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幼なじみのさくらと蓮加と後輩の菅原#7【最初で最後】

「そんなにぎゅーってしたら痛いですよ・・・」

大学から少し離れた休日のオフィスビルの屋上。

無意識に左腕を掴んでいた右手の甲に小さな手が重なった。

いつかの日と同じように。




〇:菅原?

咲:はい

〇:なんでここに・・・

咲:なんでって

咲:彼女特権でこないだGPSアプリ入れましたから


〇:えぇ!?

咲:ふふ、冗談です

咲:ほんとは蓮加さんとラインしてて先輩何も言わずにどっか行ったって言ってたから

咲:たぶんここかなって

〇:そうか・・・


咲:先輩は1人になりたかったんだと思いますけど

咲:私は先輩を1人にしたくなかったので


〇:いなかったらどーすんだよ

咲:そーですね。でもちゃんと見つけましたよ


そう言って正面からキュッと抱き着かれる。


〇:な;;どした///

咲:いいじゃないですか、私は先輩の彼女です



細くて柔らかい感触に包まれる。

付き合ってから初めての恋人らしいスキンシップに戸惑う。

この動揺は菅原にも伝わっているだろう。

そんなオレの動揺をかき消すように細い腕に力がこもる。



咲:付き合って一か月経ちますね・・・

・・・・・・

咲:そろそろ恋人っぽい事したいです・・・

・・・・・・


会う時間は増えたがまともなデートもした事が無い。

不安も不満もあって当然だ。

〇:そうだよな・・・


咲:はい、だから


咲:今からホテル行きましょう・・・

〇:はぁ;;?


咲:あっ、私の家でも。先輩の好きな方で・・・

〇:何言ってんだよ;;;


咲:何って・・・誘ってるんです・・・


咲:後で責任がどうとか言いません・・・


咲:少しの時間、私だけを見てくれれば・・・


咲:少しでも先輩の気が紛れれば・・・


咲:それでいいんです・・・

さっきからきゅうっと抱き着いてオレの胸に顔をうずめたまま言う。

ゆっくりと出している声はずっと震えている。


〇:菅原・・・


咲:はい・・・


〇:無理しないでいいから・・・

咲:無理なんかしてません・・・

〇:してるだろっ

咲:してませんっ!私がしたいんですっ!

声を震わせて、オレに自らを捧げようとしてくれる菅原。

今そういう関係を持つという事はただオレを慰める為だけのものだ。


〇:オレは・・・そういう事がしたいから菅原と付き合ってるんじゃない

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

咲:やっぱり私じゃダメ・・・ですか





・・・・・・

・・・・・・

〇:そういう事じゃなくて・・・


〇:今は違うだろ・・・


咲:そうですか・・・


菅原と付き合って1カ月。

それなりにうまくやれているつもりでいたけど、オレが見ていたのは表面化されているごく一部だったんだろう。

蓮加とさくらの事も含めて・・・

そうでなければ菅原がここまで思いつめる事も無かったはずだ。


〇:ごめん・・・

謝罪をすると菅原の両肩がキュッと上がって、喉がヒュッと鳴る。


〇:あのさ・・・オレ

咲:じゃあデートしましょう!!


〇:は、デート?

咲:はいっ、ホテルはダメでもデートならいいですよね

〇:あ;ああ・・・いいけど

咲:じゃあレツゴーです!!

〇:えっと;;どこに?


咲:どこって

・・・・・・

咲:あーどうしましょっか・・・

・・・・・・

咲:ちょっと待ってくださいね・・・

・・・・・・

咲:えっとどこがいいかな・・・

咲:うーん

咲:うぅーんん

既視感のある真剣に考えるムーブの菅原を見て口角が上がる。

そして体内でふつふつと湧き上がるものがある。

なんだか久しぶりの感覚だ。


〇:20秒以内な

咲:えっ;;;

〇:20、19、18、7、6

咲:えぇ、ずるいっ!えっと;;;

〇:4、3・・

咲:えっと;;;一緒にパフェとか!!食べたいです!!

〇:パフェ?

咲:はい、カフェでパフェ

・・・・・・

咲:あっ、先輩はそーいうの好きじゃないですよね;;;

〇:いや、そーじゃなくて;;;デートってそんなんでいいのか?

咲:えっと・・・

咲:はい、そういうのがいいです・・・




  






咲:あ、あそこいい感じですね

普段歩かない通りを敢えて選んで歩いていると、遠くに木の温もりがあるオシャレな佇まいのお店を見つける。

〇:ん、あれカフェ?美容院じゃね?

咲:えー、カフェですよ。ほら黒板みたいの出てるし

〇:美容院も出てるだろ

咲:じゃあ、勝負です

〇:は?

咲:勝ったほうの言う事なんでも聞くって事で!

