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幼なじみのさくらと蓮加と後輩の菅原#2【ずるい】

〇:おはよう、菅原。いつも悪いな・・・

咲:え;;;はい・・・えっと・・・おはようございます///

いつものように唯一気兼ねなく話せる後輩の菅原をいじった後に珍しく普通に挨拶をしてみると、意外そうにオレの顔を覗き込む。

・・・・・

・・・・・

〇:菅原?

咲:あ、はい;;;


〇:教室行くか

いつも通りに返事を待たずに歩き出す。

咲:もおぉ、待ってくださいよぉー




いつも通りオレが後ろの席を陣取るといつも通りに隣の席を陣取る。

月曜の1限は菅原と一緒だ。


咲:今日サークル集まります?

〇:あー、どーするか。蓮加はバイトって言ってたかな

咲:えぇーー

〇:蓮加に会いたいだけなんだな、ほんとに

咲:そんな事ありませんっ!さくらさんにもめっちゃ会いたいですっ!!

〇:はいはい・・・

〇:まあ、後でメシの時に決めるか

咲:はい、アリアリの方向でっ!!

講義前にいつものように確認される。


家では3人。

大学では4人。

そんな感じだ。


同じ講義を受ける事もあるが、それぞれの時間割があるので4人集まるのは昼とサークルの時間だった。

サークルはあったり無かったりだが・・・







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ここで菅原との出会いについて少し説明しておこうと思う。


蓮加とさくらとオレは大学で聖地巡礼サークルという地味活サークルに入っている。

いろんな作品の聖地をネットで見ながら、感想を言い合うというゆるゆるサークルだ。


蓮:ここのサークルにしよっ

蓮加が言い出したのがきっかけだった。

別にそこまで一緒じゃなくたってと思いつつ、他に入りたいサークルがあるわけでもない。

さくらもいつの間にか懐柔されていて・・・お決まりのパターンってやつだ。

オレ達が入った時点で3年の先輩が数人いるだけだったので、2年になる少し前には3人だけになってしまった。

そうなってからはなんとなくゆるゆると活動自体しなくなった。

ただ喋ってたり、課題やったり、本読んだり。

まあそんな感じだ。

一応サークルという肩書があれば授業終わりの教室を借りれるので大学内で部室のような空間が確保できる。

家でも一緒なのに必要なのかは分からないが、高校の放課後の延長みたいな雰囲気は悪くない。

先輩方には申し訳ないが、自分達の代で終わるんだろうなあと思っていた。



新入生を迎える時期になると学内が途端に色めきだす。

どの部活動も、サークルも、同好会も熱心に勧誘業務の準備にご執心だ。

みんなよくやるなあと思いつつ先輩方の手前、勧誘をしたという事実は必要だ。

頑張って勧誘したが結果が伴わず止む無く終焉を迎えた。

そういうシナリオだ。

そんなこんなで新入生の勧誘をする事になった。




サークル勧誘といえば大講堂前のメインストリートで迎えるのが定石だ。

だがしかし、やる気など微塵も無いオレは遠目からその光景を見守る事にした。

一通り勧誘され終わった新入生が通るか通らないかギリギリの位置を陣取る。

とりあえず2時間くらいここに座って人間観察に勤しむ、そういうお仕事だ。


大きくて活動も盛んなサークルは勧誘も熱心だ。

勧誘される側も楽しそうに話を聞いたり、チラシに目を通したりしている。

活気があって大変よろしい事だ。


中には多少強引と思われるものもあるが、大学なんてそういうもんだろう。

結果それで楽しいキャンパスライフが送れればウィンウィンだ。

そんなこんなで無垢な一年生が毒牙にかかる様子を観察していたんだが、複数人に囲まれている一人の子が目に入る。

本当に大学生だろうか、ずいぶん小さくて細く見えるけど。

普段から細い2人を見慣れているオレがそう感じるんだから、相当細いんだろう。

・・・・・・

・・・・・・

さすがにしつこいだろ

・・・・・・

・・・・・・

ちゃんと断ってるんだからそれくらいにしてやればいいのに

・・・・・・

・・・・・・

モヤモヤしながら注視していると、一人の男がその子の肩に手を回す。

いや、それはやりすぎだろ;;

周りに人はいっぱいいるのに誰もそれを気にも留めてない。

その子の顔が見えてないんだろうか、どう見たって怯えてるじゃないか!!

部外者もいいとこだが、この大学の秩序が乱れるのはオレも困る。

蓮加やさくらが同じ目に会うと思うと・・・



既に身体は動いていた。

椅子から立ち上がり駆け出して数秒、目を丸くしたその子がこちらを見ている事に気づく。

ん?

オレまだ何もしてないけど・・・・

なんだか口をパクパクしているが、それなりの距離があるのでよく聞こえない。

更に近づいていくと、肩に乗っかっている腕を自ら振り払ったその子が駆け寄ってくる。


咲:・・・・・すよぉーー


え?


咲:飛んでますよぉーー!!




指で示された後方に顔を向けると、申し訳程度に用意した20枚のチラシが綺麗に宙で踊っていた。

やべっ;;;


オーバーラップしてきたその子が視界に入ってきて散り散りになったチラシを拾い始める。

そんな様を見て慌ててオレも拾い出す。

何してんだオレは;;;





咲:ふうぅー。これで全部ですかね

〇:あー・・・

咲:あ、あっちにも

そう言ってテテテっと走ってチラシを拾って戻ってくる。



咲:はい

〇:・・・ありがとう

咲:いえいえ、こちらこそありがとうございます

そう言ってしっかりめなお辞儀をされる。

〇:ん?

