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Bacalov 三部作

R50+  5000文字  1970年代風物   
ルイス・バカロフ  イタリアン・プログレ    
※興味のないかたはスルーしてください※

イントロ・タグ

ユーロ・プログレを聴くようになったきっかけは、1978年キング・レコードが企画した「ヨーロピアン・ロック・コレクション」でした。LP 1枚 1800円という廉価だったので、当時高校生だったぼくらは競いあうように買いまくりました。折しも、本場英国のプログレが斜陽化していた時期。5大バンドをほぼ制覇していたぼくは、その頃、興隆しつつあったアメリカン・プログレ・ハードにはまだ違和感があり (アメリカはプログレ後進国だと思っていた)、またパンク・ブームにも傍観者を決めこんでいたのです (パンクは聴くものではないと思っていた)。

つまり、ポッカリと空いた隙間にまんまと嵌まったキング・レコードの企画。その第一弾のラインナップがこれまた素晴らしく、ぼくは失いかけていたプログレへの情熱を、その収集の矛先を、イギリスからユーロへと向け直すことになります。

Concerto Grosso Per 1

ぼくがまず入手したのは Osanna の「Milano Calibro 9」です。友人の I 藤くんが New Trolls の「Concerto Grosso Per 1」を先に購入していたので、当時の学生なら当たり前だった「分担制」に従ったようなものです。で、この両者が実に素晴らしい作品でした。いや正確に言うと、ぼくらの仲間内では「コン・グロ」のインパクトのほうがずっと大きく「ミラノ・カリブロ」は対概念として補完するような扱いでした。

当時 New Trolls の「Concerto Grosso Per 1」ほど、プログレ未聴者をノックアウトするのに最適な一枚はありませんでした。それほどこのアルバムは、とくに A面 3曲は、クラシックとロックのこのうえないマリアージュを聞かせてくれました。流麗なストリングスがバロックの荘厳さを美しく彩り、エレキ・サウンドはロックのダイナミズムを力強く際立たせます。それらが高次元で劇的に調和しているのです。予想を裏切らないという意味では「分かりやすい」とも言えるでしょう。イタリアという土壌に花開いた、古今東西のプログレでも奇跡の一枚。

I 藤くんは会うたびに「to die , to sleep , maybe to dream」と口ずさんでいました。次に気づくと S木くんが、その次は N川くんが、というふうに、その「Adagio」の一節が「コン・グロ」体験 (=通過儀礼) を終えた者の証明みたいにどんどん広がっていきました。

Milano Calibro 9

一方 Osanna の「Milano Calibro 9」はというと、もろ映画のサントラ盤という体でした。なので、アルバム全体のまとまりはあるものの、プログレの名盤というには若干ためらうような、少なくとも「コン・グロ」のようにストライクど真中に訴えかける感じではありませんでした。「コン・グロ」と勝負できるのは冒頭「Preludio」「Tema」の2曲ぐらい。しかしラストに、まるでボーナストラックのように、名曲「Canzona」があったのです。

ぼくは「Canzona」をとても気に入りました。アルバムを聴くときは必ずといっていいほどヴォーカルといっしょに歌いあげました。そういえば、T家さんに朗々と聞かせたこともあったっけ。二人きりの自室で「ミラノ・カリブロ」をガンガンかけ、最後の盛りあがるサビのところで「In search of what has been already mine …… How how many days ……」とぼくがヴォーカル・リノに成りきっていたとき。「ホウ・ホウ・メニー? ハウ・メニーやんか」悪戯っぽく突っこみを入れてきた T家さん。「ホウ・メニーって聞こえるやろ」「でもハウ・メニーって歌詞に書いてあるやん」。「なんだとー」「やん、くすぐったいって」。脇腹をこちょこちょしながら二人で転げまわり、そのうちレコードの針が上がってシーン (静寂)。

不意に時間がとまり、見つめあう二人。と、出しぬけにノック音。「冷たいもの、どうぞ~」。なんそれっ!

Luis Enriquez Bacalov 

とにもかくにも「ヨーロピアン・ロック・コレクション」の成功は、第一弾イタリアの 2バンドがもたらした、といっても過言ではありません。しかも続く第二弾として、New Trolls「UT」、Osanna「Palepoli」、それぞれの次作をぶっこんできたのですから、イタリアン・プログレ・ファンがここで一気に増えたのは間違いないでしょう。I 藤くんもその一人で、PFMのアルバムを収集したり Le Orme を逸早くぼくたちに紹介してくれたり、自他ともに認めるマニアに変貌しました。ぼくらの耳も次第に肥え、たとえば「コン・グロ」と「UT」のどちらが優れているか、よく議論もしました。

New Trolls 
1971  3rd「Concerto Grosso Per 1」
1972  4th「UT」
Osanna
1972  2nd「Milano Calibro 9」
1973  3rd「Palepoli」

原題表記のみ

公平を期するために付言しておくと、第二弾の対決では「Palepoli」のほうが圧倒的に優勢でしたね。クリムゾン的なダークな世界に土着的・呪詛的な内面性を持ちこみ、情念の迸るがまま見事に結晶させたアルバムは、やはり古今東西のプログレでも奇跡の一枚です。

ところで、ロックとクラシックの融合をテーマにした「コン・グロ」&「ミラノ・カリブロ」に陰の立役者がいたことは、当時も一応は知られていたと思います。映画音楽家 ルイス・エンリケ・バカロフ その人です。70年代後半時の知名度としては、さしずめエンニオ・モリコーネを三回りぐらい小粒にしたような感じで、はっきり言ってイマイチ。ぼくが知っていた映画は「続・荒野の用心棒」「怒りの用心棒」ぐらいです。

