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#27 最近読んだおすすめの本/及川恵子

見事な自滅

ここ最近ビジネス本やエッセイばかりを読んでいて、「久しぶりに小説が読みたい…!」と思って手にしたのがこの本。
(そして私が敬愛するオードリーの若林さんがおすすめしていたことも、この本を読んでみたくなった理由のひとつ)

綿矢りさ さんの「夢を与える」です。

幼い頃からチャイルドモデルをしていた美しく健やかな少女・夕子。中学入学と同時に大手芸能事務所に入った夕子は、母親の念願どおり、ついにブレイクする。連ドラ、CM、CDデビュー…急速に人気が高まるなか、夕子は深夜番組で観た無名のダンサーに恋をする。だがそれは、悲劇の始まりだった。夕子の栄光と失墜の果てを描く、芥川賞受賞第一作。

あらすじを読んでいただいてもわかる通り、この本、“阿部夕子”という一人の少女が破滅に向かっていく様を描いた本なんです。

盛者必衰。栄枯盛衰。
頂を極めた者は必ず下山することになる、というのはどうしても避けられない道理なのですが、
それがわかっているとはいえ、読みはじめた瞬間から始まる“阿部夕子のカウントダウン”があまりにも物悲しい。
明らかに冒頭から、「ああ、この子には明るい未来はないな」とわかるんです。

夕子ちゃん、幼い頃は天真爛漫で海や川が大好きな爽やかさのある子なんですよ。
大人に囲まれた芸能生活の中でも心を許せる友や夢にまっすぐなお姉さんに出会えたりもして、甘く、微笑ましい描写もある。
それなのに、なんだかずっと不安や怖気が腹の中をゾワゾワと動くんです。

その恐ろしさが、徐々に卑劣な興味に変わっていく。
「幸せにならない(とわかる)女の子の行末がどうなるのか気になってしょうがない」
一体どんな結末になるのか知りたくて、ずんずんとページをめくってしまいます。

(…ああ、卑しい!なんだか自分には「人の不幸は蜜の味」のような、そしてFRIDAY記者のような気持ちがあるのかな、と自己嫌悪する瞬間もありました…)

それでも、阿部夕子という女の子が自分の生き方に疾走する様が妙に清々しくて、颯爽としていて、色鮮やかでかっこいい。
生まれる前から夕子が背負ったヒビが確実に届いてしまっても、夕子が自ら恋愛に溺れていっても、自分の人生を、そして阿部夕子としての十代を自分の選択で必死に掴み取ろうとした姿が見事なんです。
それが、泥臭くて見苦しい執着だとしてもね。

きっと端から見れば、幼さゆえの馬鹿で無様で“けしからん”の連続で、最後は「ほれ、みたことか!」なのかもしれないけど、
私は「こんなに見事でかっこいい自滅ってあるのか」とすら思ってしまったほどなのでした。

ああ…、でもやっぱり少女が失墜していくだなんて、胸がぎゅーっと押し潰されるような気持ちになるんだけどね。
思い出したらまた苦しくなってきた…。

どこかでたくましく生きていてくれよ、夕子ちゃん。

及川恵子