【童話】不思議なレストラン(2467字)
算数の嫌いな男の子がいましたとさ。
わがままばかりの男の子がいましたとさ。
いつも好き嫌いばかりで、にんじん、きのこにたけのこも、みんな嫌いの大嫌い。
ある日その子のお母さん、知恵を絞って一工夫。
にんじん、きのこにたけのこも、細かく刻んで春巻きに。
けれど一口食べてみて、中身が出てきた大騒ぎ。
慌ててその子は逃げ出した。
逃げた先は公園だ。
不思議なテントを見つけたよ。
おっかなびっくり入ってみれば、そこは不思議なレストラン。
世界で一つしかないレストラン。
世界で一番おいしいレストラン。
世界で最後のレストラン。
メニューは一番嫌いなものだけ、春巻き出てきた、さあどうしよう。
でもでも、におうよいい香り。
よだれが出てきた、おいしそう。
勇気を出して、食べてみた。
あらあら不思議、なんておいしい春巻きだ。
にんじん、きのこにたけのこも、みんなおいしいほっぺが落ちる。
たちまち大好物に早変わり。
もっとちょうだいコックさん。
ぼく、春巻き大好きなの。
でもね、おかわり禁止だとさ。
それがここのレストラン。
不思議な不思議なレストラン。
食べたきゃ、おうちで食べといで。
そこで家に帰った男の子。
お母さんの春巻き楽しみにして。
お母さん、さっきはごめんなさい。
にんじん、きのこにたけのこたっぷり、おいしいおいしい、お母さんの春巻き食べさせて。
ところがお母さんは首を傾げた。
それより坊や、今夜はあなたの好きなハンバーグ。
ひき肉ジューシー、お肉いっぱいのハンバーグ。
お母さん、春巻きはどこにいったの?
ぼく春巻きが食べたいよ。
にんじん、きのこにたけのこたっぷり、世界で一番おいしい、お母さんの春巻きが食べたい。
でも、お母さんは答えましたとさ。
おやおや。春巻きって何かしら?
にんじん、きのこにたけのこも、聞いたことない食べ物ね。
さっきまでそこにあった春巻き。
にんじん、きのこにたけのこたっぷり、世界で一番おいしい、ぼくの大好きなお母さんの春巻き。
消えちゃった。
消えちゃった。
世界から消えちゃった。
全部消えてなくなっちゃった。
誰に聞いても知らないよ。
誰も食べたことないよ。
春巻きなあに?にんじんなあに?きのこって、なに?たけのこ知らない。
どこにもなくなっちゃった。
誰も知らなくなっちゃった。
男の子は探したレストラン。
でも見つからないよ、見つからない。
どこを探しても見つからない。
どこかに消えちゃった。
なくなっちゃった。
最後のレストラン。
不思議な不思議なレストラン。
世界で一番おいしいレストラン。
一番嫌いなレストラン。
漢字が苦手な女の子。
わがままばかりの女の子。
お魚嫌い、見るのも嫌い。
くさい、怖い、気持ち悪い。
お魚なんて、大嫌い。
そこでママは考えた。
お料理上手のママにおまかせよ。
お魚すり潰してお団子に。
でも、女の子にバレちゃった。
全部すっかりバレちゃった。
ママの嘘つき、これはお魚よ。
わたしがお魚嫌いって知ってるのに。
ママなんて大嫌い!
女の子は家出した。
海に向かって家出した。
たどり着いたは海のほとり。
不思議なレストランを見つけたよ。
不思議なコックさん現れて、不思議な料理を持ってきた。
クンクンにおうよ、いい香り。
これはわたしの大好きな、大好きなママのカレーにオムライス。
冷やしたトマトのサラダ。
お料理上手なママの味。
ママが作るとなんでもおいしい。
ママのお料理はやっぱり世界一。
女の子は満足して家に帰った。
ところがママはその日から、ごはんを作らなくなっちゃった。
ごはんって、なにかしら?
お料理って、なにかしら?
大好きなママのカレーにオムライス。
冷やしたトマトのサラダ。
食べられなくなっちゃった。
食べられなくなっちゃった。
女の子は探したレストラン。
海のほとりでキョロキョロキョロ。
でもどこにも見当たらない。
どこかに消えちゃった。
どこにもなくなっちゃった。
もう二度と行けないレストラン。
もう二度と食べられない、大好きな大好きなママの味。
世界で一番いばっている王様。
世界で一番わがままな王様。
世界で一番不幸な国の王様。
世界中のコックさんを呼び寄せた。
世界で一番グルメな、このわしの口に合う料理を作れなければ、縛り首。
不思議なコックさん申し出た。
わたしが作りましょう。
世界で一番おいしい料理を。
それには、王様の一番嫌いなものを教えてください。
王様はいった。
わしの一番嫌いなもの。
それは仕事のできない家来。
生意気な口を聞く青二才。
不思議なコックさん、たちまち料理を用意した。
味のないスープに、味のないサラダ。
味のないお肉に、味のないパン。
まずい、まずい、なんてまずい。
これは世界一まずい食べ物だ。
怒った王様は家来に命令した。
こいつを牢屋に入れておけ。
明日の朝には縛り首だ。
だけど家来は見当たらない。
一人の家来も見当たらない。
王様の嫌いなもの、全部消えた。
家来はみんないなくなっちゃった。
誰もいなくなっちゃった。
王様は一人ぼっち。
一人ではなにもできない一人ぼっち。
お腹ペコペコ、喉はカラカラ。
ごはんを作ってくれる人は誰もいない。
お世話をしてくれる、家来は誰もいない。
困った王様は国を出た。
長いあいださまよった。
砂漠の果ての、果ての果て。
ようやく見つけたレストラン。
不思議な不思議なレストラン。
不思議なコックさん、やってきた。
王様は飲む、一杯の水。
カラカラの喉に染み渡る、おいしいおいしい普通のお水。
ああ、世の中にこんなにおいしいものがあったのか。
不思議なコックさんいいました。
ええ、王様。わたしは世界で一番おいしい料理をお作りしたのです。
不思議な不思議なレストラン。
世界一おいしいレストラン。
世界で最後のレストラン。
すぐ近くにあって、どこにもないレストラン。
今度は何が消えるかな。
今度は何が消えるかな。