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【115】読み切り短編小説 「半笑いのポッキーゲーム」(1232文字)

横浜市内某公立高校 文化祭

僕はこの学校のサッカー部員だ。
副キャプテンの三浦は高校サッカー界のスーパースターだ。彼の力で全国優勝することができた。
僕は3年間補欠だったがサッカーの戦略戦術には抜群に長けていた。

三浦はいつも僕の戦術を取り入れ、僕にゲームプランを立てさせ、常に僕を立ててくれたので、他のチームメイトも自然に僕には一目置くようになった。


「次は、部活対抗ポッキーゲームです。参加する部活は男女4名の代表者を出して下さい」

お祭り男の武田が三浦とマネジャーの麗子とりさ子に声をかけた。
武田が得意だった強引なドリブルのように話をまとめた。

先頭の武田からりさ子に輪ゴムが渡り、りさ子から三浦に渡った。
あとは三浦から麗子に、ポッキーとポッキーが近づく…

麗子のことが大好きだった僕は複雑な気持ちだった。
僕は半笑いでそれを見ているしかなかった。
一体誰がこんなゲームを考えたんだ。
僕は、ポッキーゲームの発案者とグリコを恨んだ。



「ピピーッー!」
生徒会役員でこのゲームの審判役の北澤がホイッスルを吹いた。
「全員ストップ、ただいま、サッカー部でハンドの反則があったようなので、VARで検証します」

北澤はそう言うとスマホの画面を眺めて、2回頷いた。
両手でVARのジェスチャーをして、左手首の下あたりを右手で叩いた。

そして胸のポケットからレッドカードを取り出し三浦に突きつけた。
三浦は頭を抱えながら僕の方へやってきた。

「退場になっちまったから、悪いけど選手交代してくれ」
三浦はそう言うと、僕の背中を押して麗子の前に連れて行った。

「サッカー部は選手交代で、先程からの続きを行います」北澤がそう言って、ゲームが再開された。
僕は緊張して、なかなか麗子に輪ゴムが渡せなかったが、この時間がとても嬉しかった。僕はポッキーゲームの発案者とグリコに感謝した。

ようやく麗子に輪ゴムを渡し終えた時は全チームが終わっていてみんなが僕たちに注目していた。

「いいチャンスだから、告っちゃえ」
武田がそう言うと、「告れ!告れ!」の大合唱になった。
「シュート、打たなきゃ入んないぞ」
三浦がそう言うと、麗子が半笑いになった。

「僕で良かったら、付き合ってください」

あとで聞いた話だが、実は麗子も僕のことが好きで、それをうすうす勘づいていたりさ子が三浦と武田と北澤に相談して、あのポッキーゲームのシナリオを考えたらしい。
僕は彼らのトラップに見事にハマった。

30年後

僕が自宅のリビングでくつろいでいると、スマホが鳴った。

「…はい、お引受けさせていただきます」

「誰?」

「日本サッカー協会会長から、次期日本代表監督をやってくれって」

「へぇーすごいじゃない、おめでとう!」

「それから、マネージャーによろしくって」

「三浦君、いまだに私のことマネジャーって呼んでるの?」

「あーあ、俺のこともいまだにキャプテンと呼んでくるし(笑)」

窓の外に目をやると、あの文化祭の光景が蘇ってきた。

青く澄んだ空を赤とんぼの群れが飛んでいった。

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