メガロフォビア検証④「巨大な車」
【そんなに怖い画像はないですが、映画のネタバレがちょっぴりあるとかないとか】
あれは20代前半頃だった。もうかなり大人だ。
私は友人の家のTVで、ある昔の映画を観ていた。
スピルバーグがその名を知らしめたと言われる『激突!』(1971)である。
観たことがなかったし、けっこう怖いと聞いていたのでワクワクしていた。「怖いっつったって、カーチェイスとかでしょ?ヒヤヒヤするやつでしょ?」
甘かった。
よくわからないが観ているうちに動悸が激しくなっていく。
あらすじは知っている方も多いと思うが、車(セダン?)を運転する主人公が、ふとしたきっかけでタンクローリーから執拗に追いかけられる。
ほとんどただそれだけのストーリー。なのに異様に怖い。
監督がまだ無名の頃に作ったTV映画だったそうで、当然、映像や音響はそれなりに粗い(とはいえ撮り方も演出も凄い)。有名な俳優もほとんど出ていないし、そもそも出てくる人物が少ない。それがさらに恐怖を煽る。
私は心理的にそのスリラー要素にハマってしまい、恐怖のあまりなんと途中で別室に逃げた。
怖がりすぎる私に友人もあきれる。
なんでだ、何がこんなに怖いんだ?
そうだ、
デカい車だ。
追ってくるタンクローリーが「ゴオォォー」というエンジン音や不穏なストリングスの音色とともに現れるたび、どんどん巨大化しているように見える。
そして、
運転手の顔が終始まったく見えない。
これ怖い。
人が、というよりタンクローリーそのものが殺意を持っているかのようだ。
無表情の巨大な鉄の塊が自分を殺すべく猛スピードで追ってくる。
この予期せぬ感覚に私は完全にビビりあがった。
「う…うわ…また来る!ひぃぃっ!」
集中して観ている友人をよそに私はうめき声をあげ、
終盤は隣の部屋から覗いたり引っ込んだりして観た。
タンクローリーの運転手は、最後まで顔がわからなかった。
もし劇場で観たら震えて逃げ出していたと思う。
とにかく、
無言の巨大な鉄の塊は怖かった。
赤いセダンがコバエのように小さく非力に見えたもん。
ちなみに原題は『Duel』だが、『激突!』っていう日本語タイトルは良い意味でB級っぽさもありゾクッとする感じが好きである。
しかし、前回まで「巨大な顔が怖い」と言ってたのに今度は「顔のない巨大物が怖い」。これはどういうことだろうか。
仮にタンクローリーに巨大な顔が付いていたとしよう。それなりに怖いと思うが、きかんしゃトーマスに追っかけられるみたいで現実味がなく、なんだかコミカルにもなりそうだ。
仮に数年前のあの煽り運転事件のように、運転手が暴言を吐き車を降りて叩いたり脅してくるとしよう。別の怖さが増すかもしれないが、不気味なスリラー要素がなくなってしまう。
やはり怖いのは巨大物が「無言で無表情」だからなのだ。
そんなわけで、
映画『激突!』は私がメガロフォビアになる一因となった
のは、まちがいない。ということで。
⑤へつづく。