気な人も、むしろ美味しいと感じる方もいると思うし、そもそも土地の食文化を否定する気は無い。
いわば関西人が「納豆にがて~」と言っているようなものだと理解していただければ幸いである。
私は納豆大好きだけど。

すなわち、ただの個人の感想です!
亀食は小笠原名物なので、ぜひ食べてみてね。


♪後半へ続く

↓2日目後編はこちら
https://note.com/lily1927/n/n43dd390f743e


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