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【114】読み切り超短編小説「融通の利かない店」(657文字)

「申し訳ありませんが年齢確認のできるものを提示していただかないと割引ができないのです」

レストランのレジ前で、年配の婦人と店員が何やら揉めている。

「証明するようなもの、持ち合わせてないのよ。何とかならないの」

「免許証、パスポート、健康保険証、マイナンバーカード、なんでもよろしいので…」

「困ったわね…」

そこへ店長がやって来た。

「お客様、いかがなされました?」

「私ね先程から60歳以上だから、シルバー割引で10%安くしてとお願いしているんだけど、こちらの店員さんが証明できるものがないと割引できないとおっしゃるのよ。」

「お客様、それは失礼致しました。でも何か証明できるものがないと割引できないシステムなんです」

「あなた、私がウソをついているとでも」

「いえ、ウソをついているとは思っていませんが、どうしても60歳以上には見えないものですから」

「まあ、そんなお世辞言っても私、引き下がらないわよ」

店長が客の耳元でささやいた。
「お客様、私も57〜58歳位の方が60歳だと言われれば大目に見る場合もあります。
ただし、明らかに40代にしか見えないお客様が60歳以上とおっしゃっられても、それは看過できないので、ご理解いただけないでしょうか」

「本当に融通の利かない店ね」
婦人はそう言うと満足そうに正規の金額を支払った。

「ありがとう、ございました」

「店長、あのお客様、3日連続でいらしてますけど、どうして年齢確認できるもの持ってこないんですかね?」

「いいんだよ、お前は次の4日連続でいらしたお客様のレジをマニュアル通り対応しろ」

(657文字)

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