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「おっさんずラブ」テレビ史における「先駆け」的な位置づけ

おっさんずラブ。
それは2016年の単発ドラマから始まり
2018年天空不動産(連ドラ)
2019年天空不動産の劇場版
2019年inthe sky(連ドラ)(話の流れ的にこちらには今回は触れてません)

そして2024年不動産の続編、リターンズ(連ドラ)へ。
2024年1月放送開始。現在3話まで放送されているが、世界トレンドが1話が2位、2〜3話が1位とSNSを中心に話題沸騰している。TVerなどの配信の再生数も3話放送日時点で見逃し配信総再生数450万回超えをしている。

なぜこんなに人気があるのか。
きっと随分いろいろ書かれ尽くされてるけど
その人気の一因の一つとして「先駆け的」作品であるからだろうと私は思う。

ここから先は私的な体感での漫画、小説、テレビの振り返りだ。私は職業ライターでもなく、研究者でもないので、特に創作作品の歴史において間違った認識もあるかもしれないけど、その時代を生きてきて、なんとなくそういう認識をもっている一般人もいるということでご容赦いただきたいです。 


さて、おっさんずラブはいわゆるBL(ボーイズラブ)にジャンル分けされることが多い。これはわりと最近(と言っても20年くらい前から言われてるような気がするけど)つけられた商業的な言い方らしいけど、英語としてはBOY、つまり少年なのだ。私もBLという言葉になんとなく少年、青年のイメージがある。

それが、おっさんが主人公のドラマいうのがまず珍しかったのではないか。そして「男性同士」の恋愛を描いたものは映画ではすでにあったが、テレビドラマとして男性同士の恋愛をはっきり描いたのはおそらく『おっさんずラブ』が初めてだろうということ。さらにいえば、原作のないオリジナル脚本のドラマだからではないか。

唯一無二。

つまりは先駆けだったから。

ここから長くなるが、このおっさんずラブにいたるまでの、私が体感する同性愛作品の流れを書き留めたい。話は必ずしも冒頭に戻ってくるのでしばしご容赦ください。

私はいわゆる「腐女子」というほどまでの熱情は多分持ってないと思うし、男性同士の作品が好きだったわけではないけど、アニメや漫画が普通に好きな女子だった。

日本には1970年代から少年同士の恋を描いた漫画があった。この辺は生まれてなかったりして、私も体感してないけど、耽美系とか雑誌の名前からジュネ系とか言われたらしい。

読んだことなくてもタイトルは多くのひとが耳にしたことがあるであろう竹宮惠子の『風と木の詩』。萩尾望都の『ポーの一族』もそのくくりというのは乱暴かもだけど、エドガーとアランは男性同士で不思議な関係を築く。儚げで憂い顔で美しい顔の外国人少年の恋や不思議な縁。
しかし、これは男性同士を描きたいというよりも、愛情表現を異性で描くと時代的に制限があったので少年同士にしたのもあるらしい。

そのあとは、体感的に1980年代後半〜1990年代くらいからの、やまなし、おちなし、いみなし、の「やおい」。漫画やアニメの登場人物の好きなカップルの日常や恋愛風景を描いているイメージがわたしにはある。キャプテン翼、サムライトルーパー、シュラト、幽遊白書、エヴァンゲリオン…私の幼なじみも同人誌を作ってたし、同人誌等が売られるコミケ(コミックマーケット)はどんどん肥大していいった。
当時私も暑い夏の日、会場である晴海に行ってみた。特に強く推してるキャラはいなかったけど、どんなものか経験したくて。
沢山のひとがいて、テーブルが沢山あって、カタログは分厚く、膨大なありとあらゆる同性異性カップルの組み合わせの同人誌が売られていた。私はその熱量に立ちくらみがした。
温度的な暑さではなく、熱情の熱さに。
(ところでこの同人誌やコミック誌の全プレや通販で買うのに郵便為替使ったものですが、懐かしい!今もあるのかな?)
このころ、高河ゆんの『源氏』も読んだ記憶ある。『ぱふ』『Wing』という漫画雑誌も見たし、コバルトは愛読書だった。
私のコバルト文庫デビューは新井素子や赤川二郎で、ある程度までコバルト文庫はその系は出してなかったと記憶する。
でも途中から桑原水菜による転生を繰り返す男性同士の上杉氏の主人と従者の話『炎の蜃気楼』が大人気となり、見る間に「その系」が市民権を得て、普通に雑誌で「BL」が特集されるようになったと記憶している。コバルト文庫の雑誌でも特集されてるのを見て、すごい時代になってきたな!と感じたのを覚えている。

全てではないにせよ、「おっさんずラブ」の視聴者の女性の多くはいままでに私が体感してきたようような作品(もちろんそれ以外も)をいずれか少なからず目にしたり読んでいるのではないかな、と思う。
土壌があるわけですね。
もちろんそれを見たさにドラマを見たわけではないと思うけど、抵抗のなさというのか、スッとカップルに感情移入できる土壌。外国はどうかわからないけどに日本の漫画や小説が築き上げてきた土壌。
そして、それがあるから登場人物のカップルへの思い入れもスッとできる、のかもしれない。(もちろん全ての方がそうだというわけではないけれど)