だから、新進気鋭のロックバンドと組み、音楽ジャンルを越境する野心作を書いたのは、作曲家にとっても結果的には良縁でした。「コン・グロ」も「ミラノ・カリブロ」も、2バンドの名声を高めただけではなく、バカロフ自身の名声にも寄与しました。そして、このバカロフが物したスコアー、実はもうひとつあることはご存知でしょうか。ロックとクラシックの融合をテーマにした、いわゆるバカロフ三部作の最後ーー。

Contaminazione

RDM の1973年「Contaminazione」、いわゆる「コンタミ」がそれに当たります (邦題は「汚染された世界」)。RDM は、正式には Il Rovescio Della Medaglia といい、元来はハードロック系のバンドでしたが、バカロフとの本作によって飛躍を遂げたのは先行した 2バンドと同じです。違ったのは、世間での売れかたでした。本国イタリアのことはわかりませんが、少なくとも日本では「コン・グロ」や「ミラノ・カリブロ」ほど話題にはなりませんでした。もしかすると、それはぼくらの仲間内だけのことかもしれません。あるいは「ヨーロピアン・ロック・コレクション」に入らなかったからなのか、そうだとすればやはりキング・レコードの企画力 (販売力) は凄かった、ってことになりますね。

で、「コンタミ」の内容が前二作に比べて劣っていたのなら、まあ仕方ありません。ところが、出来に関しては引けをとらず、少しも遜色はなかったのです。アルバムのトータル性が素晴らしく、「コン・グロ」のように部分的な 3曲で終わり、ではありませんでした。バロック期の象徴であるバッハの旋律 (平均律クラヴィーア曲集) をモチーフに、混沌とした世界観を絶妙なバランスで纏めていました。過激でアグレッシブなギターとシンフォニック・テイストのストリングスで。バカロフ自身がプロデューサーとして参加していたことからも、相当の意気込みがあったのでしょう。

是非 ↓ で「コンタミ」のフルアルバムをご鑑賞ください。あいにくスタジオ録音盤がないので、来日公演時のライブ盤を貼っています (@club citta in 2013)。ほどよいハコの臨場感が美々しいです。言い忘れていましたが、「コンタミ」を教えてくれたのはもちろん I 藤くん。

せっかくなので、バカロフと各バンドとの関わりを最後まで追いましょう。1981年「コン・グロ Ⅱ」がキングの例の企画・第七弾で発売されます。

1971「Concerto Grosso Per 1」New Trolls + Bacalov
1972「Milano Calibro 9」Osanna + Bacalov
1973「Contaminazione」RDM + Bacalov 

1976「Concerto Grosso No.2」New Trolls + Bacalov

2007「Concerto Grosso Seven Seasons」New Trolls only

2013「Concerto Grosso No.3」New Trolls + Bacalov 

原題表記のみ

Spotify「New Trolls 20」

1976年に制作された「コン・グロ Ⅱ」A面 3曲も、やはりバカロフによる作曲でした。期待を裏切らない素晴らしい続編で、New Trolls ここにあり、を見事に印象づけました。それから永~い時を経て、2007年「コン・グロ・セブンシーズンズ」がリリースされます。31年ぶりのシリーズ 3作目ですから、そりゃもう誰だって「コン・グロ Ⅲ」が来た~、と色めきたったものです。ところが、この「セブンシーズンズ」にはバカロフはまったく絡んでおらず、New Trolls だけで制作したものでした。そうかと思えば、今度は本家本元バカロフ作曲の「コン・グロ Ⅲ」が2013年に発表されました。

ややこしいですね。つまり「コン・グロ Ⅲ」には二種類あって、ひとつはバカロフぬき=セブンシーズンズ、もうひとつは従来どおりバカロフ作曲、ということです。いずれも佳作なのでべつに優劣を決める必要もないのですが、そのあたりも全部ひっくるめて聴きたい、という御仁には是非ぼくのプレイリストを。「コン・グロ Ⅰ」から 50年超、結局 New Trolls の代名詞が「Concerto Grosso」であることは疑いようがないのですから。そのような作品がひとつでも後世に残せたのは、ロック・バンドにとって幸せなことでしょう。ちなみにバカロフは2017年に84歳で他界します。

Spotify「Osanna 20」

New Trolls が北イタリア (ジェノバ)で結成されたのに対して、Osanna は典型的な南イタリア (ナポリ) の出自を持つバンドです。高校時代はそんなことには関心がなかったのですが、今日のぼくの聴きかたはもはやプログレの対象ではなく、ワールドミュージックのそれです。50年も過ぎれば、往時の先進性や実験性 (プログレ的要素) はただの当たり前になってしまいます。そのあとに残る核のようなもの、それこそがいちばん大切な音楽性ではないでしょうか。Canzoniere Grecanico Salentino という伝統音楽のグループといっしょに聴くと、Osanna の魅力も倍増します。

Osanna プレイリストのオープニングは「ミラノ・カリブロ」ですが、中心には「Palepoli」を置いています。2015年「Palepolitana」の作品も交えつつ、全体の流れはライブどおり、といった感じ。ライブといえば、2017年のクラブ・チッタ公演は I 藤くんに連れて行ってもらいました。チケット代はもちろん、新幹線代から宿泊代まですべて出してもらいました。持つべきものはプログレの友。ってオチがついたところで。

それでは、また。
See you soon on note (on Spotify).


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