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October 7|マジックアワーの魔法、端書。

彼とデートの話、鎌倉と江ノ島に日帰りで行った日のこと。天気が良く風の気持ちいい秋晴れの日で、日差しが眩しかった。湘南新宿ラインは人身事故の影響で遅延をしており、彼から遅れると連絡が来たのでタクシー乗り場の前でぼーっと鎌倉の街を眺めていた。

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初めて鎌倉を訪れた日は小学校の修学旅行だった。
東日本大震災から一年と少し経った頃で安全面から自由行動の時間をあまりとってもらえず、もう10年前くらいのことなのであまり覚えていないが、小町通りだけ自由行動ができた。小町通りといえば、おもちゃ屋さんのちょっぺ〜。レトロで情緒ある店内に同級生の男の子たちは溢れ、剣を買っていたような気もする。

そういえばちょっぺ〜はまだ小町通りにあるのかな。
今日のどこかで見に行きたいけれど、また鎌倉に戻ってくることを彼はプランに想定しているのだろうか。鶴岡八幡宮やら小町通りやら、THE 鎌倉!なところにも行きたいって昨日のうちに言ったらよかったな。

そんなことを考えていると彼が到着した。白いシャツを着た彼が、遅れて申し訳なさそうに近づいてくる。

11時05分、デートの始まり。

一緒に住んでも一緒にいる時間が長くなっても、デートは待ち合わせから。彼は“ちゃんと約束をして外で待ち合わせがしたい”というリクエストをいつも聞いてくれる。大切な友達との待ち合わせも同じように思うのだけれど、約束から会うまでの時間、あの浮き足立つような心模様が好き。ちょっと早起きして準備する時間も、そこへ向かう道も、ちょっと早く着いて待っている時間も、来た瞬間のドキドキも、できれば何回でも味わいたいと思う。

江ノ電の一日乗車券「のりおりくん」を二人分買って、改札を通る。

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お昼ご飯は、由比ヶ浜でお蕎麦を食べようと決めていたのでそこへ向かった。

前日にダイエット宣言をした私を気遣って彼が蕎麦を提案しくてくれたが、私が決めたお店は「天せいろ」推しだった。案内された木陰のテラス席に座り、メニューを開く。昨晩からそばよりも天ぷらに惹かれていたため、私は彼の配慮そっちのけで“ダイエットはまた明日から!精神”が発動、天せいろを注文した。

どうやらこのお店はランチにコースもあって、蕎麦屋なのに前菜のメニューや刺身もあって、珍しい。こだわりのある店主なのだなと思いつつメニューを閉じ、店員さんに渡す。

のんびり彼と他愛もない話をしていると、テーブルに蕎麦が並べられた。

話しながらキョロキョロしたり考え込んだりする私を穏やかに見守る彼と目を合わせ、蕎麦と天ぷらに手を合わせる。

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再び江ノ電に乗り、鎌倉に戻ってきた。

この蜂蜜屋さんって全国どこの観光名所に行ってもあるよねなんて話しながら、夏の終わりにしては眩しく暑い太陽にジリジリ照らされながら、小町通りを歩いていると、あった。ちょっぺ〜があった。看板がいつからこんなに古い感じになっているのかわからないけれど、10年前からこうなのかもしれないけど、確かにそこにちょっぺ〜はあった。

前の記憶は褪せないまま、思い出が上書きされていく。

小町通りも鶴岡八幡宮も、あの頃の私と同じくらいの歳の子供たちの横で一緒に信号を待つのも、全部。時が経って同じところを訪れる良さは、その景色に色が足されていくような記憶の上書きができるところだろう。あの頃の視線の高さで世界を見回すことはもうできないけれど、また違う視点と視野でここにくることができてよかった。

またまた再び江ノ電に乗り、長谷で降り、また乗り、夕暮れ時に七里ヶ浜で降りた。

billsでパンケーキと飲み物を頼み、波を見つめる。
昔から海に漠然とした不安を感じる。叔父も幼馴染ファミリーもサーファーで一緒に海へ行く機会もあったのだが、海に行っても車から降りないような子だった。泳げないというのもそう感じる理由ではあるのだろうが、途方もなく広がる海は見ているだけで飲み込まれるような感覚がある。それは溶け込むではなく消えてしまうような感覚で、海を自由に泳ぐことができたら、海を知ることができたらと思うのだけれど海の自由は少し怖い。波に浮かぶサーファーたちを眺めながら、私の知らない海の世界を知っている彼らを少し羨ましく思う。

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日が沈む。

瞬きをする度、空の色は変わっていく。

魔法がかかったように、海も色づいていく。

海は美しかった。沈めばまた暗くなり不安になると思うけれど、この時間は少しも怖くなかった。

日が沈めばデートも終わる。場所も人も食事もあなたとの時間も、色を足すように上書きされた記憶はずっと綺麗でもっといいものになった。

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端書。鎌倉とは関係ないのだけれど下書きに書いていたものをここに昇華させてね。

彼は優しい。夜中に怖い夢を見て苦しくなって彼を起こしたら、嫌な顔一つせず夢のことを聞いてくれる。そうしたら「そっか怖かったね、話したら正夢にならないから大丈夫、安心して寝てね」って頭を撫でて、すっとまた眠る。
こんな優しい日々が続けばどれだけ幸せだろうと思う。幸せが何かはわからないけれど、優しいがどんなものなのかわからないけれど、この穏やかで優しくて幸せな日々が消えずここにあってほしい。

彼は繊細である。誰かの幸福も苦しみもスポンジのように吸収してしまう。誰かのトゲが刺さって抜けなくなって、でも彼は笑う。まるで刺さるのが他の誰でもなく自分でよかったかのように。だから私は彼の傘になりたい。棘も黒い雨も眩しすぎる幸福も全て、全天候型の傘になって、彼のような繊細で優しい人が傷つかないように守りたい。繊細で綺麗な彼が、少しでも無垢に笑えますように。彼の優しさが彼を苦しめませんように。

日々の記録、あなたへの感謝と愛を添えて。


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