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KENさん【毎週ショートショートnote風】

KENは世界的な俳優だ。
デビュー作品の映画「忍者ラブレター」が大ヒットして世界中に忍者ブームが起こった。
第二作の「親切な暗殺」も大ヒットして彼は莫大な財産を築いた。

一躍世界的俳優となった彼は高級外車を乗り回し、銀座で毎晩若いもんを連れてどんちゃん騒ぎをしていた。
彼は下戸だったが本当に酔っぱらっているようにバカ騒ぎをした。
帰りは自分で運転して帰るのだが、ちょくちょく接触事故を起こした。
人身事故は一度もなく学校の塀や壁にほんの少し、かする程度のものだった。



KENの葬儀は派手だった。
お寺の門をくぐると両脇には派手な和服を着た銀座の綺麗どころが整然と並んで参列者を迎えた。
周りには数えきれないくらいの豪華な供花が飾られた。

テレビ局のアナウンサーが参列者にインタビューをしていた。

「うちの店の女のコは全員交通遺児なんです。みんなKENさんの紹介で、ママこのコ使ってやってくれないかなと言って一緒に支度金も用意してくれて…」

「うちのような小さな修理工場がやってこれたのはKENさんのおかげです。
月に1度くらい車に傷をつけては、親父悪いけど急ぎで頼むわと言って、急がせたからと余分に修理代金を払ってくれました。」

「うちの養護学校は塀がボロボロだったんです。そこへKENさんがほんの少し車で接触した程度だったんですけど、塀をすべて新しく作り変えていただきました。」

「うちは小さな呉服屋ですけど、毎月のようにKENさんから注文があって、あそこの店の誰誰が誕生日だから着物を作って届けてくれと…」

「うちは小さな花屋ですけど、今まで続いているのはKENさんの注文で毎晩何軒かのお店に花を届けているためです。今日の花もKENさんが俺が死んだら一番いい花を数えきれないくらい飾って欲しいと、生前にびっくりするくらいの額の前金を預かっていました。」

「うちは…」

「うちは…」


「奥様、恥ずかしながら私は今までKENさんのことを誤解していたようです。一言で言ってKENさんはどんなお方だったんでしょうか?」

「不器用なひとでしたね(笑)」

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