タバコを吸わない私が、タバコの銘柄を10以上言える理由

マイルドセブン、マールボロ、フィリップモリス、DUO、ラーク、ピース、ラッキーストライク、セブンスター、キャメル、アメリカンスピリット、ホープ、ハイライト、エコー。

ざっとこんなもんだろうか。記憶をたどって、たばこの銘柄を思い出してみた。今はもうない銘柄もなかにはあるかもしれない。

15年も前のこと、私はコンビニでアルバイトをしていた。タバコの銘柄は、そこで覚えた。当時私は大学生だった。

大学生になって、まわりがちらほらアルバイトを始めていた。軽い気持ちで「私も何かできないかな~」と思っていた。
そこでたまたま見かけたのが、コンビニの「アルバイト募集」の張り紙。
内気な私に接客業ができるのか?とも考えたのだが、「苦手なことにも挑戦してみたい」というあまのじゃくな私。
「これも社会勉強だ!」と意気込み、面接を受け、無事に採用された。

コンビニで働くことが、こんなに大変だとは思わなかった

アルバイトの初日はとても緊張した。
店長に横についてもらいながら、レジ打ちをしたり、揚げ物の調理方法を教わったりした。
そして、ゆうパックの取り扱い、公共料金の支払い、コピー機、マルチメディア端末の使い方(ローソンだったので、Loppiだった)などをざっと説明された。

普段コンビニを利用しない私は、コンビニがこんなにいろんなサービスをやっていることに驚いた。そして、頭がはちきれそうだった。こんなにもたくさんの業務、覚えること山積み・・・私にできるのか。

初めて9時から17時まで働いたその日は、くったくたに疲れ切っていた。
心も、頭も、身体も。

慣れないレジ打ちに、次から次へと来るお客さんの対応。
「ゆうパックお願いしたいんだけど」「Loppiでチケット買いたいんだけど」と言われても、私の手には負えないので「えっとぉ・・・少々お待ちください!」と言って先輩を頼る。
右も左もわからない私は、始終緊張しっぱなしで、おろおろしていた。

身体も疲れ切っていた。仕事をしているときは、忙しいのと緊張しているのとであまり気にならないのだが、バックヤードに戻って「退勤」ボタンを押したとたんにどっと疲れが出たのだ。
「うわ、しんど・・・。」
初日で私はもう、ボロボロだった。

「どこへ行ってもきっと同じ」だと思ったから、必死で頑張った

数か月経っても、アルバイトに行くときの足取りは重かった。
できないことはたくさんあったし、まわりに迷惑をかけているんじゃないかと思っていたから。

手厳しい先輩がいたのも辛かった。私のやることなすことすべてに目を光らせていたので、いつもびくびくしていたのだ。
「また失敗して怒られるんじゃないか」「それは違う!って注意されるんじゃないか」

一番辛かったのは、店長に「挨拶の声が小さい」と言われることだった。
自分では精いっぱいの声を出しているつもりだったので、これ以上どうしろと?と悩んだ。

もう辞めたいな・・・」そんな思いがよぎった。

でも、「ここで辞めたら根性なしだと思われるかもしれない」という変なプライドがあった。そして、「どこへ行っても苦労することには変わりないかな」という思いもあった。だったら、「ここでもう少し頑張ってみようか・・・」そういう結論に至った。

物覚えが悪く、要領が悪いのは自覚していたので、対策を講じた。

小さなメモ帳をポケットに忍び込ませ、忘れてはいけないこと、注意されたことはすぐにメモできるようにした。

「挨拶の声が小さい」と言われたことについては、これ以上大きな声は出せないので、他の方法を考えた。

店内にお客さんが入ってきたときは、お客さんの顔を見て挨拶することを心がけた。声は小さくても、目が合うので、お客さんも「あ」と気付いてくれる。「お客さんには届いている」という実感があったので、店長の言葉はあまり気にしないようにした。

頑張る方向が合っているかはわからなかった。でも、何もせずにはいられなかった。

常連さんのたばこを渡せた日、こころがすっと軽くなった

コンビニのレジの後ろにはタバコがずらっと並んでいる。
コンビニで働くまで知らなかった。世の中にはこんなにたくさんの種類のタバコがあることを。

1つの銘柄でも、タール量によってバリエーションがあるので、種類が豊富になるのだ。悠に100種類はあったと思う。

だから、お客さんに「セブンスター1つ」と言われても、すぐには見つけられない。幸い、タバコの横に番号が振られているので「何番ですか?」と聞けば「59番だよ」のように教えてもらえるので、商品を渡すことはできた。

常連さんに、こんなおじさんがいた。

その人は、ピースサインでお店に入ってきた。
なんだろう?と思っていると、先輩がたばこの棚からラッキーセブンを2つ取り出した。
そう、ピースサインは「いつものタバコ2つね」という意味だったのだ。

2,3度そんなやりとりを見ていた私。「今度来た時は私が!」と思うようになっていた。
そして、その時がやってきたのだ。

例のおじさんが、「ピースサイン」をして入ってきた。
さっとラッキーセブンを手にする私。
「お、覚えてくれたかぁ。」おじさんはニマリと笑った

「仕事は慣れた?もう何か月になる?」
「半年です。まだまだですけどね。」
「そう。頑張ってね。」
そう言って、おじさんは店を出ていった。

「なじんできたのかも」と思った。
この店に、なじんできたかもしれない。

できないことはまだまだ多い。先輩にも頼りっぱなしだ。
でも、少しずつ出来てきた。
レジ打ちも前より早くなったし、ゆうパックの取り扱いもひとりでできる。

頑張ってきたことはちゃんと、身になっている。
そう思ったら、こころがすっと軽くなった気がした。

久しぶりに会った先輩は、もう何も言わなかった

手厳しい先輩は、私が働き始めてから1年経ったころ、店を辞めた。店長の息子さんと結婚して、別の店舗を立ち上げたそうだ。

それからさらに半年ほど経ったある日、突然その先輩が店にやってきた。
「久しぶりやね、星野さん。」
にこっと笑いかけてくれたものの、私は苦笑いしかできなかった。
「怖い」という印象が強かったし、また何か言われるのではないかと思うと、自然と体が強張ってしまったのだ。

でも先輩は、私の働く姿を見て、もうなにも言わなかった
「もう、なにも言うことないね」とは言われなかったが、目がそう言っているのがわかった。
私は、成長したのだ。それが嬉しかった。


今でもアルバイトしていた店の前をときどき通ることがある。
いろんな記憶が蘇る。辛かったこと、苦しかったこと。

あの頃の私がそこにはいる。
がむしゃらに頑張っていた私。

私なら、きっと大丈夫だよ。
あの頃の私が、そう言ってくれる気がするのだ。

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