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#30 克服したい弱点/及川恵子

行き着くのは、“脱・田舎”への思い

私の弱点。それは漬物です。

漬物なんて大っ嫌い。
漬物を目の前に出されたら、即、戦意喪失。
尻尾を巻いて安心なおうちへと一目散に逃げてしまうでしょう。

あのニオイ。
あの鈍い色。
あの質感。
あの食感。
どんなものでも、漬物として成すすべての要素が気に食わない。

たいていの漬物は、この世になくていいとすら思っています。
先人が考えた保存食?
「知らねー!こちらは豊かな2021年を生きているので!」
そんな、悲しい悪態をつきたくなっちゃいます。
実際はしないけどね。

なぜ、漬物が苦手なのか。
それはとある田舎の港町にある、母親の実家での思い出にあるのだと考えています。

港町の老人たちは、なぜか漬物を好みます。
お茶っこという文化は、漬物を囲んだパーティータイム。
テーブルには、まっ黄色いたくあん、萎びた白菜のお漬物、元の野菜がなんなのかよくわからない茶色い漬物、紫色の漬物、橙色の漬物なんかがお茶っこのたびに置かれていました。
茶の間に広がるのは、そのすべてが混ざり合ったような、なんとも形容しづらいニオイ。
それが、少女期の恵子ちゃんには耐えられなかったのです。

特段、都会に出ることに憧れた少女ではなかったけど、10代の私は
「田舎で暮らすということは、このニオイから逃れられないのだ」
としばしば思ったものです。
そして、
そんなのいやだ。こんなのごめんだ。
私はもっとスタイリッシュに生きるのだ、とも。

そんな10代らしい勘違いに溢れた思い出と、どこか鼻にこびりついたニオイが、もうすぐ40歳になろうかという私が今でも漬物に近づけない理由なのです。

でも、日本人ってみんな漬物が大好きですよね…。
というか、世界に目を向けたらキムチだってそうだし、ピクルスも、ザーサイも…ザワークラウトだってそう…!!
世界中のみんなが漬物とともに生きている。

だから私は、
大学の学食でカレーを注文して「福神漬けはいらないです」と語気強め言ったのにかかわらず、お皿の隅にてんこ盛りにされた福神漬けを目にした時も、
(福神漬けの汁で赤く色づいたご飯すらもうダメ)
旅行先のお土産屋さんで地元の名物だという漬物を勧められた時にも、
「いや私、漬物嫌いなんで…」とは言えず、
泣きそうな気持ちになりながらも甘んじてそれを受け入れてきたのです…。
「恵子、いい?これも経験なのよ…」と思いながら。
だってそれが、日本人としての正式な振る舞いなような気がして…。

ただ、やっぱり漬物が私の弱点であり、苦手なものだから。
無理とはわかっていても、漬物のない世界を楽しんでみたい。
そして「漬物が弱点だ」と言っても驚かれない世界になってほしい。

多様性を受け入れ始めた世の中で、
「カレーに福神漬けもラッキョウも付けない人がいる」
という人がいることも受け入れてもらえないかなあ。

及川恵子