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02.「ヨットで世界一周してみたい!」と言われた時の家族の心境(「奥さまは凄い」のか)

あなたがセーラーの家族だったとしよう。「世界一周ヨットレースに出たい」と言われたら、あなたはどうするだろうか。

「世界一周に出るのをオッケーするなんて、凄いね」と言われる事があるのだが、凄くはない。大変ではある。その辺りの心情を紐解いてみようと思う。私の場合はひとつ前のミニトランザット(大西洋単独横断ヨットレース)がこの心境になるタイミングだった。

2019年ミニトランザットのスタート会場(ラロシェル)。
こういうイベントごとで旗を使うことが多いようなのだが、見ていて統一感もあり、気分もあがる。

第一声

まず、え、それ本気で言ってるの?というのが率直な感想。私の人生において、大海を、ヨットで、しかも自分で&単独で横断したいなんて考えたこともなかったので、何言ってんだろう、と思った。元々思いつきであれこれやるところがあったので、また思いついちゃったのかな、位に思っていた。後日雑誌の記事などで「子どもの頃から大陸間をヨットで渡るのが夢で」とあるのを見て、聞いてねーよ、と、内心ツッコんでいたことをここに報告する。ヨットが好きなのは重々知っていたけれど、まさかこんな事になるとは、結婚当初は全く想像していなかった。

思いつきであれば話は尻すぼみに終わるのだが、しばらく経ってもまだ口にしていたので、これはどうも本当にやりたいっぽい、と判断。本気なら、スケジュール、予算、死なないための施策を考えてプレゼンして下さい、と依頼した。これはまだ本気度を知る段階で、本気でなかったら中身が齟齬だらけになったり、そもそも作らないだろうと思っていた。
そうしたら、計画が出てきた。「後からなんとかする」みたいな内容のところもあったが、全体感、どこまでが見えていてどこからが分からないのか、現時点で何が足りていないのかが分類できていたので、じゃー、まー、やってみたら?という運びになった。

2019年ミニトランザット参加セーラーの面々。ミニトランザットは外洋レースの登竜門と言われている。フランスからの参加が圧倒的に多い。

反対する理由

反対しないのか、と思う方もいると思う。逆に反対する理由を考えてみよう。

「危ないから」
→ 「はじめに」でも述べたが、私は全くのヨット素人だ。どう危ないかが具体的に分からない。恐らく本人の方が分かってる。
安全に横断するためにレクチャーを受け、「個人ではなく見守り体制のあるレースに出る」という選択には、なるほど、と納得。

「お金がかかるから」
→本人がなんとかすると言ってるんだからなんとかするんだろう。ちなみに借金する場合の上限は計画段階で見えていて、私からの資金提供はしない前提で合意。

「離れているのが嫌だから」
→ せっかく家族なのに一緒の時間を過ごせないのは淋しい、という面と、なんで私だけで家の切り盛りせんといかんのじゃゴラァ!そんな前提で家構えてないやろがアァン?という面とがあるにはある。まぁしかし、それで人生やりたかったこと出来ませんでした、とかいうのは本末転倒なので、ここは都度話し合いということに。

私の懸念点はこんなもんだったので、基本的にはクリア。3点目は、こまめに連絡を取って貰ったり、納得がいかないところは訴えて話し合う事で、都度解決するようにしている。一緒の時間が過ごせないのは大きなマイナスだけど、それを超えるプラスがあり、差し引きプラスならオッケーかなと考えている。

ミニトランザット1レグ終了後のカナリア諸島にて

基本的に人生は本人のものだと思っているし、本人のものであって欲しいと願っているので、やりたい事があってそれにチャレンジできる状況なら、やった方がいいと思っている。我が家には子どもなど、庇護すべき対象がいない、というのも大きい。お互いがそれぞれに立てていれば、夢込みでもまぁなんとかなる。私自身、自活できるだけの仕事をしたい、という希望が昔からあり、ありがたいことにそれが叶っている状況だ。だからカタワレが「自分の範疇で何とかするから夢を追いたい」というなら、反対するポイントが無かった。本人、ヨットが大好きだし、そこが1番本人の輝く場所だしね。好きな事をできるなんて、やるしかないでしょ。

「チャレンジを支える家族」が、世間では美化されてしまっている面もあるのではないかと感じる。期待に添えず残念だが、私はそこまで献身的ではない。前述の通り私は資金提供はしていないし、本人が家に帰ってくれば「忙しいんだよぉ😢」と耳の垂れたワンコ顔をしていてもどやすし(「いやいや、私だって忙しいわ!」)、Amazonで買ったものがじゃんじゃん届くので、時間指定をしろ!と説教するし(コロナ以降家で仕事をする事が多いのだがその間に荷物が届く)、家族としての時間をあまりに取らないと「家族でいるメリットはなんだ」と脅すし、とまぁこんな感じなので、「温かくなんでも笑って包み込んで送り出してくれる」訳ではないのである。本人の頑張りや努力が、かなり、とても、凄く大きい。よく頑張っていると思う。

2019年ミニトランザットを無事に完走
夕陽のタイミングでゴール

大変は大変、でも凄くはない

とはいえ、大変じゃないかというと大変ではある。1番大変なのはスケジュール調整。向こうの予定を横目で見ながら仕事やプライベートのスケジュールを立てるし調整する。それが風で予定変更になるとOMG、、、!な気分。「理由: 風」ってなんやねん。あとは害虫(GやM)が出た時は自分で闘わなきゃいけないし、話したいタイミングでなかなか話せない。レースに出ていると無事でいるか気もそぞろになる。大陸間を渡るのも大変だろうけど、日々の海を渡るのも、大変なんである。

もちろん家族ならではのことを見せてもらっていると思うし、世界の色んなところに出向く理由ができたこと、色んな方にお会いするご縁ができたこと、予想だにしなかった時間を過ごしていることは何にも代え難い宝物である。そして私の「大変」さは、主に自分の職場の理解とサポート、友人たちからのエール、美味しいご飯などによりかなり分散してもらっているので、ものすごくものすごく感謝している。そういう意味では、私より周りの方々が凄いと思う。本当にいつもありがとうございます。何かあったら、いつでも手を貸すからね!

長々と書いたが、私の感覚としては、奥さんは凄くなくて凄いのは本人と周囲の皆さまで、でも家族は大変だよ、でも色々楽しいこともあるよ、といったところだ。

2019年ミニトランザット表彰式。こういう場に居合わせられるのは嬉しい。一緒に走り切った仲間は、同じ学校の同窓生みたいな感じだ。

そしてどうなる今後の我が家

最後に、私の目下の悩みと言えば、このチャレンジはいつまで続くのか?である。ミニトランザット出場に合意した時にうっすら感じていたのだが、どこまで/いつまでやるんだろう、という、漠然とした恐ろしさみたいなのはある。そのため我が家では、プロジェクトごとの稟議制を取らせて頂いている。今承認されているのは、今回のGlobe40まで。あまり歯止めになっている感じがしないが、状況を確認するタイミングは必要かなと思っている。

#ヨット #世界一周 #旅 #応援 #外洋セーリング

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