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LIGHT & DISHES ラボ・ディナー会 特別編

テーマ 「旅:イギリスからみた日本が誇るべきクラフトマンシップ」

11月28日(火)に〈LIGHT & DISHES Lab. ラボディナー会 特別編〉を開催しました。
この事業では、月に1度さまざまな分野で活躍するゲストスピーカーを迎え、共に食卓を囲みながらそれぞれの世界観を学び合う会です。今回のテーマは「イギリスからみた日本の誇るべきクラフトマンシップ」。ゲストにジャンフランコ・キッコーさん(キュレーター)、安積朋子さん(デザイナー)をお迎えしました。

How to feel more
工芸・デザイン・テクノロジーで、人と人とを繋ぎ合わせてきたジャンフランコさん。
「インターネットやスマートフォンを駆使し、ただ頭だけを動かし続けたコロナ禍の3年間、自分の頭と身体はまるで切り離されているかのような感覚でした。」と話します。
”職人”という漢字が表すように、耳や手、触感を研ぎ澄ました職人技が、人間の本来の感覚を呼び覚ましてくれるであろうという思いから〈The Craftsman Newsletter〉の構想にたどり着いたといいます。
「進化を経て、人間はデジタル機器と同じようなパフォーマンスを一見求められるようになった。私は真逆の考え方として〈The Craftsman Newsletter〉を通じ ”デジタルの世界から離れたところで ものと向き合っている人たちが、どのようにして感覚を磨いているのか“ にフォーカスをして研究を続けています。」ジャンフランコさんは、日本の伝統工芸の産地を訪れ、職人のもとで自ら手習い、取材を重ねています。工場や工房を訪れた人がそこでどういう体験をするのか?なにより〈どうやってより感じられるか [How to feel more] 〉?というところを重点に置き、今後もさらに深掘りしていきたいと話します。

インテリアに馴染むコンテンポラリーな工芸
朋子さんにはご自身がデザインを手掛けられたTime & Styleの茶器〈Ureshi〉、メガネの田中の新ブランド〈001./One Dot〉この2つのブランドを製造した産地についてお話をしていただきました。
 
茶器〈Ureshi〉は、佐賀県嬉野に伝わる「肥前吉田焼」のモダンで精緻な磁器の加工を得意とする窯元で製作されています。
嬉野は「有田焼」や「伊万里焼」で有名な陶磁器の産地のそばにあり、名物の嬉野茶は歴史が古く、土瓶や茶器、急須とともに400年以上歴史を誇る焼き物の町。昭和の食卓を思わせる装飾的な花びらの絵付けが施された湯呑みや、伝統的な青い釉薬”呉須”は〈肥前吉田焼〉の特徴。朋子さんは、そこで丁寧に作られている緑茶と出会い、お茶の旨味を引き出す茶器をデザインしようと思ったそうです。
 
次に、メガネの田中〈001./One Dot〉
福井県の鯖江でつくられています。国内産の眼鏡フレームの96%以上が鯖江産であり、その伝統的な文化と技術は眼鏡の世界的産地と呼ばれるほど。眼鏡を作るのに必要なパーツは200を超える過程から出来ていて、その工程を産地内で分業しているのだそうです。精密なパーツや各工程を専門の職人が担っているというのが主流であり、各々の作業に没頭でき、かつ切磋琢磨することで常に磨き上げられてきた文化なのだといいます。朋子さんがデザインした眼鏡は、“外に置いたときにインテリアの一部なる”というコンセプト。職人たちへ細やかな図面指示、会話と会話を重ねたプロセスを経て完成に至ります。「朋子さんは「この分業スタイルは、職人たちの仕事に対する意欲や健康、後継者の育成などに頼ることで成立しています。彼らの仕事に対する思想が日本的な工芸を必要とする商品を支えているのだと思います。その意義をこれからの世代が受け継いで、永く続いて欲しいです。」と語ります。

編集後記
今も受け継がれる伝統工芸品には、はるか昔に遡る歴史的背景や土地柄が大きく関係していました。それが現在の私たちにまで届いているということは、地域の職人が立ち上がり、伝統的な技術を守りながら現代の生活に取り込みやすい工芸品の製作に試行錯誤をされてきたからだと思います。
そして、お二人のお話から、日本のクラフトマンシップに垣間見える熟練の職人による精緻な手技や情熱、ものを大事に使ってその経年劣化を楽しむ精神などは日本の特有であるということが分かりました。日本に住む私たちが今後のものづくりを伝承させていく一個人として、未だ知らない伝統工芸の歴史や技能を探ってみたくなりました。
(LIGHT&DISHES/吉原千晶)



安積 朋子|Tomoko Azumi

広島生まれ。京都市立芸術大学デザイン科環境デザイン学科にて建築を学び、設計事務所に勤務ののち渡英、1995年にRoyal College of Art 家具科を卒業。デザインユニットAZUMIでの活動を経て2005年にTNA Design Studioを設立、現在に至る。TNA Design Studioでは家具、プロダクト、商業インテリア、展示会の構成などを手がけ、2009年には英国の最高裁判所の家具をデザインした。その他の活動では、英国王立芸術大学院などでの講師、ロンドンメトロポリタン大学の研究員をつとめたほか、各種デザイン賞の選考委員を歴任する。

https://www.tnadesignstudio.co.uk/


Gianfranco Chicco |ジャンフランコ・キッコー
ロンドン在住のイベント・キュレーター、マーケター、ライター、親日家。
ロンドン・デザイン・フェスティバルとロンドン・デザイン・ビエンナーレのコンテンツ・デジタル部門の責任者を務める。1999年よりデジタルの仕事に携わり、デジタルと物理的世界のギャップを埋めることで、人々を結びつける体験を創造している。「The Craftsman Newsletter」のキュレーターとして、人間性をより高い次元で表現する職人たちにインタビューしている。デジタル技術の革新性と利便性と結びつけることで、より良い生き方や働き方を創造するために、日本の職人から何を学べるかについて研究している。
アルゼンチンのブエノスアイレス工科大学(ITBA)で経営工学の学位を、イタリアのミラノ工科大学経営大学院でエグゼクティブMBAを取得。アルゼンチン出身でイタリア語も堪能。ブエノスアイレス、ミラノ、東京、アムステルダム、マドリードに住んだ後、2013年にロンドンに移住。
https://www.gchicco.com

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