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つなごうとした息子の手を、振りほどいた(1)

昨日、久しぶりに息子が学校で泣き叫んで私を呼んだ。
「おかあさん、行かんといて」

去年、小学校1年生だった息子。
5月ごろから登校渋りが始まった。
「学校は行かなくてはいけないところ」と思っていたから、息子が先生に抱えられて押さえつけられて泣き叫んでいても「お願いします」と言って、私は家に帰っていた。

それから、息子は先生のことが嫌いになった。
「あの先生はお母さんと自分を引き離すから、嫌だ」

これではいけないと思い、今年度は先生に「無理に引き離すことは絶対にしないでください」と伝えている。
担任の先生は理解してくれていて、一度も「無理に引き離すこと」はしていない。

2年生になって支援級に入ることで、通常級にくらべてずいぶんと落ち着いた息子。
それでも、ここ数週間は疲れが出たのか、「9時までね」と言っても「9時半までね」と言っても、私から離れることができなかった。


一昨日も10時になっても離れられなかったので、これはもうだめだと思い、先生に「今日は帰ります」と伝えた。
次の日、私はハローワークに行く用事があったので「今日はとりあえず帰ろう。でも、明日は頑張って行こうね。お母さん、出かけなきゃいけないから。」と息子にはよく話した。
息子もそれで納得したようだったので、休ませることにしたのだ。

それなのに、ハローワークに行く当日。
「9時までね」と言っても離れない。「9時半までね」と言っても離れない。
「バスの時間があるから、10時までには絶対帰らんなんげん。」そう言っても、離れてくれない。

気分転換をしようと、息子と近所のスーパーに行って、好きなお菓子を買った。「これ食べて、元気チャージしよ。教室戻ったら、お母さんとバイバイしようね」というと、だまって頷く息子。

「2限目は音楽らしいけど、どうする?」と聞くと「行きたくない、教室でプリントする方が良い」というので、「じゃあ、先生に相談してみよう」と言って、教室に戻った。


教室に戻ると、他の2年生の男の子たちもまだ音楽室には行っておらず、教室でうろうろしていた。
「じゃあ、お母さん帰るね」と離れると、またしても追ってくる息子。
「ねぇ、約束したやん。本当にもう、行かんといけんのやって。」そう伝えても、私の手を放そうとしない。

2年生のAくんが、息子の腕をつかんだ。ぐっと、身体を抑え込む。
「ほらケン、Aはケンに一緒におってほしいみたいやぞ。」
A君の様子を見て、担任のT先生が息子に話しかける。
それでも息子は私の手を離さない。

そのまま廊下に出る。
息子は寝そべる格好になり、Aくんがそこに覆いかぶさるように重なる。
何ごとかと、支援員の先生と別の女性の先生も駆けつける。

「お母さん、本当に行かなきゃいけないから。ねぇ、Aくんもおるし、先生もおるし、みんなおるから大丈夫やって。大丈夫。」
そう言って、離れようと試みるも、掴まれた手は離れない。

Aくんが「俺、ケンのこと押さえとるから、行けば」と言った。
駆け付けた女性の先生も目配せして「うん、その方が良い」と言った。

先生じゃない、Aくんが押さえているのならいいかもしれない。
そう思った私は、「ごめん」と言って、息子の手を振りほどいた。
直後、息子の泣き叫ぶ声が聞こえた。


走って家に帰ったものの、バスまでもう時間がない。
どうしようか…と考えていたら、電話が鳴った。

「すみません、お母さん。やっぱり無理そうです。お迎え、来てもらえますか?」

担任のT先生だった。

仕方がない。すぐに学校に引き返した。その間、頭では色々なことを考えていた。

息子が一緒に来るとなったら、どうしようか。タクシーで行くか、でも今日は説明会だから、一緒に連れていくことはできない。実家の母に頼むか。
実家の母に連絡する。電話には出ない。
夫の両親に頼むか。電話してみるが、出ない。
伯父に頼むか。でも、私が説明会の間はどうやって待っていてもらおうか。
放課後デイに連絡してみようか。今日は利用日じゃないから難しいか。

教室に行くと、ノートパソコンを広げて笑っている息子がいた。
先生が申し訳なさそうに「パソコンするって言ったら気分が変わったみたいで。ちょっと、本人に聞いてみますね。」

「ケン、お母さん来てくれたけど、どうするんや?学校に残るのか、家に帰るのか」
すると息子は、ちらっと私の顔を見て「いい。お母さんは帰って」と言った。

先生は「そう言っているので、大丈夫そうです、お母さん。すみません」そういって、申し訳なさそうな顔をした。

6年生の男の子が「お母さん、来なくて良かったんじゃないの?」と言った。頭をポーンと叩かれたような気がした。


バスの時間にはもう間に合わない。
別の手段を考える。
調べると、駅まで出れば接続がありそうだ。
幸い今日は雨は降らなさそうだし、駅まで自転車で行こう。

頭と心はぐるぐるしていたが、身体は動いていた。

長くなりそうなので、記事を分けます。

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