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【漸進という魔術】清水エスパルスとヤン・ヨンソン監督の歩み(3)


画像は清水エスパルス公式サイトから。


清水エスパルスの2018シーズンを振り返るシリーズ第三弾。今回は後半戦の振り返りです。もうこのフリも恒例なので早速本題に入りましょう。


目次
(1)2018シーズンを数字で振り返る 
(2)前半戦感想まとめ 
(3)後半戦感想まとめ ★今回はココ
3-1.失速問題とドウグラス
3-2.渋滞問題と白崎凌兵
3-3.北川航也と正のスパイラル

(4) ***
★(3)公開後にアンロックされます。


(3)後半戦の感想まとめ

W杯を挟んだ2か月近いブランクでは異例の16連休を設け周囲をざわつかせ、天皇杯でも再び甲府にカップ戦の希望を絶たれてしまい(三回やって一回も勝てないってどういうことなの…)中断前の不安は増すばかりであった中、中断後の3試合を6得点1失点と破竹の3連勝。
これでついに波に乗るかと思われたが、続く鹿島戦でのブザービーター負けからC大阪、川崎、浦和と好戦するもタイトルホルダーに次々と勝負強さを見せつけられる格好に。
結局前半戦と同じく不安定な試合を続けてしまい、残留が危ぶまれるかというところでしたが、FC東京戦で自信を取り戻すと続く静岡ダービーで5-1と今季最大の大勝を挙げ一気に上昇気流に。
この試合のパフォーマンスは北川航也の日本代表追加招集につながって、代表の経験を経てパワーアップした若きエースに追いつき追い越さんとする選手達のさらなる奮闘によってチームはさらなる団結力とタフな精神力を見せるという好循環を生み、今季最長となる7戦負けなしで勢いを止めることなくシーズンを締めくくれました。


後半戦もまた、前半戦同様に「いけるやん!」という画期的な改善から、あれよあれよと粗が目立ち始め、大丈夫かなという流れになってしまいました。しかし、そこで踏ん張りダービーの大勝という結果に結び付けたことが今季の内容を大きく変えることになりました。

その結果に結びついたのは、前回取り上げたいくつかの課題に対して、チームが一定の解答を示したことにあります。今回のセクションではその部分を掘り下げていきたいと思います。



3-1.失速問題とドウグラス



なによりまず触れなくてはならないのはドウグラスの加入ですね。夏の加入にもかかわらず出場15試合で11得点3アシスト。シュート決定率は広島時代(21得点)の18.6%を上回る20.8%という驚きの数値。

日本ではいずれものチームでもセカンドストライカーの役割で広島で開花した選手でしたが、UAEでは3トップの真ん中を務めてクロスを絶対押し込むマンとしてACL決勝に導き、ロングボールが多いトルコリーグを経てきたおかげか、CBを押さえつけてポストプレーして良し、引いた位置で受けてはたいても良し、裏に抜ければマーカーを引きずり倒してなお推進力が落ちないただ一つの掃除機、クロスには弾丸のようなヘッダーを打ち込み、と居るだけで全部なんとかしてしまうバケモノになって帰ってきていました。おかしなことやっとる。

デビュー戦となったガンバ戦でのゲキレツヘッドは今シーズン初ゴールのクリスランの形と全く同じで、いきなりチームの戦術にフィットしていることを期待させました。




前半戦、全ての局面で惨敗していた川崎相手にもこの圧巻のパフォーマンス…(なお、彼が負傷交代した後の記憶はございません




ただ、こういったドウグラスの個人能力は、暑さで連動が乏しくなってきた8月あたりから「思考停止の放り込み」という副作用も起こすことになりました。


前半戦でもクリスランが苦しんだ症状で、クリスランは止まった状態で競ることには向いていない選手だったのでますます苦しかったのですが、ドウグラスはたまになんとかしてしまうので恐ろしかったですね…w

辛いときはとりあえずドウグラスに放っとこうというのは、「形」と呼ぶには不本意なものなのですが、相手DFの警告やPKを稼いでくれたり、ラインを上げなおすことが出来たりと少なからぬ回数を助けてもらいました。