さて、昨年の「はじめてのBL展」のレポを拝見すると、国内のBL作品にいたるまでの膨大な流れがわかる。
パネルの映像作品に単発含むおっさんずラブの文字も見える。ここでわかるのは「テレビマーク」がついているのは『おっさんずラブ』(2016年)か多分最初だということ。

テレビドラマといえば、私は未読だが、ゲイの登場人物が出てくる漫画をいくつか発表しているという認識がある、よしながふみの漫画が原作のドラマ『アンティーク西洋菓子店』をドラマで見た記憶があり、調べたら2001年放送だった。原作はたしかゲイも出てくるけどどうするのかな?と思っていたら、ドラマではオブラートにくるんでいて、そうきたかというイメージだった。
2015年に放送された『偽装の夫婦』は 天海祐希主演、沢村一樹がゲイという設定で、偽装の夫婦になるというものだった。このあたりから、ゲイとかそういうLGBTに関することがテレビドラマにおいても取り上げられきているのがわかる。 

その流れで現れたのが、単発版「おっさんずラブ」である。

引用ばかりで申し訳ないが、下記のBL作品の実写化の個人の方のまとめを見ると、BL実写化は2007年の映画からで、以降ずっと映画ばかり続く。
テレビドラマはこの方の年表には2018年のおっさんずラブからになっているが、2016年の単発『おっさんずラブ』がテレビ史において、おそらく最初の男性同士の恋愛を描いたドラマなのだ。
深夜とはいえ地上波で家にいながらにしてお金を払わず見れたこのドラマの存在は大きい。そう、これはテレビ史上に載る先駆け的作品なのだ。
はじめての作品だからこそこうして注目されたのだ。

2016年単発版では舞台俳優で有名な吉田鋼太郎の部長武蔵のヒロインぶり、後輩のハセに挟まれて苦悩する春田が描かれ、まさに原点。特に吉田鋼太郎のヒロインぶりはここでかなり完成されている。深夜とはいえここまで描き切ったのはすごい。

↓単発版を見た私のミーハーぽい感想(苦笑)
不動産編との春田の違いをポイントに書いたつもり。

この単発版が好評だったため、連ドラ化されたという2018年の天空不動産の連ドラは色々において絶妙だった。
田中圭と吉田鋼太郎は変わらないが、業種は変わり、林遣都を新たに三角関係の一人に位置させた。

この、田中圭の春田と林遣都の牧というカップルが、演じてる俳優自身の身長や体格のバランスと顔の造作の違い、キャラクターとしての性格の違い、コントラストが際立っていた。そう、もうこの二人に感情移入しちゃうわけですよ。特に単発版から春田は「男らしい無骨さ」より「可愛さ」がパワーアップしている。
「やってみー?」などの言い方や、酔っ払ったときの廊下での軟体ぶり、家事の絶望的な出来なさ、そして、モノローグに合わせての表情…「頭コツン」に、なにかがストンと落ちてしまった方は多いのではないか(苦笑)
かくいうわたしもそうだった。
田中圭が生きる春田創一はいろんな琴線をかき鳴らしていった。

この元々は男性に興味がなく、モテないけど誰にでも優しく、すっと懐に入ってしまう春田と、以前から男性が好きで、でもそれを表に出せず、大きな目をうるうるさせて、ストイックなまでに思い詰めてしまう牧。林遣都もまた、目の表情と諦めをはいたその口で視聴者を魅了していった。
吉田鋼太郎の部長のヒロインぶりもいわずもがな。
春田と牧の二人の間のハードルの高さが牧の家族や幼なじみのちずを巻き込み、葛藤やもどかしいすれ違いを生み出した。ここまですれ違うともうこれはふつうに恋愛ドラマだ。
ここでもう爆発的な火がついた。

今回リターンズでこの二人のことをすごく大切に思ってる方をSNSでたくさん見かけ、応援したくなる二人で、あるいはドラマにない日常を二次創作して見たくなるカップルなんだと実感した。
それだけキャラが立っているということで、武蔵を含め、それだけのキャラクターをオリジナル作品で生み出した製作陣はすごいというしかない。
天空不動産以降のBL系的なドラマはほぼ原作があるものなのだ。
オリジナルでここまでキャラを立たせて、魅せる。なかなかできることじゃない。

春田と牧、そして部長(武蔵)、周辺の人たち。突拍子もないようで、現実に近くにいそうな、同じ世界線に生きてるんじゃないかと思うくらいリアルな造形。

さらにタイトルからして「おっさんずラブ?え?どんなドラマ?」とみんな思うこと間違いなし。どんな内容かすぐわかるような分からないような。タイトルを見る人の無意識にすっと入り込んでしまう。

これだけの作品を単発以降生み出していったキャストと製作陣はまさに先駆けであり、私たちはそれを見て、度肝を抜かれ、腹を抱えて笑い、息を止め、ハラハラし、ドキドキし、体調が悪くなるほど涙し、最後の最後のいいところで「おあずけ」を食らうのだ(苦笑)

ああ、いいとも。手のひらで転がらされちゃおうじゃないか。いっそ心地いい。

さあ、リターンズ4話以降はどんな感情のジェットコースターが待っているのだろうか。
成層圏?宇宙?(ポスターそうだったしな)
どこまで連れ去られていっちゃうのだろうか。






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