久留米青春ラプソディ vol.9
夏が終わる。
1年で1番大好きな季節。
もうそりゃ、ダントツで。
夏の何が好きって、そりゃ全部が好き。
家から出た時のモアッとした空気も、突然の雨の匂いも、セミの泣き声も、見上げるほどの入道雲も。
そんな夏の終わりに思い出す出来事がある。
それは、18歳の夏のお話。
夏のある日。
僕は高校の友達、T君とD君とお隣の県、佐賀で開催される夏祭りに出かけた。
僕には2パターンの友達がいて、1つは高校の友達。進学校なだけあって、いわゆる普通の高校生。
煙草くらいは吸う友達もいたけど、原則、悪いことも喧嘩もしない。
そして、もう1パターンは小・中学校の仲間たち。こいつらは真面目とはほど遠く、やることなすことはちゃめちゃだ。
正直、夜遊びや少し法を飛び出した遊びは、全てこいつらと経験してきた。
この日は、珍しく高校の友達と夜遊びをしようという話になり、祭りに出かけた。
久留米を出発し、筑後川沿いに車を30分ほど走らせると、決して大きいとは言えない佐賀の中心部に到着する。
なんの祭りだかわからないままウロウロしていると、いつの間にか祭りも終わりの時間を迎え、徐々に街から人の姿が無くなった。
この段階で大人しく帰ればいいのだけど、まだ遊び足りない僕らは、なんとなしに街をぶらついていた。
商店街の外れに差し掛かった時、街の雰囲気が一気に変わるのを感じた。
薄暗い路地、ゲームセンター。目を凝らすと両サイドに怪しげな複数の人影。「族車」と呼ばれるバイクのシルエット。
暗がりから注がれる僕らへの熱い視線。
嫌な予感がした。
しかし、そんな僕の心配をよそに、こういう危機的状況に免疫がないT君とD君は変わらず楽しそうにおしゃべりを続けている。
その集団を通り過ぎ10mほど歩いた時。
彼らの数名が立ち上がるのを感じた。
[あ、やつらが来る…]
僕はそう思った。
T君とD君のおしゃべりを制止し、僕は言った。
「あの角曲がったら、ダッシュね。はぐれたら駐車場集合で。」
人数は相手の方が多いし、味方は喧嘩未経験。完全アウェーなこの状況。こんな時はとにかく「逃げるが勝ち」だと僕は判断した。
T君は状況を察してくれたのか、「了解」と小声で応えた。
しかし、そんな状況を今まで経験した事ないD君は、「え?なんで?なんで走らないかんと?」と一切察していない。
まじか、こいつ…。
今置かれている状況を、どう伝えるべきか、躊躇していたその瞬間。
「おい!」
後ろから大きな、そして威圧的な声がした。
「そこの3人止まれ!」
やっぱりか…。
やっぱりきたか…。
声をかけられた以上、もう無視することはできない。
僕は嫌々振り返った。
そこには5人のゴリゴリのヤンキーがいた。白いジャージなやつ、赤いタンクトップなやつ。キティちゃんのサンダルなやつ。
もう、それはそれはわかりやすーい「THE ヤンキー」という装いだった。
先頭にいたタンクトップ君が叫んだ。
「さっきジロジロ見よったろーが。どこのやつやコラ!」
あらら、もうボルテージは上がってる感じなのね。もうトラブルになることは確定した。
続けて、「お前らどこのやつや?!」
リーダー風の白ジャージ君がこちらに叫ぶ。
僕は答えるのに躊躇した。
というのも、久留米と佐賀は昔から揉め事が絶えない。僕の数世代上の先輩の代から、お互いがお互いを「田舎」だの、「ダサい」だの罵り合ってきた歴史を知っているからだ。
今思えば、どちらも田舎には違いないし、どちらもダサい。
それでも優劣をつけたがる人間の浅ましさが心底嫌になる。
でも、ここまできたらどうしようもないので、僕は言った。
「久留米やけど。だったら、なんや?!」
精一杯冷静に、そして精一杯強がって答えた。
その言葉を聞くなり、ヤンキーたちの表情は一変した。
「久留米がなんの用や、こらー!」
一気にボルテージはMAX。
「久留米」というキーワードはやっぱりNGワードだった。
激昂し殴りかかってくる赤タンクトップ。
不思議とその動きがスローモーションに見えた。
あ、これやばい…。
そう、僕はこの時、絶対絶命のピンチを迎えるのであった。
<<続く>>
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