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短編小説『魔族領地の平和の為、剣士様にはお帰り頂きたい』


見知らぬ姫様、絶対にお助け致します。
そして、謝礼金をたんまり貰い、のどかな生活をしながら一生を過ごす。

王様より国全土に渡り、知らせが入ったのはほんの10日前の事。
何でも、悪鬼魔王に末姫が攫われたとの事。救い出せたものには何でも褒美を下さるそうだ。
俺は一応、なんの成り行きか、この国の5剣士の一人に選ばれてしまい「氷」の名証を貰った。言っておくが、俺の意思ではない。
目の前で悪行が次々起こり、やぶさかに思いつつ素知らぬフリも面倒くさい事もあり、嫌々も対応をしていたら、いつの間にか「剣士様」扱いされ、気楽な生活とは掛け離れた生活環境に陥ってしまったのだ。どこに居ても騒がれて迷惑だ。
まぁ、女の子に困らないのは有難いが。

とにかく魔王城に乗り込み、さっさと姫を救出してやろうじゃないか。


*****


「・・・ウッソでしょ、道に迷った」

人間と魔族領地の中間にある敷地内の森で、盛大に迷った。近道して人間領地に入ろうとしたのが行けなかった。
さてどうするか、右も左も、前も後ろも木々ばかりの同景色。
敬愛する魔王様から頂いた今回の命は、人間領地に潜り込み、人間達が魔族に対する好感度を調査する事。昔程ではないが、今だ人間達は魔族を悪として捉える考えをする者が多い。勿論、魔族に友好な人間達も居る。

どの時代も、人間だろうが魔族だろうが、等しく身勝手な奴は一定数存在する。
人間が魔族領地で悪さを企てない様に、魔族が人間社会に迷惑を掛けない様に、人間と魔族の安定と平和を守る、それが魔王直下警備隊である私が務める会社の理念だ。

そして、人間と魔族の違いは、魔力があるかないかと、角の有無ぐらいだ。ちなみに角は簡単に引っ込められる。見た目も寿命の長さも成長速度も、人間も魔族も変わりはない、その昔は一つの種族だったらしいし。

「今日はもう寝よ」

もう夜も遅い、この森からの脱出は明日考えよ。
寝袋に包まったら、相当疲れていたのかあっとう言う間に眠気に襲われ意識を手放した。

翌朝、押しつぶされそうな感覚で目が覚めた。

「んぁ?何?おも・・・・はい?」

なんだこの状況は?
同じ寝袋で、男に抱きつかれている。その男は気持ちよさそうに寝息など立てている。
抜け出そうと暴れたか、暴れれば暴れる程、何故か男の拘束が強くなる。
私、一応魔王直下警備隊ではそこそこ良いポジションを任される程、そこら辺の男に負けぬ実力の持ち主なのだぞ。
何者だ、この男、気配からして人間の様だが。

「久しぶりの女の子・・・柔らかくて気持ちい」

男の手がいらぬ所に伸びようとしたので、自分も痛いが頭突きで叩き起こした。
男が拘束を緩ませた隙に、寝袋から飛び出した。

「イッテェ、何すんだよ」
「それは、こっちの台詞です!何してるんですか貴方は!?女性の寝袋に潜り込むなど、破廉恥にも程があります」
「夜、寒いし。ちょうどいい湯たんぽだなって」
「あれ、貴方は・・・」

なんと、その男の顔に、見覚えがあった。
一年更新される新装版の人間図鑑に新たに追加登録された男だ。
データによると確か、氷の名証を授かった5剣士の一人。実力は10段階の10。
正直、まずい相手に出くわしてしまった。

「俺の事知ってるんだ?」
「・・・氷剣士のライでしょ、貴方、有名人だもの。こんな所で何を?」
「魔王城に喧嘩売りに行く途中だったんだけどさ、道に迷ったというか、森に閉じ込められたというか。そっちは?」

こんな喧嘩っぱやそうな危険な奴、魔王城どころか、魔族領地に踏み込ませるのも今は危険だ。

「私はシオンと申します。貴方と同じく道に迷った所存です。あの、魔王城に向かってらっしゃるとの事ですが、何が為に?」
「囚われの姫をお助けに」

囚われの姫?
あーもしかしてサクラコの事か。
彼女曰く、家での生活にうんざりし家出してきたと言っていたが。まさかお姫様だったとは。
サクラコを返せば、この剣士も魔王城には用は無くなり、引き返してはくれそうだが・・・生憎、サクラコは返してやれない。
何せサクラコ(21歳)は、魔王様(22歳)の番である。先日、契約も無事済まされた。

私の役割は、魔族領地の平和。
このレイが、安全な価値観を持つ人間かどうか見極める必要がある。
魔王直下警備団として、私が対処しなくては。正直、煩わしい案件ではあるが、お給金が良い分、関わってしまった以上、放置は出来ない。

「剣士様!お願いがございます」
「何?」
「どうか私を、剣士様の旅に同行させて下さいませ」
「その動機は?」
「動機?えっと、ん~・・・あっそうですっ私が貴方を好きだからって言うのどうですか?」
「明らか今、考えた動機だよな、それ」

剣士を見張り、どうにかサクラコを諦めさせる手段を探ってやる。

「じゃあさ、毎晩、俺の抱き枕になってくれるってのなら、同行を許可してもいいよ?」

こんの破廉恥剣士め。
嫁入り前だが致し方ない、魔族領地の平和の為だ。

「操だけは守りますから」
「せいぜい俺に奪われない様に防衛がんばって」
「無理強いしたら、さっきみたいに頭突きかますだけです」
「あれ、まじで痛かったわ、どんな石頭してんだよ」



おわり。
続かない・・・。


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