高い位置から行かないと死ぬという習性のあるヤン・ヨンソン監督のチームが常に怖れてきた「失速」の時間をずれこませることに成功して、これが本当に大きかった。

でもボレーシュートでゴールに持ってくのはいくらなんでもやりすぎだと思うの…





もちろん超ド級の「個の力」が清水エスパルスを低迷一歩手前で踏みとどまらせたことも十分な功績ですが、妥協のないトレーニングによってプレッシングとその先の攻撃の精度と威力を高め続けることができたことによって、10月以降のチームの安定したパフォーマンスにつながっていったこともまた強調しておきたい点です。


「功労者として、ドウグラスが大きな部分を占めていると思います。出場すれば、常に点を取ってくれるという期待感がある。(中略)また、人間性も素晴らしい。あれだけ活躍しても、「オレにボールを出せ」とはならないので、ドウグラスに不満を持つ選手は一人もいません。
そのドウグラスに対して、日本人と変わらない接し方をするヨンソン監督の存在も大きいと思います。日本のクラブの監督は、外国籍選手には甘いという見方が一般的だと思うのですが、監督は、守備をしなかったらドウグラスにも厳しい。そのわけ隔てないところを凄く大事にしています。
(白崎凌兵) 『エスパルスニュース12月号巻頭インタビュー』より


監督のマネジメントもよかったよという白崎のコメントはめちゃくちゃ嬉しかったです。いや、「当然のことをやったまでです」ってことなんですけれども。嬉しいですね。

ドウグラス自身も清水のプレーモデルが自分と相性がいいことを理由に加入を決めてくれていたようですので(同誌10月号より)、すんなりと”フィット”することが出来たのでしょう。

ハイプレスからそのままシュートまで持っていってしまう突破力と地味に超正確な左足のパスだけでなく、ドウグラスの方が守備の指示を出してチームをまとめるということも出てきます。シャドウ時代に培った自陣深くに戻っての守備もハーフスペースを突かれた際の強度不足を大きく補ってくれました。しかもそっから自らゴールまでいっちゃう有り様。おかしなことやっとる。

また、次章の内容に被りますが、ポジトラでドウグラスがサイドに開くことで中央にスペースを作りより容易に2SHや北川もしくはセカンドボールに備えるボランチがシュートを打つことが出来る状況を創り出すことも増えていき、コンビネーションも成熟されていきます。

ドウグラス頼みに陥りつつあったチームが徐々に「ドウグラスと共に」自分たちの強みを押し出すことが出来るようになってきたことが終盤戦の好印象の要因なのでしょう。




ねんがんのツートップだけでショートカウンターを決めきったぞ




3-2.渋滞問題と白崎凌兵



ドウグラスと共に取り上げておきたいのは白崎凌兵です。シーズン当初は負傷で出遅れてしまい、出場機会がほとんどなかった「10番」は天皇杯で指揮官の信頼を掴むと、キャプテン竹内涼の負傷離脱によって不動のポジションであったボランチに定着します。

元々二列目の選手ですが、運動量とスペースの感知に優れていることから河井さんとの中央のコンビにすんなりと収まり、さらにはそのパスセンスによってスペースに飛び込む前線の選手にピタリと通すことが出来るようになったことで、前半戦の懸念事項であったポゼッション攻撃の風通しがよくなりました。





再開初戦のC大阪戦からいきなり北川のゴールをお膳立てすると、





浦和レッズと堂々の打ち合いを演じ、(失点し過ぎなんですけれども)




前半戦はほぼ100%相手へのプレゼントパスにしていたダイレクトプレーも決まるように。後半戦無得点の試合は鹿島戦と湘南戦のわずか2試合。前半戦は典型的な拙攻のチームだった清水エスパルスがリーグ屈指の得点力のあるスカッドに「化けた」のはドウグラスだけの功績ではありません(当たり前なのだけど)

白崎の復帰に代表されるように、戦術的にもコンディション的にも出場できる選手が増えてくると、腹案としていた4-1-4-1への変化によって時間と共に強度の落ちる中盤の手当ても柔軟に行えるようになってきたこともまた、プラス材料でした。

とはいえ、イケイケドンドンで間延びする局面が増えてしまったこと、さらにはそういう時に頼りにしていたトランジションやハーフスペースのカバーリングが河井さん一人に集中してしまったことで、守備の安定性を失う結果に。鹿島戦からG大阪戦まで9試合連続失点という不名誉な記録を立ててしまいます。陣形変更も、4-4-2で固定されてきたプレスの基準点がぶれてしまい自分たちからバランスを崩してしまうという悪循環を起こすこともありました。北川君のサイド起用は諦めよう。

