そのドルチェは要りません
先輩とランチに行った時の話だ。
黒板メニューには「本日のパスタ」として、2種類のパスタが記載されていた。
「鮭のクリームソース」と「イカのトマトソース」。
私も先輩も、「イカのトマトソース」を頼んだ。
先輩はドルチェ付きのコースを選んだが、私は甘いものが苦手なうえ、歯にしみることもあり、ドルチェなしのコースを選んだ。
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「お待たせしました!」と運ばれてきたのは、トマトソースのスパゲティ。
でも、何かが違う。
よく見ると、「イカではなく鮭」が入っていたのだ。
あれ?と思い、店員さんに確認してみる。
「イカのトマトソースを頼んだのですが…?」
「あれ?すみません!少々お待ちください!」と、厨房に駆け込む店員さん。
「申し訳ありません。シェフのミスで、具材を間違えてしまったようです。」
先輩は「そうなんですね。いいですよ。鮭も好きですから。」と大人の返答をしていたが、私は内心「え…イカが食べたかったのに」と思っていた。
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スパゲティを食べ終えたころ、店員さんがドルチェを持ってきてくれた。
なぜが手にはふたつのドルチェが。
「先ほどは申し訳ありませんでした。こちら、お詫びのしるしといってはなんですが、ドルチェをサービスさせていただきます。」
まじか!
二つのドルチェをテーブルに置いて去っていく店員さんを見送って、私は先輩に言った。
「すみません、私、甘いものあまり好きじゃなくて。しかもこれ、アイスですよね?冷たいものは歯にしみるので、食べられないんです…。」
「えーーーっ!そうなん?」
「もしよかったら、私の分も食べてもらえませんか?」
「いいの?ラッキー!嬉しいわ。じゃあ、遠慮なくいただくね!」
そう言って、先輩はニコニコしながらドルチェを食べ始めた。
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私はなんだかモヤモヤしていた。
ミスしたことのお詫びにドルチェを持ってきてくれたのはわかるが、みんながみんな「ドルチェサービスを喜ぶ」とは限らないのだ。
とはいえ、せっかく持ってきてくれたものを「要りません」という勇気が私にはなかった。
少なくともあの時は、先輩がいてくれたので「代わりに食べてください」と言えたが、もし一人だったらどうしただろうか。
「ごめんなさい、私は甘いものが苦手でアイスも歯にしみるので要らないです」と言えただろうか。
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似たようなことが前にもあった。
新婚旅行で泊った宿でのこと。お腹いっぱい夕食を食べ終えた私たちが部屋に帰ると、どでかいフルーツの盛り合わせが置いてあった。
「どうぞお召し上がりください」とメッセージが添えてあったが、「いや、もう入らんし…」と気まずい思いをした。
別の宿では「こちら、サービスです!」と瓶に入ったお酒をもらったのだが内心は「いや、荷物増えるがな…」と思っていた。
いっぽうで、「新婚旅行ということでしたので、お部屋のグレードをあげさせていただきました!」というサービスは素直にとても嬉しかった。
「モノでもらう」ということの難しさを感じた新婚旅行だった。
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"食べ物"いうのは本当に困る。
その場で食べてしまわないといけないものは余計だ。
やっかいなのは、相手は良かれと思っているということ。
断ってしまったら、その善意まで無下にしてしまうんじゃないかと思ってしまう。
とはいえ、食べれないものは食べれないし。
あちら側は、サプライズ的に用意してくれているのだろうから、「要りますか?要りませんか?」と聞くのも違うと思っているのだと思うが、私としては一言聞いてほしい。
「お詫びのドルチェをご用意しようと思っているのですが、召し上がりますか?」程度でいかがなものだろうか。