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黒猫のくろ

30年ほど前のお話。
実家で飼っていた猫で、黒猫のくろがいた。

この子は、家で産まれて家の中外を自由に行き来し、死期を悟っても外にはいかず、生まれた家の中で息を引き取った子だ。

母猫は、姉がどこかで拾ってきた。
家の中外を自由に出入りしており、いつの間にか妊娠していて家の中で4匹の子猫を産んだ。

4匹のうち、3匹は姉の友人などに引き取られた。
が、真っ黒い子だけは引き取り手が見つからなかった。
それが、くろだ。

子猫が成長しただろう頃に母猫は家を出て行った。
出て行ったのか、帰れなくなったのかはわからないが、いつの間にか居なくなっていた。

それまでも、数日、家に帰ってこないこともあったので、そのうち帰ってくるだろうと思っていたが、結局、帰ってくることはなかった。

このくろは、とても賢い子だったが、やはり野良猫から産まれた野生の猫。
とにかく、よく獲物を持ち帰っていた。

たいていは、すずめ。または他の鳥。
たまにねずみ。または、カエル。

ごめんなさい、どれもすごく苦手です。
そんな物をお土産です、と言われても全く嬉しくないんですよ。
と言ったところで理解はしてもらえない。

何度、ひえぇ~と思ったことか。

ある時は、お風呂に入っているときに、お風呂の小窓から開けてー、と帰ってきたので、窓を開けてあげると、口に子ネズミを咥えていた。

私、全裸。猫、ネズミ咥えてる。
どうしよう、どうしよう、と考えているうちに、バリバリと音がする。
お風呂場の中で猫が子ネズミを食す音が響き渡るのだ。

それはもう、トラウマ級の出来事である。
その後、どうしたかは、全く記憶にございません。

またある時は、鳥を捕まえて帰ってきたのだが、鳥が最後の力を振り絞って猫の口から逃げ出した。
家の中をフンをまき散らしながら飛び回るという惨状。

またある時は、捕ってきたカエルを横目に、カエルが逃げようと飛ぶ瞬間に猫パンチをして、解放してあげないという、カエルにとっては地獄の時間。

普段の猫はかわいい。存在自体が果てしなく可愛いと思う。
が、獲物を食している時の猫だけは、可愛くない。

自然の摂理というか、自然の法則でいうと当たり前なのかもしれないが、飼い猫でエサは十分にもらっているのだから、野性のものを捕ってくるのは遠慮してほしいものだ。

この先も、これらの記憶はなくなることはないだろう。
それだけ、衝撃的な出来事だったということだ。

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