父親との思い出の曲
「あれ、この曲なんだっけ??めっちゃ懐しいんだけど。」
大学の売店で、流れていた曲に、つい耳を奪われてしまった。父親の車でよく聴いた曲なんだけど、どうしても思い出せない。
スキマスイッチのアルバムの一曲なんだけど、メロディーしかわからない。
研究室に戻ってきてから、スマホで「スキマスイッチ 冬の曲」と検索をかけた。たぶん、大学の売店はこの時期、冬の曲を流していると思ったからだ。
「おっ、冬の口笛ってタイトルの曲がヒットしたぞ。」さっそく聴いてみよう。
イヤホンをつけて、その曲を耳に流す。「これだー!これこれ。」
この曲を聴いていると、目頭がじわっと熱くなった。そして、研究室で一人、こっそりと涙ぐんでいた。父親の車の思い出が、蘇ってきたから。
いろんな場面で、この曲流れていたよな。
家族で外食を食べに、店に向かう時。
高校の部活の送り迎えの時。
不機嫌になって、車内で寝ていた時。
土砂降りの雨の中で、退屈そうにしていた時。
それらの記憶が、鮮明に思い起こされた。
父親は、威厳のある人ではなかった。
頼りないと感じる時も、よくあった。
「会社がブラックだ、ブラックだ」と言いながら、毎晩お酒を飲んでいたのを思い出す。
家に帰っても母親に言われたい放題で、完全に尻に敷かれていたと思う。
そんな、弱そうな父親だった。
だけど、父親は仕事のストレスを家族にぶつけることは、けっしてなかった。
とにかく優しい父親だったと思う。
誰かにキレるところを、ほとんど見たことない。何回かイタズラしすぎて、怒らしてしまったけど。
大人になるにつれて、父親は、本当は強い人なのではないかと思うようになった。
人にやさしくできるのは、心が強くないとできない。
厳かな雰囲気はなかったけど、内に秘めた強さを持っていた人だったと思う。
このスキマスイッチの「冬の口笛」という曲は、そんな父親との思い出を呼び起こす。だから、この曲を聴くと、思わず涙が滲み出てしまった。
父親は一年前に還暦を迎え、白髪の数もだいぶ増えた。精強さは、さらになくなっていたけど、内なる強さは相変わらず変わらない。年末に帰省した時に、そう感じた。
自分もそんな強さを持った人でありたい。
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