咲:私の事助けようとしてくれたんですよね?

〇:あ;いや;;;

予想していなかった展開に反応に遅れてしまって否定もできない。

咲:あれ、違いました?

〇:違うわけじゃないんだけど

咲:じゃあ、やっぱりありがとうございます

助けられたのはオレの方なんだが・・・

・・・・・・

・・・・・・

〇:えっと・・・怪我とかはして・・・ないよね。大丈夫?

咲:はい、大丈夫です。先輩のおかげで

・・・・・・

・・・・・・

〇:えっと・・・

・・・・・・

・・・・・・

〇:もし興味あったら

どうしていいか分からずに、46秒前に受け取ったチラシをそのまま渡すと大きな目をさらに大きくする。

咲:えっ、斬新!!そーいう勧誘の仕方ですか?

〇:いやいや、そうじゃなくて;;;

咲:ふふっ、冗談です

キラキラと笑ってチラシに目をやる。


咲:へぇー、聖地巡礼ですか・・・・

〇:うん・・・


咲:なんていうか・・・力の抜け具合が伝ってきますね

〇:どうも・・・

それはそうだ。オレがネットで拾った画像に適当に文字を入れただけのチラシなんだから・・・

・・・・・・

・・・・・・

それでもチラシを持ったまま立ち去ろうとしない。


〇:えっと・・・もしかして興味ある?

咲:いえ、全然ないです!!

〇:はぁ・・・

咲:あははは

楽しそうにまたキラキラと笑う。

後輩に揶揄われてるのかオレは。



咲:先輩

〇:ん?

咲:サークルには興味ないんですけど・・・




咲:先輩にはちょっとだけ興味あります




そう言って顔を覗き込まれる。

なんだこれ;;;どういう状況?






蓮:おぉぉ、めっちゃ可愛い子捕まえてんじゃん

後輩の謎行動に戸惑っているところに蓮加が到着した。


〇:遅刻だぞ

蓮:起こしてくんなかったからじゃん

〇:何度も起こしたわ

蓮:知らなーい

〇:あのなぁ・・・



咲:えぇぇっ!!!、めっちゃ可愛いぃぃ!!

蓮:え、なになに

咲:あの・・・先輩の彼女さんですか?

蓮:はぁーい、彼女でぇーす

ニヤニヤと楽しそうな蓮加。





〇:違うだろ;;幼なじみだよ


咲:幼なじみですか・・・でも起こすって

蓮:同棲してるから

咲:ええぇっ!!!

〇:後輩を揶揄うなって;;ルームシェアだよ;;;

咲:ルームシェア・・・一緒な気もしますけど・・・



蓮:ねえ、聖地巡礼サークル興味ある?

咲:はい、めちゃめちゃ興味あります!!入ります!!

〇:おいっ;;;

興味があるのは蓮加だろ。






さ:ごめんねー、遅くなっちゃった

〇:いや、すまん。問題なかったか?

さ:うん、大丈夫だったー

勧誘するにも大学に申請が必要だったんだがオレがすっかり失念していた。

その辺フォローに回ってくれていたさくらも合流する。


咲:えぇっ!!!、めっちゃ可愛い!!

ん、デジャヴか?


咲:もしかしてこちらが先輩の彼女さん・・・ですか?

さ:ええぇっ///違う違うよ;;;幼なじみです///



咲:幼なじみですか・・・えっ、もしかして同棲してます?

さ:ええぇっ//////同棲って;;;;

〇:だからルームシェアだって;;;

咲:ええぇぇぇぇ!!!

蓮:あはは、3人で同棲してんのよ




ニヤニヤの蓮加と真っ赤なさくらの間からむうっとした後輩の顔が飛び出てくる。


咲:先輩っ!!

〇:な、なんだよ;;;

咲:さすがにずるいです!!

〇:はぁ?





随分と特殊な勧誘の仕方だが、我がサークルにも一人の後輩が加入する事になった。

菅原との濃いめの出会いはこんな感じだ。






^^^^^^


1限の講義が終わって菅原と別れる。

〇:んじゃ、後で学食で

咲:はい、・・・ふふ

〇:どした?

咲:いや、また今日もカレーかなって

〇:いいだろ。好きなんだから

咲:それは知ってますけど。いつも一緒で飽きないんですか?

〇:一緒じゃないぞ、カツとかチーズとかほうれん草とか

咲:トッピングの話じゃないです;;

〇:ん?

咲:だって毎日じゃないですか

〇:土日は違うぞ

咲:だからそーじゃなくって;;;どんだけ意地悪なんですか;;

〇:はは、ごめんごめん

いつも予想通りの反応をしてくれる菅原が見たくてついいじってしまう。



〇:ここの学食カレーは最高だから

咲:まあ、美味しいとは思いますけど・・・

咲:たまには他の食べてみたいなーって思わないんですか?

〇:全然思わない、寧ろどんどん好きになってる

咲:こわっ。どんだけ一途なんですか

〇:いいだろ、別に菅原に迷惑かけてないぞ

咲:それはそーですけど


〇:だいたいさくらだって大抵カレーだろ

咲:さくらさんはいいんです!!可愛いからっ

〇:なんだそれ、さくらだけずるいぞ

咲:しょーがないじゃないですか。先輩は可愛くはないんですから。意地悪だし


ふくれっ面で肩をツンツンついてくる。

〇:へーへー、そーですか

咲:もちろん蓮加さんも何食べててもいいです!!

〇:言うと思った・・・








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カチャッ

部屋の扉が開いてリビングで過ごす一人の時間が終わりを告げる。


〇:おはよ、んっ;;;


土曜のタックルは少し重い。



【続く】




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