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それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第45回 北京ダックのうた2019

(61)まだ11時だが、そろそろお昼ご飯にしよう。万達(ワンダー)広場へふたたび。暑いなか数百米(メートル)うろうろして、やっとこさタクシーをつかまえる。北京西路を西へ進んで、ほどなく到着。昨日さんざっぱら、ひやかして歩いたので、もう店は決めてある。本日のご注文、北京烤鴨(ダック)一択である。日曜日とあって、昼前だというのに人出は多い。外には子供用の逆バンジー遊具が四カ所設置されていて、強力なゴム紐(ひも)を取り付けられた幼児が、ビヨーン、ビヨヨヨーン、とトランポリンマットの上を浮遊している(これをバンジートランポリンと呼ぶそうで、東京ドームシティでも同様のアトラクションを見たことがある)。ちゃんと係員が一人ずつ付いているので、一応そこは安心する。逆バンジーといえば、もう二十年くらい前のことだが、北京一の繁華街である王府井(ワンフージン)で見たのが衝撃的だった。キリキリと張りつめたゴムの力が解放されて、ベンチごと二、三人が遥か上空に跳(と)ばされるという、まあそんな破天荒スタイルである。広い歩道の上を30米ほど舞い上がっていただろうか。おそらく世界中で親しまれている屋外アトラクションなのだろうけれど、それが東京でいえば銀座数寄屋橋や渋谷109前のような人通りの多い立地で行われていたものだから、なんて思いきったことをするのだろうと度肝を抜かれたのを覚えている(なおSNS上にも若干日本人の現地報告が残されている)。

(62)店は、京味坊老北京烤鴨(ジンウェイファンラオベイジンカオヤー)という。平均消費額は70元。店名が安直で少々イケてない気がするが、千円程度で北京烤鴨(ダック)がいただけるのならば、もうそんなことはどうでもいい。さっそく入店し、無客を確認。貸切状態である。ぼくはさっそく菜単(メニュー)から目当ての品、すなわち北京烤鴨(ダック)のセットを探しだし、オーダー。ついでに青菜(チンツァイ)炒めも追加注文した。じつは、このモール内でも飲食店の栄枯盛衰はシビアで、SNSで気になった店を調べてみると、少なからず閉店または移転と表示されたりする。だから口コミの内容に注目するのもいいが、逆にそこそこの投稿期間と評価数があれば、それはまず営業を継続するだけの集客があるという証である。頭の中で細野晴臣の「北京ダック」をBGMに流し、ルンルン気分で待っていると、まず西瓜とスープが運ばれ、しばらくしてメインの北京烤鴨が卓子(テーブル)に着した。主役の鴨は、思わず笑みがこぼれるほど山盛りで、もちろん良き色に炙(あぶ)られており、かたわらには蒸籠(せいろ)に薄餅(バオビン)、小皿に甜面醤(ティエンミエンジアン)、そして日の字型の皿にネギとキュウリである。本寸法です(パチパチパチ)。では、いただきましょう。肉は外はパリッ、中はホクホク、食べごたえがあり、タレなしでも美味い。薬味といっしょに皮に包んでかぶりついてみたり、あるいは鴨肉のみを口に放り込んでみたり、また時には鴨ガラのスープに浸したり。とにかく分量が多いので、いろんなことをして次々と鴨肉をいただく。ふだんはこんな豪勢なことはしないから、味や食感を記憶の引き出しに仕舞い込みながら、それこそ向こう一年分のつもりで食べた。青菜炒めのほうも、日本人好みの醤油濃いめの甘辛い味付けで最高に美味しかった。これはこれで、ご飯も欲しかったくらいである(さすがに満腹でやめたけれど)。昨晩から二食つづけて贅沢なひとときを過ごした。ところで、高徳(ガオドー)地図などを見ると、どこの街でも大抵人気の北京烤鴨テイクアウト店があって、自宅用セットがお手ごろ価格で売られている。さらに口コミを観察していると、庶民的な佇(たたず)まいでありながら清潔感が保たれ、分量の量り方が公明正大で、各材料をバランスよく詰めてくれるという店が、おしなべて高評価を受けているようである。ぼくも事前に目星をつけて、そういう所に立ち寄り、ホテルや列車内で食べてみたいとも思うのだけれど、旅先では下手をすると、訪れてみたけど休業で食べそこなったなんてことにもなりかねないので、どうしても食べたいとなれば、やっぱりそれなりに安心できる店舗でということになる。だから、こういうショッピングモールの明るい店内で、安心して北京烤鴨が食べられる(しかも内陸の地方都市で)というのは、こりゃほんと幸せな時代になったもんだと天に感謝するしかない。

  北京烤鴨(ダック)の薫ずる
  以てわが空腹の憾(うら)みを解くべし
  西南松茸の時なる
  以てわが心を寛(ゆる)うすべし
  *原詩「南風歌」 南風之薫兮 可以解吾民之慍兮 南風之時兮 可以阜吾民之財兮

三皇五帝の舜を称えたとされる無名氏の作。『十八史略』に取り上げられている。中国松茸の主たる産地は雲南・四川だというので、北京との対比で西南とした。

屋外のアトラクション(逆バンジーにメリーゴーランドまで)。
北京ダック専門かと思いきや、しゃぶしゃぶや火鍋も楽しめる。
至福の北京ダック独り占め。
まだ11時半だが、食事中に何グループか入店してきた。混み合う前に退店。
同フロアの飲食店。古典的店名とシックかつ前衛的な構えが何ともいえない。
モール内の人気バラエティーグッズ店。ここでも漢服女子を複数発見(右奥)

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