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LILUA
2022年11月30日 17:42
―第10場―『羈絆と濁穢 の懸崖』 ―2022.11.10 37歳―「Rayが超知能AI?!AIが人知を超えたの……?それだと技術的特異点がもう起きてる事になるわ?純麗子は、プレ・シンギュラリティすら始まってないって話してたのに……。汎用人工知能だってまだ完成してないはずでしょ?」「何も分かってないのね……」と、蔑むRayの右頬に掛かる髪が、陽光に照らされ艶やかに輝き出す。探し
2022年11月27日 21:13
―第9場―『御伽と泥濘の象牙の塔』 ―2022.9.16 37歳―「ねぇ、一度でいいから、美嶺って呼んで?」と、どうして譲二に言ってしまったのか……。サトルがくれた名――。私はいつからか、“美嶺”として生きたいと願うようになった。 雪花の産んだ子を抱いた辺りから、純麗子は顕在意識の定席を明け渡す事が増えた。長く意識を保てるようになると、私は彼女の人生を奪い取れるのではないかと
2022年11月22日 22:58
―第8場―『輓近と嚮後の釁隙』 ―2022.3.21 37歳―『BCIデバイス』の最新モデルを、ゴールデンウィーク初日の4月29日に発売する事が急遽発表された。VRが生み出す精神障害や脳障害の報告が上がる中、メンタルサポートのスキームも遅々として進まず、輸入販売に対し慎重になっていた筈のトップが、突如販売に踏み切ったのだ。納得のいかない純麗子だったが、会社の方針に従うしかなかった。
2022年11月16日 23:57
―第7場―『崩壊と消散の中枢』 ―2022.3.14 37歳―「“フォルスストロベリー”……。聞いた事ないですね」純麗子の返答に敬三はあからさまに残念そうな顔を見せた。「そっか。純麗子さんなら仕事柄何か情報を持ってるかなって思ったんだけどなぁ。父はね、疾うに医師としての座は退いてるけど、優秀な脳神経外科医だった。祖父が終戦10年目に設立した小さな病院を、二代目の父がセレブリティ
2022年11月14日 12:24
―第6場―『浮泛と髀肉と静謐の天趣』 ―2022.3.14 37歳― 軽井沢から戻った週明け月曜日、匂い立つほど奥さんの気配がする優羽からのホワイトデーの贈り物に、純麗子の心の奥底はざわざわとさざめく。可愛いラッピングの中身は中野マルイで買い揃えたと思しき様々な洋菓子や和菓子の小分けで、女性社員から人気が高い夫の為に幾つも用意したのだろうと彼女は邪推した。 優羽にとって『髪切った?
2022年11月11日 10:05
―第5場―『艶羨と二豎の楼閣』 ―2022.2.28 37歳― 譲二の胸板に顔を埋めた状態で覚醒した。彼が純麗子の寝室で眠っているという事は、そういう事だ。私がグッと力を込めて抱き締めると、眠い目を擦りながらも彼は穏やかな声で「どうしたの?」と尋ね、額にそっとキスをくれる。そんな優しさに甘え、彼にとっての「もう一回」を求めた。彼が見ている私は、“純麗子”なのだとしても、……愛しい腕に
2022年11月9日 12:26
―第4場―『妖光と月華の水鏡』 ―2022.2.22 37歳― 純麗子は疲れ果てた状態で、顕在意識の御座所を明け渡した。譲二が当直なのをいいことに、長い間“Virtual-Earth”で過ごしたのだろう。 彼女から流れ込む脳内映像が示すのは、先程まで“Virtual東京ソラマチ”のすみだ水族館に優羽と居たという事。つまらない……と頭の中で声がして、悪い事は起きてほしく無いと思う反面
2022年11月5日 21:41
―第3場―『苦境に甘露の花園』 ―2022.2.15 37歳―「昨日はありがとうございました。昼休憩ですか?」偶然エレベーターで一緒になった樹が、Marlboroの箱をちらつかせながら純麗子に話しかけてきた。「ええ、コンビニへ」「……あの、もし良かったら下のカフェへランチに行きません?」「ごめんなさい。サンドウィッチを買ったら、すぐ戻らないと……。やりかけの仕事があるので」
2022年11月3日 16:33
―第2場―『快楽と虚栄の巨塔』 ―2022.2.14 37歳― 十数年振りに目覚めた世界では、美しく構築された仮想の三次元空間 “Virtual-Earth”を舞台に、多くの人々がアバターを用いてもう一つの生活を繰り広げていた。 付け焼き刃の知識だが、“Virtual-Earth”とは、AIが衛星情報を学習する事で自動生成し続ける3Dモデルの地球であり、世界最大のメタバースプラットフ