オレの返事を待たずにパチッとウィンクを決めてトトトとかけ出す。

〇:いや待て待て;;;


ふうっと一息吐いてから歩調を早める。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

ひと足先にお店の外に出ている黒板を確認した菅原がドヤっと振り返る。

どうやらオレは負けたらしい。



咲:ふふふ、何してもらおっかなー

勝負するなんて言った覚えは無いんだが、楽しそうな菅原の表情には勝てそうもない。




どう見ても美容院の面構えをしているカフェで菅原と並んで座る。

いわゆるカップルシートというやつか。

オシャレカフェのする事は分からん。

それにしても大学で並んで座っているのと距離が違いすぎる。

そして強烈に意識してしまうのは菅原の匂いだ。

外で抱きつかれた時は驚きと柔らかい感触にやられて分からなかった。


分かりやすい甘さの奥に穏やかで丸みを帯びた優しさを感じる匂い。

安心するというかなんというか・・・

当然だが蓮加ともさくらとも違う。

ああこれは菅原だなと納得する。

さすがにこんな事を伝えるわけにはいかないが;;;


咲:なんか・・・恋人っぽいですね///

〇:そうだな///


隣で顔を赤らめる菅原を素直に愛おしいと思う。

これからは余計な事は考えずに菅原と素直に向き合おう。

蓮加もさくらもきっとそれを望んでいる。


〇:あのさ、前から思ってたんだけど

〇:付き合ってるんだし敬語無しでよくない?

咲:え、ちょっとハードル高いです;;

〇:そうか?まあ無理にってわけじゃないけど

咲:じゃあ先輩だって、咲月って呼んで///


咲:って言ったらすぐ呼んでくれますか?

ああ///確かにちょっとハードル高いか///

妙に納得してしまう。


〇:えっと、徐々にって事で///

咲:そーですね///





咲:わぁ、可愛いぃぃーーー

運ばれてきたパフェに目をキラキラさせる菅原。

そーいえば蓮加もパンケーキ可愛いって言って写真撮りまくってたな・・・

思い出してつい口元が緩む。

咲:えっ、めっちゃ可愛くないですか?これ

〇:ははっ、可愛いって;;;

言ってる事は一緒だけど、喜び方もテンションも蓮加と違って・・・

やっぱり菅原だなぁ・・・なんて当たり前の事を考えてる自分が余計おかしくなってしまう。

〇:くくっ;;

咲:え、どしたんですか?

〇:いや、なんか菅原っぽいなって思ってさ、ははっ;;


・・・・・・

・・・・・・

〇:ん?


目を丸くしてこちらを見ている菅原と目が合うと、安心したように静かに微笑む。


咲:いえ・・・


咲:先輩が笑ってくれて嬉しかっただけです


〇:なんだよそれ;;






咲:あぁー、美味しかったぁー

〇:そうだな

咲:じゃあ帰りましょっか?

〇:デートってほんとにこんなんでいいのか?

咲:はい、大満足です!

咲:今日のデートずっと忘れません!

〇:大袈裟だな・・・


咲:あの、今からちょっとだけ先輩の家行ってもいいですか?

〇:ああ、オレはいいけど

咲:ちょっと蓮加さん達とお話したらすぐに帰りますから




咲:あの・・・さっきの勝負私勝ちましたよね

〇:ああ、なんでも言う事聞くってやつか。オレができるやつにしてくれよ


咲:はい・・・


咲:家まで手繋いでほしいです・・・



〇:えっ;;;いや;;;


咲:ダメですか?


〇:いや;;そーじゃなくって

〇:そんなんでいいのか?


頷くでもなくじーっとこちらを見つめる菅原。

勝負の意味なんてまるで無いじゃないか・・・

まあ、勝者の言う事は絶対だし・・・

菅原がそれでいいって言うなら・・・




咲:こういうのがいいんです・・・


菅原に触れると自分の心が温かくなる事に今更気づいた。








ーーーーーー

ガチャッ

〇:ただいま

さ:ん、お帰り〇〇

リビングでいつもどおりにしているさくらに出迎えられる。


咲:お邪魔します

さ:あぁー、さつきちゃんいらっしゃい。座って座って

さ:蓮ちゃーん、さつきちゃん来たよー


さくらが嬉しそうに声をかけると、これまた嬉しそうに蓮加が部屋から顔を出す。



蓮:おぉー、咲月デートしてきた?チューしてきた?

〇:あのな;;

咲:しませんよー、それにもうお別れする事にしました


〇:えっ!!

蓮:え、なになに;;ちょっと待って;;なんかあったの?

咲:いえいえ、これと言って何があったわけでもないんですけどねー

咲:今日デートしてみてやっぱ違うかなーって

〇:おい、菅原何言ってんだよ;;;

咲:いやー、ほんと短い間でしたけど、そんな事もありますよね

いつもの明るいトーンで突然そんな事を言う。

菅原の発言に理解がまったく追い付かない。

なんで・・・

さっきまでそんな事一言も・・・




さ:さつきちゃん本気なの?




咲:さくらさん・・・

さくらの強い視線を受け流しながら続ける。



咲:本気ですよー


咲:やっぱタイプじゃなかったていうか


咲:異性としては違ったんでしょーねー


咲:仲のいい先輩後輩みたいな方がしっくりくるし


咲:まあ先輩はずっと優しかったですけど


咲:なんか意地悪じゃない先輩ってなんか物足りないっていうか


咲:手繋いでも全然ドキドキしなくって・・・


咲:だから・・・



〇:菅原・・・・・

さ:さつきちゃん・・・




いつもの明るいトーンで喋り続ける菅原の目から、透明な雫が零れ続ける。



咲:あれ?

・・・・・・

咲:おかしいなー;;;

・・・・・・


咲:えっと;;;これは違うんです

・・・・・・

咲:私はほんとに;;;


涙を拭いながら間を埋めるように喋り続ける。






蓮:咲月・・・もういいから・・・・


蓮加が静かに寄り添うと、観念したように目を閉じて唇をぐっと噛む。


ひと際大きな雫が零れた。


【続く】




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