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それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第41回 果汁天国へようこそ!

(45)食事を済ませたぼくは、思いがけない御馳走で膨れぎみの腹をさすりながら、ふたたびモール内を歩き始めた。そして、先刻から気になっていた同フロアの生ジューススタンドで、西瓜汁(シーグアジー=スイカジュース)をもとめた。店名を辛迪果飲(シンディーグオイン)という。白が基調のシュッとした外観の専門店で、他にも金桔百香茉莉緑(金柑とパッションフルーツの入ったジャスミンティー)や雪梨芒果汁(ユキナシとマンゴーのジュース)などに惹かれたが、中国の旅でおいしい西瓜汁を何度も堪能していたぼくは、結局お気に入りを注文した。ビッグサイズの大杯(ダーベイ)、常温でなく冰(ビン=シャーベットタイプ)、価格は25元(約400円)。いま終えたばかりの豪勢な食事と比べて若干高めに感じるが、むしろこちらが相場だろう。そのギンギンに冷えた西瓜汁は、一日の疲れをピュピュッと吹き飛ばすほど果汁感満点で、それはそれは爽快かつ美味であった。そのまま透明カップを片手にチューチュー飲みながら歩き、ぼくはすっかり暗くなった屋外へ出た。タクシーを拾い、北京路を走らせる。所要十分で、二日目の宿である錦江之星酒店(ジンジアンジーシンホテル)・荊州長途汽車站(長距離バスターミナル)店に到着した。

(46)部屋に到るまで、冷たい西瓜汁を飲んでいた。ぼくは極楽気分で一日を振りかえり、翌日の旅をシミュレーション。それからシャワーを浴びて、即行でベッドに倒れ込んだ。歩数計は「2万5387歩」を示していた。午前中はずっと列車の中だったので、ほぼ半日の記録といっていい。物珍しさで行動していると、中国の旅はとにかく歩かされる。さあ、寝しなに一首、爆詠みしておこう。

  楚城の殷盛(いんせい) 極まれり
  街路 衆人 ただ沸騰
  城闕(じょうけつ) 夕に演唱を聴き
  橋辺 夜に広場舞(ダンス)を看る

  *原詩「江南旅情」 楚山不可極 帰路但蕭条 海色晴看雨 江声夜聴潮 劍留南斗近 書寄北風遙 爲報空潭橘 無媒寄洛橋

祖詠(そえい、699─746)は唐代の詩人。洛陽の人。隠棲生活を送った彼が呉と楚へ遊んだときの作で、五言律詩の前半を借用した。殷盛極まれりは大袈裟だけれど、早々に発展を遂げた沿海都市とは異なる、いま伸びしろしか感じられぬ、内陸部のパワーに打ちのめされた。そんな夜だった。城闕は城門の意。

客席もあるがテイクアウト客が中心のよう。
メニューが豊富で目移りする......
館内のスーパー大潤発のチラシ。
錦江之星ホテルの外観と西瓜ジュース。

 江南旅情 [唐]祖詠
楚山 極む可からず。歸路 但 蕭条たり。
海色 晴れて雨を看、江聲 夜 潮を聽く。
劍は南斗に留まりて近く、書は北風を寄せて遙かなり。
爲に報ず 空潭の橘。洛橋に寄するに媒無し。

目加田誠『新釈漢文大系19 唐詩選』(明治書院,1964年)p.372-373

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