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【落語小説】あやかし妖喜利物語 第7席 粗忽長屋

粗忽長屋

「くっ、不覚。お主の勝ちじゃ」
【座布団一枚獲得!総座布団数2】

「だあ〜、漏れる〜!」
 情け無い与太郎は、死神に連れられてはばかりに行った。

「やったね。いいセンスしてたわよ」
「あ〜、死ぬかと思った」

 一件落着したところで、ぐっすり眠った。翌朝、目が覚めてみると枕元に死神が座っていたのにはギョッとしたが。

 与太郎とキセガワの二人は再び旅を続け、昼前にはちょっとした町に到着した。
「か〜、やっぱり街中はいいね〜」

 都会にいたってコンビニぐらいしか用がないくせに、江戸っ子ぶるところが悲しい与太郎である。区役所にだって見放されているのだ。

「ここは観音様が有名なのよ」
 というキセガワに付いてお参りに行くことに。と、何やら門の辺りに人だかりがある。

「何だい、祭りでもやってんですかね」
「どうかしらね。仁王門で賽銭泥棒でも捕まったのかも」

 どちらの予測も外れ。実際は行き倒れであった。昨日の夜から倒れていたらしいが、まだ身元が判明しないという。

「あ、ちょっとあんた、あんたも仏の顔を見てやってくんねえ」
 と、頼まれた与太郎だが、もちろん知る由もない。

「そう言われたってなあ。俺たちは旅の者で、見たところで…。ああっ!」
「何か知ってるんで?」
「知ってるも何も、こいつは、お、俺だ!」

 仏の顔は与太郎のよく知っている顔。と言うより与太郎に瓜二つ。まさに与太郎そのもの。与太郎の顔がそこにあった。と言っても、今の若者になった与太郎ではなくて、元の現実世界で50数年生きて来た、おっさん与太郎である。

「ああ、可哀想に俺。しばらく見ないと思ったら、こんなところで行き倒れになってやがったか」
 仏を抱き、おいおい泣く与太郎。可哀想なのは確かである。

「あのね、あんたどこまでバカなのよ」
 呆れるキセガワ。

「だって俺が、俺が死んじゃったんだぞ。これが泣かずにいられるかっ」
 そのとき、急に遺体が口を開いた。

「へっへ、見つけたぜ」
「うわっ、俺が喋った」
「そそっかしいのもいい加減にしなさい」
 すっくと立ち上がる行き倒れの当人。どうやら芝居であったか。

「ふふふ、俺はここで行き倒れのフリをして、お前みたいな面白い奴が来るのを待っていたんだ。いざ、尋常に勝負せよ!」
「わわっ、な、何だ」
「妖喜利バトルよ!準備して!」

【妖喜利バトル】
 キセガワよ。読者のみんなは流石にここまでそそっかしくないと思うけど、面白い人ならいっぱいいると思うのよね。そこでこんな問題を作ってみたわ。良かったらコメント欄を使って楽しんでみてね。

(お題)
 あなたは行き倒れの第一発見者よ。死体を発見したら、あなただったら何て言う?

(与太郎の回答)
「可哀想になあ。世界の滅亡を見ずに逝っちまうなんて」

 …どーゆう神経してんのよ。てゆーか、見れる?

 ※粗忽長屋…有名な滑稽噺。
 ※仁王門、賽銭泥棒…枕でよく演じられる小噺。

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