フォローしませんか?
シェア
LILUA
2022年10月31日 12:29
―Prelude―『Les Confessions』 謬錯の岐路は何処より、謀略の霞網は何処から――。 譫妄と腐蝕の覇者に、真正の怨敵に、他處で嘲弄されているとも知らず……。私は敗けたのだ。否――、 ―第1場―『背信と彎曲の新城』 ―2022.2.16 37歳― 誰かに抱かれるのは初めてだった。優しく髪を撫で、腕の中で甘えさせてくれる譲二が想うのは、慈しむのは、私
2022年10月28日 18:59
―2011.2.16 26歳― 純麗子が数ヶ月振りに仕事へ復帰し、3日目の事。水曜日は門叶医師の外来診療日であり、診療開始前、お見舞い返しにピエール・エルメ・パリのマカロンを手渡す。そしていつも通り、13時半頃に診療終了。扉口まで見送る為に、彼女は立ち上がった。「今日は18時過ぎには上がれます。ご迷惑でなければ、お食事にお誘いしても……?」と、門叶 譲二は視線をちらちら外しながら婉曲
2022年10月25日 17:45
―2010.9.15 25歳― 数週間前、純麗子は勤務先の大学病院で受けた子宮頸癌検診により、浸潤を伴う扁平上皮癌と診断された。進行期はIB1期で、腫瘍径は3cm 。術前の画像検査で子宮頸部以外に病変がないと認められた為、将来的に妊娠できる可能性を残す『妊孕性温存療法』として、『広汎子宮頸部摘出術』を希望した。 しかし、『広汎子宮頸部摘出術』は腫瘍径が“2cm以下”でなければ術式適応
2022年10月23日 15:34
―第9場―『喪失と零落の魔都』 ―2009.1.19 24歳― 暗澹たるクリスマスイヴの後、恭弥は姿を消した。闇金への返済が滞り、マグロ漁船に乗せられたなんて嘘みたいな噂を、純麗子は耳にする。迅もレストランに来なくなり、月2回の送迎についての連絡も無く、もちろん純麗子からもしなかった。 年末から彼女は咳が止まらない。咳をしながら接客する訳にも行かず、市販薬を飲み出勤していたが、長
2022年10月22日 07:07
―2008.10.6 23歳― 軽井沢で働き始めて2年目の夏。チャイルドマインダーという新たな夢を見つけた純麗子は資格を取る為に、休みを利用して月2回、埼玉県の大宮へ電車で通っていた。そして接客中の会話で偶然事情を知った迅が、大宮への送迎を申し出てくれ、敬遠していたはずの彼に甘える事となった。 彼は群馬県前橋市の工業団地にある自動車部品工場に勤めていて、社長は彼の父。親に買って貰ったA
2022年10月20日 12:35
―第8場―『天罰と逃竄の旅寓』 ―2007.4.21 22歳― 勢いで逃げ出した後、卒業までの約半年間をマンスリーマンションで過ごした。晋作と顔を合わせ辛く欠勤を続けた挙句にバイトを辞めてしまった為、11月に受ける筈だった正社員登用試験の受験資格を失った。合格を確実視されていた純麗子は、就職活動を一切しておらず、遅すぎる戦線も世は就職氷河期――。結局は母のコネで軽井沢の旅館に入った
2022年10月18日 10:07
―第7場―『憂心と黄昏の住宅街』 ―2005.12.26 21歳― 交際相手である晋作の父が膵臓癌で亡くなった。彼は高校生の頃にも母を胃癌で亡くしている。葬儀に出席した純麗子は、親族席からボソボソと発せられる晋作への批判に心を痛めた。「姉の亮子も妹の加代も嫁いでしもて、晋作だけで看よったんやろ?男一人では行き届かん事もあったやろな」「ホンマに看病なんかしとったんか?嫁にも逃げられ
2022年10月16日 12:16
―2004.11.15 20歳― 紅葉を見に行った時から、理咲凪とマスターの関係を感じ取っていたのにも拘わらず、交際を否定する2人に託けて、純麗子がマスターの横矢と男女の仲になるまで、そう時間は掛からなかった。 理咲凪と横矢が交際を認めずとも、空気感はもちろんの事、店に籍の無い理咲凪が斯うも献身する理由は他にないのだが、「若い頃、マスターとおばちゃんにお世話になったから」と紅葉の下で彼女
2022年10月14日 18:30
―第6場―『光艶と幻影の儚き遊郭』 ―2004.11.4 19歳―「飛田新地料理組合って分かる?一回見学に来てくれへん?」 純麗子が以前サクラで呼ばれたキャバクラのナンバーワンだった理咲凪は、良く世話を焼いてくれる女性で、純麗子が唯一連絡先を交換したキャストでもある。久々の連絡に驚いたが、彼女の誘いを無下には出来ず受ける事にした。 地下鉄動物園前駅で降り、南側の出口を上がると空
2022年10月13日 12:28
―第5場―『阿漕で繰返な酔いの街』 ―2004.1.5 19歳― 秋の終わりに突然、サトルと音信不通になった。彼がいつも誰かからの電話に怯えていた事が頭を過ぎる。純麗子は彼の失踪を機に、サクラから足を洗う事に決めた。……はずだった。 宗平とサトルを同時期に失い、高校の頃から通っていたbaseよしもとで再び出待ちなどをしてみたが、推していた主要メンバーは夏の『サマスマ03』で卒業し
2022年10月11日 20:27
―第4場―『不実と保身の悲愴な家』 ―2003.9.15 18歳―「もしもし、今どこおる!?」電話越しでも分かる程、興奮した声。「南森町。バイト終わって、地下鉄乗るとこ。宗ちゃんこそどこおるん?めっちゃ周りうるさいやん」「今すぐひっかけ橋来て!俺、飛び込むから!」阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝。16歳の宗平にとって、生まれて初めての事だった。 セレモニー中継が終
2022年10月10日 00:29
―第3場―『贋と侮蔑の歓楽街』 ―2003.8.9 18歳― 喪失感を埋めるためだけに目的も無く雑踏へ紛れ込む純麗子の胸中とは裏腹に、お盆の心斎橋筋商店街は賑やかだ。 イタリアの血が入っているからか、パッチリとした澄んだ瞳に鼻筋の通った綺麗な顔立ち。豊満な胸元の割にスレンダーなシルエットを携え、白く長い脚で闊歩する様は、玉砕覚悟のナンパを誘発する。もちろん素っ気なく遇らうのだが、純
2022年10月8日 07:14
―第2場―『寂滅と出顕の手術台』 ―2003.7.5 18歳―「なぁ、私らって付き合っとるんやんなぁ……?」「うん、そやなぁ」「ゴム……着けた?」「うん、着けとる着けとる」 確認は、した――。でも確認なんて何の意味も無い事に、彼女が気付くのは、処女喪失から3週間後の事だった。 ―2003.7.28 18歳―「あん時、ホンマに着けとった……?」産婦人科の角の電柱に寄り
2022年10月5日 22:26
―2002.12.13 18歳― 麻里香は地元に根付いた不動産屋の娘で、悪気なく傲慢な話し方をする癖があり、広い交友関係も心の内では自慢話が多いと煙たがられていた。純麗子が高校に入学してから、ずっと一緒に過ごして来たのが、麻里香と津巳季だ。津巳季は目立ちはしないがサバサバとした美人で、純麗子はいつも頼りにしていた。「ミラボ買いに行こー?」津巳季が純麗子の腕を取る。純麗子は大慌てで財布