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イギリスにEating or Heatingの冬が来る 悲しむのは生活のことかもしれない

訃報が流れてから、何人もの日本の友人から「イギリスではみんな悲しんでるみたいだね」「これまでにない雰囲気でしょう」と言われた。
ああそうなんだ、とあまりピンときてなかった。

日本では、バッキンガム宮殿周辺の映像を中心に、盛大に訃報が報じられていたようだ。
イギリスとアメリカの違いがよくわかっておらず韓流ドラマを唯一の楽しみとして地方で暮らす私の母ですら(「グラナダが映るかもしれない」ともいって)テレビ画面を凝視している、と妹が言っていたくらい、イギリスに注目したらしい。

たしかに訃報が流れたその夜、街中のサイネージが一斉に女王の肖像写真になった。
BBCではずっと追悼番組をやっていた。
空手の試合では、何人かの人たちが喪章をつけたりしていた。
葬儀の日はさすがに多くの店舗が休業になり、町が静かだった。

しかし。
ロンドンから遠く離れた私の住む街と、私の知る範囲の人びとは、まったく通常どうりだった。
いつもどおりにパブも営業しており、老若男女が路上でも飲んで騒いでいる。
葬儀の日ですら一部は営業していた。
あちらこちらで派手な音楽も流れていた。
大喪の礼と病に伏してそこに至るまでの世の有り様を知る者からしたら、イギリス人も興味深いけれど、日本人の方がもっと興味深い、とすら思った。

庶民からしたらそれどころではなく、何から何まで物価が上がり生活コストの上昇がまさに「生存の危機」とすらいっていいほどだ、という話の方がよほど悲しい。
Eating or Heatingという言葉をあちこちで目にしたり耳にしたりする。
食べものをとるか暖房をとるか。
冬を越すのにどちらも必要なのだが、食費やら光熱費やらすべての生活費が爆上がりしている現状がこのまま続いたら、なにかを削らなくてはならなくなる。
EatingもHeatingも生きながらえてこの冬を越すために、必須ではないか。
各方面でのストライキも次々に計画実施され、連帯の動きも各地で起こっている。

そうはいってもしかし。
食料品をはじめとした生活必需品に消費税がかからない。
野菜や果物や肉や乳製品は、日本よりも安い。
簡単な作業アルバイトの時給も12£(約2000円)は軽くいく。
食糧自給率が40%を切り、10年以上まったく収入が上がっていない日本よりは、よっぽどましかもしれない。

円はどんどん安くなり、2年前にイギリスを訪れたときには感じなかった「高い」というストレスを、支払いのたびに感じている。
私の部屋の電気代は、この10月からいきなり3倍になった。
3£(約500円)の紙コップコーヒー、一個4£弱(約660円)の白飯おにぎり、15£(約2500円)のなんてことないラーメンなどを尻目に、貧しい国から来た者として細々と暮らしている。

日本はとっくに経済大国なんかではない。


写真:マンチェスターの中心街、訃報の夜(2022年9月8日)


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