だんだんと残留が危ぶまれる状況も匂ってくる頃合になってキャプテンが復帰して白崎が本職の二列目に収まったことは大きな転機でした。柏レイソル戦でのキャプテンの復活ゴールと本職に復帰した白崎のゴールがその後の上昇気流の序章であったことはこのときはまだ分からなかったのですが、あの柏戦での手応えがなかったらと思うと首元が寒いですね...w



3-3.北川航也と正のスパイラル



さて、上記の攻撃力の向上と、その裏腹もしくは気候面や連戦の影響による守備強度の問題とのシーソーゲーム状態の続いた清水ですが、そのバランスをよい方に傾ける決定的な役割を果たしたのが北川航也の活躍でした。

先発出場は28と清水のFWで最多、昨年に比べると3倍以上となり完全に主軸に固定されるなかでドウグラスとの連携は攻守ともに初めはガタガタで、それがドウグラスに放るだけやんけ状態の要因であり、北川くん自身のゴールも止まってしまったわけですが、G大阪でフリックプレーでの見事な裏抜けで久しぶりの得点を挙げると一挙にドウグラスとの呼吸をつかみます。




FC東京戦ではドウグラスの意表を突くミドルシュートに一人反応すると、静岡ダービーでは自身の2得点とともにドウグラスに2アシスト。自身初の二桁得点は、日本代表の座をも射止めました。



日本代表でトップ下でのプレーを経験するとライン感でのボール前進もパワーアップ。北川には更なる責任感が生まれ、要所要所でのプレーに凄みすら感じさせると共に、勝利を重ねるなかでチームのメンタリティもたくましくなってゆきます。

あれだけ夏場まで口酸っぱく言われていたクロス対応がいつのまにか得意の守備になっていきました。ファンソッコの兄貴とフレイレのカバー関係は安心してみていられる域にまでなっていましたね。

加えて、一部のメンバーチャンジでは動じないチームワークも見せられるようになっていきます。
ドウグラスの不在にはクリスランが奮戦するも不運な前十字靭帯損傷。しかし緊急出場となったチョンテセが復活のファインゴール。
全くうまくいかなかった湘南戦でヨンソン監督が退席してしまうもワンチャンスを粘り強く狙い引き分けに持ち込み、続く名古屋戦では監督不在のピンチも全く感じさせない快勝。



フレイレの不在でポジションが大きく入れ替わった神戸戦では2点差に離されたものの劇的な同点。立田・河井という守備の要をラフプレーで失った最終節では、苦手のポゼッションで石毛・飯田の二番手組が奮戦。ボールポゼッションで勝ると全く機能しなかったチームを一時逆転にまで持っていきました。(失点の内容のあまりのショボさに5回くらい憤死したことを棚に上げながら!)

「このままシーズンが終わるのが惜しい」と選手が言ってしまうほどの、充実した終盤戦となりました。それまでの苦戦を思えば、夢のような時間であったと言ってもよいかもしれません。


とはいえ、結果は8位で、もったいない取りこぼしが少なくなかったと思えば十分な成果であったとは言いがたいところです。しかし、勝ちきれるチームへの萌芽を明確に感じさせるシーズンにすることは出来たでしょうか。


しっかりと守備を構築してそれを積み上げてきた結果、原因も明確で、次に改善が効く失点しか生まれなくなったように感じます。外から見ていて僕らがそれを感じられるということは、ピッチで戦っている選手たちにとっては一層、自分たちのすべきことが明確になっているのではないでしょうか。(中略)今は選手たちがチームとしても、個としても、目指すべきものも、向き合っている課題さえも、シンプルで難しくないのだと思います。
(山西尊裕 常葉大学浜松キャンパスサッカー部コーチ)『エスパルスニュース 12月号より』


明確なサッカーにより、課題が明確になので、なすべきことをした結果が終盤に花開いた。

筆者がヤン・ヨンソン監督の最もリスペクトするところはこの「明確さ」で、何をしようとして、何が上手く行き、何が上手くいかないのかが常にアップデートされているところです。今季の清水エスパルスにも、そういった成長があったことが成績そのもの以上に嬉しかった。

そしてそれは来季以降も続くものであるという期待をしてしまいます。なぜなら、シーズンオフの補強も明確になっているはずだから...ですが、本当にそうであってほしいものですw


というわけで次回予告。


(4)2019シーズンに向けて


主に補強のリアクションの予定です。年内にイイニュース来たら更新します...w

それでは!


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