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【落語小説】あやかし妖喜利物語 第12席 千両みかん

千両みかん

「あらあらん、私の負けドロン。悔しいが呪いは解いてあげるドロン」
 コユーレイをやっつけた!

【座布団5枚獲得!総座布団数7】

「やったね!一気に座布団増えたわよ」
 村全体が不思議な光に包まれていく。村を覆っていたセメントが消えた!何事もなかったように人々が動き出した。

「ああ、ありがとうございます。これで元のチブチブ村に戻りました」
 タイタイが涙を流してお礼を言った。

「ギャー、いてて。引っ掻くなって、この猫!」
 与太郎は顔に猫の爪痕を得た。
「コユーレイの奴、いつの間にかドロンしちゃったわね」

 ヒュー、ドーン。ヒュー、ドーン。
 その夜、チブチブ村ではタイタイの花火が盛大に上がった。

 翌朝、オーツキ村に戻ることにした与太郎とキセガワ。
「お二人ともありがとうございます。お礼と言っては何ですが、オーツキ村から東に行ったところに、私の仲間のミカンガーという者がやっている果樹園があります。私の名前を言えば下にも置かないもてなしをしてくれることでしょう」

 そうタイタイに言われて、一路そちらを目指すことにした。オーツキ村で一泊して、翌日の昼前に目的地に着いた。

「お、ここか。タイタイの言っていた果樹園ってのは。しっかし、物の見事にオレンジばっかだな」
「私はオレンジって好きよ。爽やかでいいわ」
 爽やかさなど、与太郎の人生から最も縁遠いものの一つである。

「ごめんくださ〜い」
 声を掛けるのは人当たりのいいキセガワの役目だ。タイタイによく似た、オレンジ頭の妖怪が出てきた。これがミカンガーであろう。だが様子がおかしい。顔が青ざめて、目が虚ろである。

「えっと私たち、かくかくしかじかで」
 事情を説明したキセガワ。直後に耳を疑うような事件が起きた。

「…年増か」
「…(怒)!何ですってえ?」
 何か琴線に触れるところがあったと見える。

「キーッ!何よ、このオレンジ頭!」
「まあまあ、キセガワさん、落ち着いて。何かこいつ、妙ですよ」
(そうか、若作りしてるけど、年増だったのか)

「そりゃそうよ!私の魅力が分からないなんて!もう、オレンジなんて大嫌い!」
 我を忘れて取り乱すキセガワ。オレンジ頭は、ニヤーッと笑って言った。

「ククク、美しいのは、コーラル様ただ一人。オレンジが食べたきゃ、一つ千両で売ってやるよ」
「せせせせ、千両!?酷えぼったくりだな」

 目の玉が飛び出そうな与太郎。一方キセガワは。
「コーラル!?あのコーラル?」
 いつもの冷静さを取り戻したかに見えたが。

「ククク、コーラル様の足元にも及ばない年増の娘よ」
「キーッ!また年増って言ったあ!与太郎、こんな奴に情けをかけることないわ。こっちからバトルを仕掛けるのよ。ギッタギタにやっつけてやんなさい!」

「お、おい、キセガワさん…」
(何かに気付いたんじゃなかったのか)

【妖喜利バトル】
 キーッ!失礼な奴!何が年増よ。私はただ店で3番目の古株だっただけよ!?それはそうと、妖喜利バトルはこちらから仕掛けることもできるのよ。良かったら、みんなもコメント欄で楽しんでみてね。

(お題)
 物価高って困るわよね。そこで皆さん、物価高に困っている誰かになってください。私が「困るねえ」と言いますから、さらに一言続けてください。

(与太郎の回答)
「私、カッパなんですけど、キュウリが高くって」
「困るねえ」
「質屋に入れておいた、皿を流してしまいました」

 …カッパの川流れなら聞いたことあるけど、質流れとはね。流したくない悔し涙、流されたくない人の情ってね。

 ※千両みかん…古典落語の演目。どうしてもみかんが食べたい若旦那のためにやっと見つけたみかんは一個千両…。

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