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【中国留学】アパートを尋ねて三千里

放浪、徒労の留学初日

去年の9月1日。上海に着いた。記念すべき留学初日。

浦东空港で2時間さまよい、巨大なスーツケースを抱えたまま間違えて非常階段を降り、柵の前で保安員に呼び止められる。到着早々 当局が頭をよぎる。
やっとこさっとこタクシーにのれたものの、降りた後アパートがどの建物かわからず3時間さまよう

中国では、多くの場合、いくつかのマンションが集まった区画ごとに保安ゲートがある。そのゲート前でタクシーを降ろされたので(実際30m先の建物だったが、入り口が裏にありわかりにくかった)てっきりその中にアパートがあるのかと思い、でもゲートをパスする鍵がないのでうろちょろ警備員の顔を伺っていた。
中から住人らしき人が出てきた隙に、その区画のゲートをくぐってみた(不法侵入)が、アパートらしきものが見当たらない。唯一「空き部屋。電話番号:XXXX...」と壁に殴り書きされていたのを発見し、まさかここではあるまいかと思い中をのぞいてみたが、中のおじいさんと目が合ってしまい、見当違いであることを悟った末、サッサと移動した。

ちょうどその時、運悪くスマホの充電も予備充電器も切れてしまった。場所がまったくわからない。紙の地図はあれどリアルの土地とどう対応しているのかが全く掴めない。アパートの写真もない。辞書アプリも使えなくなってしまったので、偏差値2くらいの自分の中国語で人に尋ねるしかない。

紙とペンを使いつつ(表意文字の偉大さを身を以て感じた)、拙い中国語で警備員のおっちゃんに尋ねてみたものの、「アパートに電話してみたらええやん」みたいなことを言ってニヤニヤするばかりだ。いや、今のほぼ筆談で私の中国語力が偏差値2ってわかったやろ、このたどたどしさでよくそんな突き放せるな…しかもそもそも充電ないし、と半ベソをかきながらまたとぼとぼ放浪した。


しかたがないので、散歩するおばあちゃんや、軒先で自転車をいじっているおじいちゃんに、手当たり次第に聞いて回った。みんな親切で、住所を言えば「そりゃあっちだよ」と指差して教えてくれるのだが、何しろ方角で教えられてもザックリしすぎてわからんのである。そりゃ、どっちかといえば東にありそうということくらい、私にだってわかっている。ここよりすこし東の方でタクシーを降り、ここまでさまよってきたのだから。
(余談だが、中国では道を指す時に左右ではなく方角を使う。日本ではあまり意識したことがなかったが)


さらに運悪く、雨まで降り始めた。四次元ポケット並みになんでもつっこんできたスーツケースから折りたたみ傘を取り出す。しかし、例の四次元ポケットの中身は、どこか欠陥があるのがオチだ。私の傘も四次元道具と同様に、無惨にも荷物に押しつぶされ折れており、使い物にならなかった。トホホ。

しかし、中国は自転車社会だと聞いていた私は、なんと合羽も持ってきていたのだった(最寄りの駅やバス停まで数kmあったから…。実際は、雨が降ればほぼトゥクトゥク通学してた)。中国に来て最初に役立つ四次元道具が合羽だとは思わなかった。思わぬファインプレーだ。やはり四次元ポケットの中には、たまには先見の明をもつ道具も入っているので侮れない。


で、小さい子を連れた、優しそうな若ママが見えたので、また道を尋ねた。これが幸運だった。こういうときに、私はなんだかんだ運を持っていると感じる。

彼女は、私のアパートをマップで検索してくれて、わざわざ最後まで道案内してくれたのだ。マップをみているときに「遠ければタクシー呼んであげるよ」「もし見つからなければ今日ウチ泊まっていいよ」なんて言ってくれた。案外すぐ見つかり、近かったので徒歩だったが、その道中でも易しい中国語でいろんな話をしてくれた。まあ、どでかいスーツケースを引きずりながら、重い体を引きずりながら、土砂降りで水を得ているのに死んでいる魚と同様の目をしている女を見たら、さすがに憐れんで手を貸そうとも思ってくれるのかもしれない。

その若ママはWeChatを交換しようと言ってくれた。(中国では、よく道端で出会っただけでもすぐWeChatを交換しようと言われる気がする…)彼女のアイコンはちびまる子ちゃんだった。たまたま彼女は親日的だったのかもしれない。数ヶ月後、私に日本のおすすめの観光名所を聞いてきて、その後すぐ日本初上陸を果たしたらしい。よかったよかった。


別れ際、お礼に日本のお菓子を渡そうとしたら「いや全然大したことないから」と、どうしても受け取らない。ので、連れていた男の子に代わりに渡した。5歳の彼のちいさな手には、そのお菓子はあまりにも大きかった。それを抱えた彼はとても嬉しそうだった。その夜、男の子が私があげたお菓子を楽しそうに ほうばっている写真が送られてきた。こころがじんわり温かくなった。死んだ魚の目も生き返った。


トラブルを書こうと思ったのに、意外と幸先のよいスタートになってしまった。


【七転び八起記】
次回 「あの味を忘れないよ」編 につづく>>

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