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【落語小説】あやかし妖喜利物語 第8席 あたま山

あたま山

「お、面白れーじゃねえか。お前みたいな面白い奴に会えて、嬉しいぜ。コテッ」
 最後にそう言い残すと、謎の行き倒れは力尽き、それ切り動かなくなった。

【座布団一枚獲得!総座布団数3】

「何だ、本当に死んじまったのか?俺じゃなくて良かった」
「何が俺じゃなくて良かったよ。自分が生きているか死んでいるかの区別もつかないの?」
「あっちの世界じゃ、長年生きた心地がしなかったからなあ」

 無理もない。幸せを感じたことがなければ、生の充実感は得られないのだ。

 それはそうと、もうここには用のない二人である。観音様に旅の無事を願ってから、少しブラブラすることに。

「何かこう、せっかく町に来たんだからな、面白いもんないかな。例えば見世物小屋とか」
「見世物小屋なんて、あんたの世界じゃもう絶滅してたでしょう。それより今夜泊まるところを探すのが先よ」

 単純な与太郎は、美女のキセガワと街歩きをするのが嬉しい。キョロキョロして、お、あいついい女連れてやがるな、なんて思って見てる人がいないかどうかと気になっている。が、そんな人もいないようで、そのうちに小高い丘の上に一本の桜の木が生えているところに出た。今が盛りと満開である。

「へ〜、立派なものね。綺麗だわ」
 感心して見上げるキセガワ。一方、花より団子の与太郎はつまらなさそうにしている。

「桜ってのはな〜。さくらんぼ付ける桜ならいいけど」
「花を愛でるのもいいものよ。あなたにももっと自然の美しさを感じる心を身に付けてほしいわ」

 うっとりと木の元に近寄っていくキセガワ。与太郎もしばらく眺めてはみたものの、興味を惹かれないものはどうしようもない。

(これがイチョウの木だったらな〜)
 どこかにぎんなんでも落ちていないかと下を見る与太郎であったが、無論のこと落ちてはいない。その代わり。

(おや?この地面、何か海藻みたいなもんが生えてるぞ)
 と、そのときである。

「うわおっ」
 ゴゴゴゴゴ…。地面が迫り上がってきて、与太郎はすってんころりん、仰向けに倒れてしまった。

 見上げると、桜の木の下に大きな人の顔があった。小高い丘だと思っていたのは巨人の頭で、なんとそこから桜の木が生えていたのだ。与太郎が海藻だと思ったのは巨人の髪の毛だった。

「キャー、助けてー!」
 キセガワは桜の木に抱きついて必死に落ちまいとしていた。

「キセガワさん!」
「グハハハ。さっきの勝負、見ておったでごんす。お主、面白い奴でごんす。今度はこの儂と勝負するでごんす」
 いきなり妖喜利バトルが始まってしまう。

「キャー、助けてー!」
「くっ、キセガワさん…!」
 妖精に変身して飛んでいけばいいのに、と思う与太郎であった。

【妖喜利バトル】
 キセガワよ。ちょっと動揺しただけよ!べ、別に、ボケてるわけじゃないからねっ(汗)。それより妖喜利バトル行くわよっ。良かったらコメント欄を使って楽しんでみてね。

(お題)
 二度と行きたくないお花見って?

(与太郎の回答)
 一枚花びらが散るたびに、一人ずつ人が消えていくお花見。

 …そして誰もいなくなった。って、ホラーよね。

※あたま山…頭から桜の木が生えてきたというナンセンスな噺。
※ぎんなん…ぎんなん拾いと言えば、笑点でお馴染み三遊亭小遊三師匠。

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