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【映画】かがみの孤城

現在、劇場公開されているアニメが「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」などで、少し大作の陰に隠れてしまっている感がある作品ですが、なかなかの良作でした。今回も少しネタバレ含む感じで感想を書いてまいります。作品をまだご覧になられていない方はご注意ください。

何気に豪華な制作陣

これ、原作は辻村深月氏の本屋大賞受賞作品なんですね。私は辻村氏の作品は何作か読みましたが、これは未読でした。芥川賞と直木賞が比較的一般の読書好きの嗜好性と乖離してきている気がする私ですが、本屋大賞は本当にいい作品(エンタメ寄りで読みやすい良作)を輩出する賞だと思っているので、期待も膨らみます。

監督は原恵一氏…。すみません、他の作品未見です。が、国際的に高い評価を得ておられるとの事。制作はA-1 Picturesです。「劇場版あの花」「心が叫びたがってるんだ。」の会社ですね。上記作品が優しい作品だったので、このチョイスはジャストかもです。「かがみの孤城」はファンタジーであり、ミステリ要素もあるのですが、一番の主軸は少年少女の成長譚。人の心の機微を丁寧に丁寧に描いた作品には、このチームはマッチしているんじゃないかなと思います。

声優陣も何気に豪華。當真あみさんの繊細な声(弱々しい演技上手いです)も良かったですが、梶裕貴さん、高山みなみさん等のベテラン声優さんに加えて実は芦田愛菜さん、麻生久美子さん、宮崎あおいさんなども参加しておられたり。ノーチェックでしたので、予想以上の豪華な布陣にちょっと驚きました。

音楽は「ドライフラワー」で有名になった優里氏。「メリーゴーランド」という優しい歌を提供しておられます。

そして孤城デザインがイリヤ・クブシノブ氏!どちらかというと「攻殻機動隊」や「Cyberpunk」のような尖ったデザインの印象が強く、作風がマッチするのかなとも思ったんですが、なかなかどうして、実に素敵なお城のデザインでした。


いじめ、不登校

人が集まる場所(学校や職場、コミュニティ)には必ず負の感情もある訳で、主人公のこころちゃんも周囲の悪意に悩まされています。ここ、物凄くリアルだなと思ったのが「彼女が悪意を向けられるのに、大した理由がない」んです。転校生やかっこいい男の子は、おそらく口実。こころちゃんを攻撃するのも、多分単なる思い付きの延長じゃないかなと。いじめってのは、他者の気持ちを斟酌出来ない人が行う行為なので、深い考えなんてのはほぼないのが実情じゃないかな…

孤城の空間ではそんな負の感情に悩まされていた主人公たちが集まります。彼女らは上記のいじめる側・負の感情をぶつけてくる側に悩まされた人たちだからこそ、他人の心を斟酌する事が出来る。多少のぶつかり合いはあっても、きっと「友人を傷付けてはならない」というのは持ってたんじゃないかなと。

ただ、孤城という異空間から現実に戻れば厳しい境遇が依然として存在する訳で、そことどう対峙するのかを解決しなくてはなりません。ファンタジーのままではいられない。孤城は永遠に存在するものであってはならないのですね。物語では狼がタイムリミットを提示してきますが、これは「現実に対峙するためのモラトリアム」でもあるような気がしました。

ファンタジー+ミステリ+ビルドゥングスロマン

ファンタジーというジャンルはポスターやCMで予想はしていましたが、辻村深月原作なので、ここには当然「謎解き要素」があります。物語の大きな仕掛けに「時間軸」の要素があるのですが、これは伊坂幸太郎の「ラッシュライフ」を思い出しました。これ、1回目を観ている間は気付かないようなものも実はあったりするのかな。2回目観たら「おお、こんなところに散りばめられていたのか」という要素があるかもですね。

さて、この「伏線回収」という言葉、なんとなく「観客を驚かせる」「奇を衒う」というギミックなイメージを持たれる方も多いかもしれません。ここを、不自然さのない形、物語の中で必然性を持つ形で配置するのがストーリーテリングの腕の見せ所。ファンタジーと現実社会を繋ぐ人物が絶妙な役回りで配置されています。あの人物、あの事件、あの時間軸があったからこそ、いずれあの人はあの人に影響を及ぼすのか!という驚き。

7人が集められた孤城とは?
7人はどういう基準で選ばれた?
何の目的で?
オオカミ様って何者?
期限は何を意味するの?

全て綺麗に解き明かされる終盤の展開は目が離せませんでした。


派手なバトルもない、強烈な復讐シーンもないし、きらびやかなビジュアルもない、心躍る歌もダンスもない。だけど、私は好きな作品でした。
学校生活に悩める若い人に、是非ご覧いただきたいなぁ。

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